173.猫と結婚式の衣装合わせ(前)

 月曜の夜――


 東京から帰って小屋に入ると、メッセージが届いた。


 彩父:日取りが決まった

 彩父:結婚式、次の木曜日


『MTT&ぴかりん結婚式』という、僕らの結婚式のために作ったチャットグループだ。


 彩父:MTTは衣装合わせするから来てくれって

 彩父:明日、異世界へ


 MTT?


 光:僕は、行かなくていいんですか?


 衣装合わせなら、新郎も衣装合わせする必要があるのではないだろうか?


 彩父:ぴかりんはいらないってさ

 彩父:男は、腰に布を巻くだけだから

 彩父:全裸に

 彩父:十分だろ

 彩父:セックスするだけだし

 彩父:でも来てみたら?

 彩父:なんかあるかもしれないし


 なるほど。異世界の結婚式は、神殿で新郎新婦がエッチなことをするというものだ。だから、男性は腰布だけで問題ない――ということなんだな。


 むりやり自分を納得させて眠りにつき。

 翌日の朝、僕とさんごは彩ちゃん宅に向かった。



 駅前で美織里達と合流して、小田切さんの車で彩ちゃん宅に向かう。


「パイセンは、結婚式のことご両親に話したの?」


 僕の問いに、パイセンはどこか自嘲的にも見える笑みで答えた。


「……言ってない、というか……言って理解できると?」


「出来ないだろうねえ……」


 娘に彼氏が出来ただけでなく『異世界』で『結婚式』なんて、説明する方も大変だけど、説明される方が理解するのはもっと大変だろう。


 パウチの栄養食を飲みながら、美織里が言った。


「説明する必要ないんじゃない? こっちの戸籍とか法律とはまったく関係ないんだし。うちもなんにも言ってないけど、問題ないいいでしょ――いいよね? 小田切さん」


「うん……まあ、そうなんだけどねえ……式の内容が知られたら、ちょっと不味いからねえ……成人して、こっちでも結婚するまでは内緒ってことで……ことでいくしかないわね」


 と、小田切さんの答えが歯切れ悪いのも当然だろう。異世界の結婚式とは――


「「(ぼそっ)早く、エッチしたいね」」


 両側から、美織里とパイセンが耳打ちするまんまの内容だからだ。


 結婚式では、僕は彩ちゃんと美織里とパイセンの3人とエッチなことをするのだ。もちろん、1人1人別々にだろうけど――だよね?


 不安になって、膝に抱いたさんごを見ると――


「ふみゃあ」


 さんごは、あくびするだけで何も答えてはくれなかった。



「よーし、いくかあ!」


 彩ちゃん宅に着くと、挨拶もそこそこに異世界へ行くことになった。


 目の前の空間に、透明な水のカーテンみたいな揺らめきが現れる。


「さあ、行きましょう! 光君!」


 彩ちゃんに手を引かれてカーテンを通り抜けると、そこは異世界だった。


「うわー、こういうの、アニメで見たことあるよねー」

「……そうですね。でも、もっとかび臭いかと思ってたんですけど、そうでもない……いや、儀式に使うなら、清潔にされてて当然……いやでも、異世界ものでありがちな言うことを聞かない召喚対象を暴力で従わせたりということがあるなら、血の汚れとか……(ぶつぶつ)」


 美織里とパイセンは、初めての異世界にそれぞれ反応している。


 すると――ばたばたばた。


「おおおおおっ! 彩様ぁあああ! 光様ぁあああ! お待ちしておりましたぞぉおおお! おおっ! そちらにいらっしゃるのは、みおりん様とパイセン様ぁああああ! 私、タラシーノ国の宰相にしてMTTガチ勢パイセン担のガ=ナールと申しますぅうううう!!!!」


 小走りで現れたガ=ナールの暑苦しさに。


「へぇえ……」

「うわぁ……」


 やはりそれぞれに反応を見せる美織里とパイセンの後ろから、現れた彩ちゃんのお父さんが言った。


「『鑑定』なんてかけるんじゃねーぞ(笑)」


「いやいや龍吾様! そのようなことは、もうしません! 光様! その節は大変に失礼なことをいたしました! 改めて平に! 平にお詫び申し上げますううううううう!!」


「いえ、その……気にしないで下さい」


 初対面の時、ガ=ナールの部下が無断で僕に『鑑定』をかけて、さんごが激怒するということがあったのだった。


「では、別室に衣装合わせの準備をしておりますので、移動をお願いします。本日は、こちらにおります私の姪が皆様のお世話をさせていただきます」


 手招きされてガ=ナールの影から現れたのは、清楚な感じのする長身の女性だった。


「ローゼと申します。なんなりとお申し付けください」


 ローゼさんに連れられて彩ちゃん達が移動し、残るのは僕とお父さんとガ=ナールだけになった。


 衣装合わせが終わるまで、僕は待つだけか……もともと、僕は来なくていいって話だったし。


 でも、異世界はそんなに甘くなかった。


 ガ=ナールが、言ったのだった。


「では衣装合わせの間、光様には式の作法を説明させていただきます。おーい、マゼル!」


「はい、お父様」


 呼ばれて現れた女性に、僕は戦慄した。


 彼女が、とてもエッチな格好をしていたからだった。


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