211.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(9)

Side:彩ちゃん


「洞木せんせ~い。こっち! こっちよお! こっちこっちい。来てえ~!」


 蒲郡先生に呼ばれていくと、バーベキュー場では、男鹿高校探索部の結団式が行われていた。合宿の最初に一丸となって気合いを入れようというミーティングだ。


 列を作った生徒達の前に、顧問やコーチと思しき探索者服姿が何名か。それを斜め後ろから見守る位置に更に何名かいて、蒲郡先生がその端に並ぶ。


「ちょっと待っててくださいね」


 こちらの生徒達――池田さん、沼袋さん、玄田君を待たせ、私も蒲郡先生の横に並んだ。


 いま話してるのが、おそらく顧問なのだろう。


「本日は7名パーティーで探索! 単独探索資格を持たないメンバーがいる第1、第2パーティーには俺と井上コーチが同行! 第3パ-ティーは生徒のみの探索となる予定だったが、××高校探索部のみなさんが同行することになった! まだ初心者とのことなのでしっかりケアするように! 第3パーティーリーダー宮本! 頼んだぞ!」


『はい!』と声が返ると、満足そうに笑いながら生徒達を見回し、顧問が言った。


「それでは、××高校探索部顧問の蒲郡先生から、ご挨拶を頂きます! 蒲郡先生――お願いします」


 呼ばれて出て行った蒲郡先生は……


「みなさ~ん。はじめましてえ。××高校探索部のお。顧問のお。蒲郡ですう。今日はあ。みなさんと一緒に探索させて頂けることになってえ。とっても光栄でぇす。私もお。あそこにいる池田さんも沼袋さんも玄田君もお。木曜日に初心者向け講習を受けたばかりで、本格的な探索は今日が初めてなんですよお。とっても緊張していまあす」



 いつも通りの蒲郡先生だったのだけど、それが不味かった。


「木曜日って一昨日じゃん」「本当に初心者なんだー」「逆にやりやすいかもよ?」「初心者で、下手に知識あるほうが危ないよねー」「しっかりケアしてあげないとねー」


 最初は『大丈夫かよ……』と緊張の面持ちを浮かべていた男鹿高校の生徒達が、みるみる緩んだ空気に呑み込まれていく。


「みなさんの足手まといにならないように頑張りますけどお。迷惑をかけちゃったらごめんなさいねえ。ああ、そうそう。今日は一緒にコーチの洞木先生も来てくれてるんだけどお。知ってるかしらあ。プロの探索者でえ。頑張ってる人なのお。彼女も一緒に探索してくれるからあ。皆さんの参考になることもあるかもしれませえん。よろしくお願いしまあす(にこにこ)」


「「「「「よろしくお願いしまーす(にこにこ)」」」」」


 緊張感を持たせるためのミーティングが、台無しである。初心者である我々を嘲笑うような態度が見られないのが逆に驚きで(こいつらマジか!?)と訝しんでしまうほどだったのだが……それにしてもだ。


(不味いですねえ……)


 我知らず唇を歪めると、困ったようにこっちを振り向いた男鹿高校顧問と目があった。何か縋れるものを探すようなその目に、私は頷く。


「(こくり)」


 すると激しく首を振って、彼も頷いた。


「(ぶんぶん)」


 となればこうなるのは、当然だった。


「蒲郡先生、ありがとうございました。それでは、××高校コーチの洞木先生からも、ご挨拶いただきます――洞木先生、よろしくお願いします!」


 私が前に立つと、すっかり緩みきった生徒達から「彩ちゃんだ」「マジ彩ちゃん」「ぴかりんと付き合ってるって本当かなあ」「可愛い」「顔ちっちゃーい」ひそひそ声が漏れる。


 足下を踏み直し、私は言った。


「初めまして! ××高校探索部コーチの洞木です! 本日は男鹿高校探索部のみなさんの合宿に参加させて頂き、ありがとうございます。急なお願いを受け入れて頂き、恐縮する次第です! 我々××高校探索部は、この夏から活動を始めた新参の探索部であり、本日みなさんとご一緒させて頂く部員達も、先ほど蒲郡からもお話しました通り、本格的な探索は本日が初めての初心者です。私もプロの探索者として活動はしていますが、部活動としての探索は経験が無く、生徒達ともども、みなさんから大いに学ばせて頂こうと思っています。よろしくお願いします!」


「「「「「よろしくお願いします」」」」」


 生徒達から声が返ったのだが――もう一度。


「お願いします!!」


「「「「「お願いします!」」」」」


 さっきよりは大きい声だったが――もう一度。


「お願いします!!!」


「「「「「お願いします!!!!」」」」」


 さて、仕上げだ。


「『勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし』! 探索で事故を起こしたときには、必ず理由があります! 逆に事故なく帰ったときには、不思議しかありません――不思議と事故に遭わず帰って来れたに過ぎない! このダンジョンは私も潜ったことがあろますが、モンスターのレベルはそれ程でもない。フィールドの地形も迷うようなところがなく、遭難する可能性も少ないでしょう。しかしこんなダンジョンでも、事故に遭う奴は遭うし、死ぬ奴は死ぬ! 事故に遭わないためには不断の注意と、普段からの学びを愚直に実践するしかありません! そのことを心がけ、全員が無事に探索を終えられるよう気を引き締め! 頑張りましょう!」


 言いながら1人1人を睨めつけると、生徒達がぴりりと緊張していくのが分かった。大学時代の私だったら、ここで4,5人にビンタして更に活を入れ、それでまだ腑抜けてるような奴がいたら足腰立たなくなるまでボコボコにするところだったが、今日は、そこまで求められていないだろう。


「以上!」


 挨拶を終えて振り返ると。


「「「(ふるふるふる……)」」」」


 男鹿高校の顧問やコーチ達が、目玉を震わせ視線を泳がせていた。


 もしかして……求められてる以上にやってしまったのだろうか……だろうな。


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