168.猫と僕らの結婚計画(後)

「初めまして。イデア・マテリアの小田切と申します……」


「おお~。彩からはお名前、聞いてますけど。そういえば、会うのは初めてですよね」


 今日、小田切さんが来たのは、異世界で撮った動画の扱いや僕らの結婚式のこともあるけど、なにより彩ちゃんのご両親に挨拶するためだった。


「本来なら、彩さんと契約する際にご挨拶にうかがうべきだったのですが、遅くなってしまい、大変申し訳ございません……」


「ま、いーから。多分、それ、俺のせいだから。俺にかかってる『制約』のせいでさ『俺に会いたいんだけど会えない!』って奴は結構いるから。あんたが気にすることはないし。それよりほら、飲んで飲んで飲んで~」


 挨拶が終わったら、次は僕らの結婚の話だ。


 お父さんが言った。


「けじめだよね。主に気持ちの問題だから。でも法律的にもさあ。ちゃんとしたいんだよね~。少なくとも、小田切さんはそうでしょ~?」


「はい。どの子もしっかりしていて、ついつい忘れそうになってしまいますけど、よそ様の娘さんを預かってるわけですから……それがみんな、内縁の妻の状態なのを、納得出来る理由もなしに放置は出来ませんから」


「そうだよね。うん。実はさ、うちの奥さんは異世界出身なんだけどさ。『タラシーノ』って国なんだけどさ」


「タラシーノ……」


 やはりというか当然というか、その国名の響きに、小田切さんは思うところがあるらしい。


「でさ、タラシーノって国も日本と同じで一夫一妻制なんだけど、そこの国を作った『『イーサン・ド・スケベーヌ1世』ってのには3人奥さんがいたらしいんだよ。でも法律的には問題なかったって」


「スケベーヌ……」


「だからその『イーサン・ド・スケベーヌ1世』のやり方をこっちの世界で真似したら、なんとか出来るんじゃないかと思うんだよね」


「……その、やり方とは?」


「うん。さんごがなんとかしてくれるって言ってた。な! さんご!」


 お父さんが言うのと同時に、リビングの入り口を見れば――


「うん! まかせて!」


 彩ちゃんのお母さんに抱かれ、どや顔するさんごの姿があった。


「イーサンは3つの名前を持ってて、その名前を使って、3人の妻と結婚したんだ。これを日本で再現するなら――これを見てくれ!」


 さんごが言うのと同時に飛んできた何かが、テーブルの中央に着地した。


 数は3つ。


 それは――


「「「「「マイナンバーカード!?」」」」」


 だった。


「光の戸籍を、東京と名古屋にも作った。つまりいま日本には、この街の光と東京の光と名古屋の光――3人の光が存在するんだ! これを使えば、彩もパイセンも美織里も、光と結婚できるよ!」


 ストレートに非合法だった。

 でも、美織里達にはどうでもいいことだったらしい。


「あたしは、この街の光ね!」

「では私は、名古屋の光君で~」

「私は……東京の光くん」


 気付けば、3人の僕の割り当てが決まっていた。


「じゃ、光が18歳になったら日本こっちでも結婚するってことで! 乾杯!」


「「「「「かんぱ~い!」」」」」


 美織里の音頭でみんなが乾杯する横で。


「「かん……ぱい」」


 僕と小田切さんも、乾杯した。



 そこからは、単なる宴会だった。


 メイン料理は、昨日、異世界で狩った大鬼蜘蛛オーガスパイダー――巨大な花咲蟹だ。


 昨日感じたとおり、身が締まってジューシーで蟹味噌も濃厚。美味しさに変わりはなかったんだけど……


 いざ食卓に並べてみると、思わぬ欠点が指摘された。


 まずは美織里。


「美味しいことは美味しいんだけどさ。蟹を食べる醍醐味? みたいなものがないっていうか……」


 お父さんも。


「そうそう。やっぱ蟹はさ、足を持って身を掻き出すっていう、そういうのがないとな……」


 彩ちゃんからも。


「蟹味噌も、甲羅から直接すすって食べたいところですよね――そうだこれ、甲羅酒も出来ないじゃないですか」


 そういうことなのだ。


 大鬼蜘蛛オーガスパイダーは巨大で、だから普通の蟹みたいな、足や甲羅から直接口に運ぶ食べ方が出来ない。身も蟹味噌も、いったん器に出して、それをスプーンですくって食べるという食べ方になってしまうのだ。


 もちろん、美味しさは普通の蟹以上で、そんな欠点を補って十分以上なんだけど、でもちょっと寂しくなってしまうのは確かなのだった。


 しかしそこへ、パイセンから打開策が出た。


「昨日の探索の動画、見たんですけど……大鬼蜘蛛オーガスパイダーの小さいのも、いましたよね? あれなら、なんとか普通の蟹みたいな食べ方も出来るんじゃないかと……味がどんなかは、知らないですけど」


 すると続けて、さんごが言った。


「おいしいよ!」


 これで、全てが決まった。

 つまり――


「よーし、じゃあ次はみんなで異世界あっちに行って、大鬼蜘蛛の眷属こいつの小っさいの、狩っちまうか~!」


「「「「「おお~!!」」」」」


「「お、おお……」」


 そういうことになった。


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