115.猫がノリノリで指揮します

 ロータリーの僕たちのいる陸橋とは反対側に、ブロンズ像がある。

 SNSで話題になることも多い、母子像だ。


 その脇に立ち、ゲラム=スピ――偽カレンはこちらに背中を向けていた。


「鳥は、ゲラム=スピの一族がその徴として用いる概念だ」


 王子が言ったのは、母子像の母親の手にとまる鳥のことだろう。母子像が話題になるのはあの鳥がツイッピーのマークに似ているからで、ツイッピーの運営が何かやらかすたび、その写真を貼って批判が行われるのだ。


 しかしいま、鳥がいるのはそこだけではなくなっていた。


fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』『fejギョゥ!』


 乳白色の、ボールに羽と嘴を生やしたような『鳥』が、ロータリーの上空を埋め尽くしている。


 あまりに異様な光景だけど、そもそもそれを含んだ駅前の光景そのものが異様だった。既に夕方だ。時刻は、18時を回っている。通勤客や買い物する人で混み合い、車が道路を行き交ってる――そんな時間帯なのは、地元も東京も変わらないはずだ。


 なのに、それが無かった。


 代わりにいるのはごつい黒塗りの車と、ヘッドセットを着けたスーツの男達。駅の入り口やロータリーに降りる階段、道路の要所要所から鋭い視線を走らせてる彼らは数十人いて、ほとんどが日本人だ。でも千葉で見たような金髪サングラスも――目が合うと笑顔でサムズアップされた――昨夜と違って、ずいぶんフレンドリーな態度だけど。


 さんご:偽カレンを追い、彼らもまたここで何かが起こると察知したんだろう

 さんご:もっとも、カレンと揉めた君がここで講習を受けてるという情報があれば

 さんご:その答えに辿り着くのも難しくはなかっただろうけどね


 ふむ――息を吐いて、王子が声を張り上げた。


fdjhfsdkjfギョィエギギョギギャ!」


 がらんとした駅前に、王子の声が響く。

 しかし――


「ふむ。私が名乗っても、あの鳥どもの剣呑さは変わらずか――どうやら迎えに来た、というわけではなさそうだな……やる気か? ゲラム=スピよ」


 眉をひそめる王子に、さんごが言った。


 さんご:ひとつ頼みたいことがあるんだけど


「何かな?」


 さんご:この星のシステムからのヘイトを、ちょっと引き受けてほしいんだ


「ヘイト? 引き受ける?」


 さんご:ちょっとやりたいことがあってね

 さんご:でも光たちのスキルでは難しいし、かといって僕のスキルを使ったら

 さんご:この星のシステムとコトを構えることになってしまいそうなんだ

 さんご:だから、異邦人エトランゼである君のスキルを拝借したいのさ


「構わんが――それで何がしたい?」


 さんご:結界を張る


 さんごがそう言った途端、駅前にある何もかも――道も建物もスーツの男たちも全てが虹色に包まれ、更に次の瞬間、密着する透明な膜に覆われていた。


「お、お、おおおおお……これは王家秘伝の、私にも、いや誰にも発動することすら能わぬ始原にして極限、究極の結界術…………まさか流刑地であるこの『終わりの星』で目にすることが叶おうとは!!」


 さんご:これで人にも物にも被害は出ないだろう

 さんご:さて、個別吸着型結界の次は

 さんご:広域魔力断絶壁だ


「おお! あの古の!」


 喜色に満ちた顔で、王子が空を見上げた。

 僕らも見た。


 巨大な、円盤が浮かんでいた。


 どれくらいの高さだろう。分からない。でも、街を覆いつくすほどの大きさなのは分かった。次第に降りてきて、近づくほどに透明さが増していく。やがてそれが円盤ではなく円筒なのだと分かった頃、駅前はおろかさっき食事したレストランのある辺りまでもが巨大な壁と天井の中にあった。


 さんご:『ヴェフェ』だっけ? 君たちの、魔力を集めるスキル――

 さんご:でもこれで、ほとんど無効化できたはずだ


「どういうこと?」


 さんご:さっきから、魔力が震えているだろう?

 さんご:それで、分かった

 さんご:『ヴェフェ』とは、この震えを使って

 さんご:広い範囲から魔力を運んで集めるスキルなんだ

 さんご:でもいま結界で壁を作ったから、運んできた魔力はそこで阻まれ

 さんご:奴は、結界の中に残った魔力しか使えなくなった

 さんご:それを使い切ったら、奴にはもう何も出来なくなる


「んん? だったら、もっと小さい結界の方が良かったんじゃない?」


 さんご:ばかだなあ、光

 さんご:それじゃあ、僕らの使う魔力まで無くなっちゃうだろ?

 さんご:さあみんな、あれを起動してくれ


「おう!」「うん!」「はい!」「待ってました!」「きゅー!」


 全員が、朝さんごに渡された眼鏡――MEGANEを着用する。


 僕と神田林さんと彩ちゃんの分は、さんごが大塚太郎に手配してもらって今朝受け取ったもの。そして王子とどらみんの分は、さんごのお手製だった。


 陸橋に並び、僕らは叫んだ。


「「「「機装展開メック・オン」」」」


 金属の輝きが、僕らの全身を包む。


 |機械式拡張型包括強化育成服《Mechanical Extended Gather Augmented Nurture Equipment》――MEGANE。


 大塚太郎いわく、純地球産の装甲強化服パワードスーツだ。


 さんご:結界を張ったから周囲に被害が出ることは無い!

 さんご:つまり、明日の講習が中止になる可能性も無くなったということだ!


 そうかなあ……


 さんご:さあ! 派手に行こうじゃないか!


 さんごの声と同時に、偽カレンが僕らを振り向いた。



 さんご:彩はここで王子を守ってくれ!


「了解! うっひゃあ。あぁがるぅ~~~っ!」


 さんご:パイセンは光の補助


「はい!」


 さんご:光は、ブチかませ!


「分かった!」


 そう返事をしながら、僕は思い出していた。さんごと始めて会った夜の、ゴブリンとの戦いを。あの時、端的に言ってさんごはノリノリだった。そして今のさんごも、その時と同じくらいノリノリだ。


(さんごは、こういうのが好きなんだろうな……)


 MEGANEの装甲は頭部までカバーしている。目の部分まで金属だ。でも外の景色は鮮明に見える。ただ視界のあちこちに僕にはよく分からない数値が表示されていて、それさえ無ければ装甲があるのに気付くことさえ出来ないだろう。


射撃With雷シワック!」


 偽カレンに放った雷の弾丸は――


fejギョゥ!』


 銀の鳥に阻まれた。


射撃With雷シワック射撃With雷シワック射撃With雷シワック!」


fejギョゥ!』

fejギョゥ!』

fejギョゥ!』


 連打しても、やはり同じだ。

 すると背後から、神田林さんの声。


「エアステップ・自在!」


 触れた場所に透明な足場を作るのが『エアステップ・自在』だ。足場は簡易的な盾や、相手の動きを阻む障害物としても使える。


 そして最近の神田林さんは、触れないでスキルの効果を出す訓練をしていた。それによって進化した『浸透殺』で、離れた場所からモンスターの内蔵を痛めつけるのは、UUダンジョンで見た。もし――


『エアステップ・自在』にも、同じことが起こってたとしたら。


「これとこれ! 使って!」


 言われて僕は放つ。 


射撃With雷シワック!」


 雷の弾丸を、またも銀の鳥が阻もうとするのだけど――


feijギョギッ!』


 弾丸に追いつく前に、逆に銀の鳥が阻まれた。

 透明な壁――空中の足場に。


 訓練によって、神田林さんは触れてない場所にも足場を作れるようになっていた。そればかりか、足場を組み合わせることによって、透明な通路を作ることさえ出来るようになっていたのだ。


 銀の鳥を跳ね返し、弾丸を偽カレンまで届ける通路を。


fdsjfshdギョーーーーーム


 まっすぐ飛んできた弾丸を、偽カレンは手の平の魔力で跳ね返した。

 しかし次の瞬間、その横顔を。


「ふんっ!」

 

 空中から飛び出し、僕は上から殴りつけたのだった。


===========================

お読みいただきありがとうございます。


さて、偽カレンとのバトル開始です。

さんごのお陰で、街が破壊されるのは避けられたみたいですね。


次回は、光もこれまで学んだスキルを使って奮戦します。


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