211.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(8)

 再び、UUダンジョンに向けて走り出した私達だったのだが。


 こんな呟きによって、すぐまた停止を余儀なくされたのだった。


「おでん天ぷら串……」


 ぼそっと放たれた声に、聞き逃せないものを感じて、私は訊ねた。


「『おでん天ぷら串』……なんなんですか? それは。名前からして美味しそうですよね~。どこで食べられるんですか?」


「う……おで、おで……」


 口ごもる玄田君から聞き出したところによると、次のサービスエリアの名物らしい。


 これは、食べないわけにはいかないでしょう――一応、多数決を取ると。


「「「……(しゅたっ)」」」


 池田さん、沼袋さん、玄田君――三人とも、無言&クイックに手を上げた。というわけで、30分ほど走ったサービスエリアで再びの休憩をとることとなったのだった。


『おでん天ぷら串』とは?


 3年ほど前に現れたこのサービスエリアの新名物で、鰯のすり身を挟んだはんぺんとゆで卵とチーズを詰めた竹輪を串で刺し天ぷらにしたという、聞くからに酒のつまみ適性が高そうな一品で、そんなものをサービスエリアで出してどうするのかと問い詰めたくもなるのだが、これに甘辛い味噌だれと青のりをかければ、たちまち酒飲みばかりか子供舌にも対応した甘辛じょっぱい味わいに。


「「「「んまーい!」」」」


 さて、ここで気付いたことがある。


 私達を見下ろす上空に、西部劇の転がる草タンブルウィードめいた、透明なもやもやが漂っていた。


 思うところあり、それに見せつけるように『おでん天ぷら串』を掲げてみると。


『……(ごくり)』


 なにやら唾を飲んだように感じられる蠢きが、そこに生じていた。続けて口をぱくぱくさせ、声に出さず聞いてみる。


「(た・べ・た・い)?」


 すると今度は。


『……(うん)』


 蠢きが、首肯する。


『もやもや』の正体と、その剥こうに誰がいるのか分かった気がして、私は売店に戻り『おでん天ぷら串』を10本購入。そしてそれを、最近さんご君に貰ったリストバンド型ストレージに収めたのだった。


 それから化粧室トイレで歯に着いた青のりをチェックし(その間に玄田君が輩めいた集団に絡まれるというトラブルはあったものの)、私達は再度出発。1時間も経たず、UUダンジョンに到着した。



 UUダンジョンでまず行ったのは、小田切さん達が着いてないかの確認だ。


 受付の職員(20歳くらいの男性)に訊ねたところ、


「あー、オレ、担当じゃないんっすけどお。受付ここ、ずっといたしぃ。なんかー、そういう人お。来なかったっすねえ。ちょっと待っちゃいますけどお。担当はあ、大久保さんなんすけどお。呼びますけどどうしますかあ? そっちのソファーで待っててくれたらあ。すぐ来ると思いますけどお」


と、表情かお口調こえは最悪なのに言ってることはまっとうかつ親切な答えが返ってきて『ぐぬぬ』となりつつ、


「すみません。じゃあお願い出来ますか」


とソファーで待ってたら、


「これえ。飲んでてくださいよお。あー、コーヒーの方が良かったっすかねえ。オレ、静岡出身なんすけどお。これえ。親が送って来たお茶でえ。けっこういいのっぽいんでえ。飲んでみてくださいよお」


とお茶を出してくれたりして(しかもそれが夏に外から屋内に入ってすぐ飲むには丁度良い温度で)、ますます『ぐぬぬ』となってしまったのだった。


 そんな感じで待つこと5分。

 件の若い男性が、こっちにやって来て。


「いまー、電話あったんすけどお。なんか蒲郡さんって人があ。洞木さんって人が来たらあ。すぐゲートに来るようにって言っててえ。さっきい。名前え。洞木さんって言ってましたよねえ。そうなんじゃないすかあ? そうならあ。大久保さんがまだ来ないっぽいんでえ。この紙になんか書いたらあ。オレが渡しとくんでえ。それでいいんならあ。蒲郡さんって人お。なんか急いでったっぽいんでえ。行っちゃった方がいいんじゃないっすかねえ」


 ぐぬぬ……お言葉に甘え、私がUUダンジョンここに来て探索してることを小田切さんに伝言してくれるようお願いしたメモを、男性に渡した。


「あー、これならあ。小田切さんって人にい。直接伝言した方がいいっぽいんでえ。小田切さんって人お。イデアマテリアっすよねえ。それ関係の人が来たらあ。オレが言っとくんでえ。それでえ。大久保さんにもお。このメモ渡しときますからあ。どっかからはあ。伝わる感じになるんじゃないっすかねえ」


「(ぐぬぬ)……ありがとうございます。よろしくお願いします」


 男性に礼を言って、私、玄田君、池田さん、沼袋さんの順でゲートを潜った。先に更衣室で着替えてたので、装備は問題ない。地元のダンジョンはどこも洞窟型だが、UUダンジョンここは違う――


「「「うわあ……」」」


 始めて潜るフィールド型のダンジョンに、3人とも驚いてる様子だった。


 洞窟型と違って、UUダンジョンここみたいなフィールド型ダンジョンに壁はない。代わりにあるのは空で、光を日光と錯覚させる。感覚として近いのはサファリパークだろうか。もちろん、棲むのは動物でなく、モンスターなのだが。


「さて、蒲郡先生はどちらでしょうね~」


 ゲート前の光景は明瞭で分かりやすい。視界の前方には草原。右側にはレストラン。そして左側にはバーベキュー場が見えた。


 声がしたのはバーベキュー場からだ。


「洞木せんせ~い。こっち! こっちよお!」


 そこには、満面の笑みを浮かべて手を振る蒲郡先生の姿があった。


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