220.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(17)-3

Side:美織里


 C4Gアメリカ時代、あたしはダンジョン&ランナーズ事務所から推されていなかった。というか、他のメンバーの添え物以外の役割を許されていなかった。


 だから、動画からはあたしが活躍した部分は概ねカットされ、他のメンバーと同時攻撃した時はあたしが映ってる部分だけトリミングされたりもしていた。


 蒲郡先生が見せたのは、その原盤――カットもトリミングもされていない映像が、流出したものだったのだ。


『逃げるぅ? あんた、誰にもの言ってるか分かってんの!? 殺ルしかないでしょ! いくわよ!『サンダーインフェルノストーム・ツバイ!』』


 この映像は、確かアリゾナ砂漠の地下ダンジョンで魔力溜まりで以上成長したワームドラゴン。全高20メートルの大物で、パーティーのレベル的には強すぎる相手(あたし1人なら楽勝)だった。


 確か、この時のあたしは14歳で――


『ふふふっ! 煉獄の雷撃がワームドラゴンおまえを喰らいつくす!』


――あたし史上、もっともスタイリッシュにイキってた時期だった。


「「「「「へえ……」」」」」


 ああ、イケオジ達の生暖かい視線がこそばゆい。


『ぎゅおおおおおおおむ!!』


 あたしの一撃でワームドラゴンは身体のほとんどを失い、その後、それを見て他のメンバーも攻撃を開始する……のだが、公開された動画では『その後』より前がカットされていた。


 イケオジが言った。


「このモンスターの、脅威度は?」

「1700です」

「「「「「ほお……」」」」」


 あたしの答えにイケオジ達が頷き合い、周囲に声をかけ、改造車集団が撤収を始めるまではすぐだった。


「「「「「「「チ~~~ズ」」」」」」」


 最後にイケオジ達と写真を撮り、これで改造車の方は片が付いた。


「ありがとうございした、先生」

「いいのよお。で、あっちの人はどうするの?」

「とりあえず、話してみます」

「じゃ、私も」


 あたしがラーメンデブの方に向かうと、当然のように蒲郡先生も着いてきたのだが、断る理由もないだろう。


 すると。


「あら~、いま着いたのね~」


 駐車場に、新たな一団が現れた。でもこれは、問題ない。近所のホテルに宿泊していた男鹿高校の生徒が、ダンジョンへ避難しにきたのだ。


「そうだ! 玄田く~ん。いらっしゃいよ。あなたもラーメン好きでしょ~?」


 と、男鹿高校に紛れていた我が校の探索部員、玄田牛一――通称『チー牛』を、蒲郡先生が手招きする……のだが。


(え!?『ラーメン好きでしょ?』って、そういう話!?)


 あたしがラーメンデブのところに行くのは退去するよう話をつけに行くだけで、別にラーメンを食べにいくわけではないのだが……いや。


 考えの途中で、あたしは思い出す――蒲郡先生のスキル『シュリンク』のことを。自分の望んだ結果が出るように偶然を起こすあのスキル。もしかしたら、男鹿高校の避難がこのタイミングになったのは『チー牛』にラーメンを食べさせるため? いや、そもそもラーメンデブがいまこの駐車場にいること自体、深夜にラーメンが食べたかったから――蒲郡先生が、そう望んだから?


 いやいやいや。


 ラーメンデブは、光に文句を言うためにここに来たのであって、決して、ラーメンを食べさせるためではないのだ。そんな準備が――


「すいませ~ん。ラーメン、頂けないかしら~」

「いや、準備はしてるけどさあ」


――あったらしい。


 混乱するあたしを置いてけぼりにして、チー牛を連れた蒲郡先生が、さっさとラーメンデブのところに行って話しかけていた。


「あら、じゃあ何時から? これって屋台なんでしょう? 何時から販売を始めるのかしら」


「確かに俺ら、ラーメン食わすために来たけど、あんたらにじゃないから! 販売するとかそういうのじゃねえから! ぴかりんに食わせるためだから! 俺のラーメンがどれだけ美味いか教えてやるためだから!」


「あら、ぴかりんって春田君のことよね? 春田君って、いま探索してるのよ? 約束はしてるのかしら?」


「し、してねえけど!」


「だったら駄目じゃない。あなた、どこかでお店をやってるのよね?」


「あ、ああ……」


「じゃあ、私があなたのラーメンを食べて、どんな味だったか春田君に伝言するから。それで興味を持ったら、春田君もあなたのお店に行きたくなるんじゃないかしら――そうね! それがいいわ!」


 いや、だったら伝言するだけで良くて、あなたがラーメンを食べる必要はないじゃないかとか――そんな突っ込みをはさむ余地など見付からない蒲郡先生のトークの勢いであり、強引さだった。


 あたしもここで会話に加わる、というか割り込む。


「あんたが『麺やくろさき』?」


「……そうだ」


「あたしは光の彼女っていうか、光に絡んでくるんだったら、当然、それくらいは知ってるよね? いまここって、ダンジョンブレイクの恐れってことで退去勧告が出てるから。いますぐ出てって」


「『恐れ』だろ? 実際、起こってから逃げ――」


「モンスターはね、あそこの建物の入り繰りからここまで2秒で来る。あんた2秒で車を出して、逃げられる?」


「……っ」


「ていうか、死ぬけど? 車に乗ることさえ出来ずに」


「…………っ」


 さて、もうひとビビらせ・・・・・・でイケるかな――と思ったときだった。


 蒲郡先生が言った。


「まあいいじゃない春田さん。帰ってもらうのは、ラーメンを食べてからでも」


「「!!」」


『くろさき』の、目が変わった。

 狂人を見る目だった。


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