猫と僕らの結婚前夜

167.猫と彼女の偏差値と(前)

 朝になって、木曜日。


 ちょっと早く目が覚めて――


「性欲、強いですね~」

「こ、これは性欲じゃなくて……」


 ベッドで彩ちゃんといちゃいちゃしてたら。


「きゅっきゅ~」


 どらみんが、僕の顔にお尻を押しつけてきた。


「うぶ、うぶぶぶ……」

「どらみんは、本当に光君のこと、気に入ってるんですね~」

「きゅ~♪」


 本当に、気に入られてるんだろうか……


 それから朝食の時間になってリビングに行くと、彩ちゃんのお父さんに聞かれた。


「あのさあ。昨日の探索って、録画してた?」

「してたみたいですよ。さんごが、内緒でドローンを飛ばしてたみたいです」

「へ~。全然、気が付かなかった」

「透明化してたんでしょうね。僕も、言われるまで築きませんでした」

「じゃあさ、昨日の動画、もらってもいいかな? 異世界あっちで上映したいんだよ」


 と言われて頭によぎったのは、小田切さんの顔だった。イデアマテリアじむしょの知らないところで流布される動画があるのは、不味い気がした。


 というわけで、メッセージを送ってみると。


 光:実は昨日、彩ちゃんと僕とさんごで異世界に行って探索したんですけど、その時の動画を、異世界限定で公開してもいいですか?


 小田切:さんご君から聞いてる。彩ちゃんのお父さんに会いたいから、今日、都合のいい時間がないか聞いてくれる?


 というわけで、お父さんに聞いてみると。


「いつでもいいよ。夜の6時から後なら」


 という回答で。


 小田切:では19時頃にお邪魔します


 ということになって朝食である。


「はい、どうぞ。うちは朝にいっぱい食べる主義なのよ~」

「彩は、夜もアホほど食うけどな」

「やめてよ、お父さん……あんぐあんぐ」


 お父さんに弄られながら、彩ちゃんは卵とキムチと納豆とツナ缶をかけたどんぶり飯を平らげた後、今度はなにもかけてないご飯を、ソーセージとスクランブルエッグにどばどばケチャップをかけたのと味付け海苔をおかずに、どんぶり3杯食べた。


「今日はビール飲まねえのか」

「今日は仕事なの!」

「なんだつまんねえ」


 これでビールまで飲んだら相撲取りの朝食である。いや、会話の流れからすると仕事がなければ飲んでるのか……


 僕も彩ちゃんほどではないけど、どんぶり飯を2杯食べてお母さんに褒められた。だいぶ後で分かったことだけど、彩ちゃんはいつもなら6杯食べていて、このときは僕がいるからセーブしていたらしい。


 朝食が終わると、学校に行く時間になった。

 さすがに、一緒に投稿するわけにはいかないから、彩ちゃんは自転車。


「行ってきま~す。ではまた後で~」


 僕は、駅までお父さんの車で送ってもらうことになった。


「じゃ、俺らも行こう」

「はい!」


 お父さんの車はアウディのクーペで、なんとなく、これはお母さんの方の趣味なんじゃないかなあと思ってたら、お父さんに聞かれた。


「ぴかりんさあ、なんか俺に聞きたいことあるんじゃない?」


 そりゃ、いっぱいありますけど……例えば、お父さんは異世界で王様をやってるそうだけど、こっちの世界ではどんな仕事をやってるのかとか。アラフィフみたいだけど、実際は何歳なんですかとか。


 でも、そんな疑問は枝葉末節に過ぎなくて、まず聞くべきことは、もっと別にあって……そうだ。


「異世界から来てる人って、結構いるみたいなんですけど……お父さんは、そういう人達との交流ってあるんですか?」


 OFダンジョンで出くわした異世界人によると、こちらの世界と異世界で、行き来する組織があるらしい。僕みたいな一般人が知らないところで、2つの世界の繋がりは、確かに存在しているのだ。


 お父さんも、その繋がりに関わっているのではないかと思ったのだけど……


「ないな」


 という答えだった。


「バルダ・コザともそうだったけどさ。俺には異世界あっちの人間と、こっちの世界で会えない『制約』がかかってるらしくてさ。なんていうか……こっちに来た異世界あっちの人間を見張ってる組織……みたいなもんがあるらしいってのは薄々感じてるんだけどさ。そういう連中が俺の目の前に現れるってのは、なかったな。でもさ……」


 でも?


「俺が関わってる会社や人間の近くで、不自然に死んでる奴が時々いてさ。新聞やテレビの誰かが死んだってニュースを見て『ああこいつ、俺を追ってたんだな』って思うことがある。俺がこっちの世界に持ち込んだ異世界の匂いみたいなもんを追っかけてさ、それでなんかあって死んで……死んだから、俺の目にそいつの名前が写るのが許されたんだなって思うことがある」


「それが『制約』ですか……祖父ちゃんのことも、思い出せなかったんですよね?」


「ああ。だから……本当なら、ぴかりんとも会えなかったかもしれないんだよな。でもこうして会ってるってことは、俺の『制約』は俺かバルダ・コザが死ぬまでって制限付きだったのかもしれねえな……ぴかりんは、異世界あっちの人間と会ったことあるんだっけ?」


「はい。2回、会いました」


「俺も、これからはそういう奴らと会うことになるのかもな」


 お父さんが言って、車が駅に着いた。


=======================

お読みいただきありがとうございます。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、

フォローや☆☆☆評価、応援などよろしくお願いいたします!

コメントをいただけると、たいへん励みになります。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る