169.猫が異世界の思い出を話します(後)

 小田切さんの車に乗って――


 パイセン、僕、美織里の順番で家に送ってもらった。


 美織里が引っ越したマンションがどんなかは気になるけど、まずは明日の追試だ。


 時計を見れば22時。

 ちょっと勉強して1時頃に寝ればいいか。


 勉強――さんごを撫でながら寝転んでプリントや教科書に目を通してたら、あっという間に24時。


「どうしたの?」


 さんごが大人しいので聞いてみると。


「ちょっと思い出してたのさ。異世界のことをね」


「相棒のこととか?」


「そうだね。僕にトレンタという名前を付けたのは、彼女・・だ。貴族の娘で、僕は彼女のひ孫が独り立ちするのを見届けて、宇宙への旅に出たんだ」


 ひ孫が独り立ち――ということは、その頃には、さんごの相棒だったという彼女・・は。


「ああ……懐かしいな。あのころ遊んであげた、メス猫たち……あれから、どうなっただろう?」


 そっちでしたか。


「それより光。君こそなんだかそわそわしてるみたいだけど?」


「うん……届かないんだよねえ。いつものアレが」


「ああ、美織里のエロ自撮りか」


 付き合い始めてから、毎晩、おやすみのメッセージと一緒に、美織里のエッチな自撮りが送られてくるようになっていた。


 最初は胸元をちょっと開けて見せるくらいだったのが、いまでは全裸に近くなっていて、胸を押さえる美織里自身の手が撮影の工夫で画面の外にいる誰かに胸を揉まれてるように見えたりなんて幇間のふすま芸みたいなことになってる写真もあった。


 それが、今日は送られてきてない……と思ったら。


「あ。パイセンからだ……え?」


 パイセンから、おやすみのメッセージが届いたのだけど、これも画像が付いていて……キス顔の自撮りだった。


「どうすれば……いいんだ?」


 僕も目を閉じて口をすぼませた、キス顔の自撮りで返信するべきだろうか。でも、そんなの絶対に黒歴史になるし、でも、送らなかったら送らなかったで『やらかしてしまったか……』と、自分だけキス顔を送って無視された形になるパイセンが、頭を抱えてしまうに違いない。


 どうしよう……


 悩んでたら、またメッセージが送られてきた。

 僕でなく、僕らのチャットグループへとだ。


 こういうメッセージだった。


 小田切:エロ自撮り禁止。キス顔もNG


 美織里……スマホをチェックされたんだな。そしてバレたんだな。毎晩、僕にエッチな自撮りを送っているのを。そして『パイセンも今度キス顔送るって言ってたし~』と口答えして、キス顔もNGになったのだろう。


 彩:食事中の自撮りはダメですか?


 という質問もあったのだけど。


 小田切:エロい食べ方する人がいそうなのでNG


 ということでNGになった。


 彩:食べ物の写真は?


 小田切:エロい並べ方する人がいそうなのでNG


 というわけで画像全般がNGになった結果、美織里から僕に送られてくるメッセージが、いわゆるおじさん構文のねちっこいものばかりになってしまったのだけど、それはまた後日のことだった。


 ●


 美織里のエッチな自撮りは、送られてきたらきたでドキドキして迷惑だけど、こないならこないでもやもやしてしまう。


 仕方がないので、健全に発散することにした。


 地下のさんごの工房に移動する。

 工房では、さんごが作った猫造猫アンドロイド――さんご隊が、深夜だというのに、パソコンに向かって作業している。


※以下、実際は『にゃ~ん』と発声しています。


『尾治郎チャンネルの『ベランダでがっつりハーブを栽培してみた』回、編集終わったにゃ!』

『冒険姫メリッサの雑談配信に荒しが大量発生! AIモデレータから救援要請がきてるにゃ!』

『おてもやんチャンネルの『町中華で飲んでみた』回、編集終わったにゃ!』

『どらみんチャンネルの『どらみんが大きくなりました』回、編集始めますにゃ!』

『マリアが突発配信始めたにゃ! ディレイ配信にして、余計なこと言ったら速攻で配信終わらせるにゃ!』


 忙しい彼らの邪魔にならないように、机の端に差し入れのチュールを置いて、僕は工房の一角にあるシューティングレンジに向かった。


 シューティングレンジは、どんな強力な攻撃も吸収できる構造になっていて、僕はここでスキルの練習をしている。


 今日は、昨日見た彩ちゃんの新スキルを真似してみることにした。


割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト


 1つの攻撃を分割して、望んだ複数の場所へ同時に叩き込む技だ。


 これがどういうことかというと――空中に、複数の標的を出現させる。


 それに向かって――


割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト!」


 僕が正拳突きをすると、ばらばらな位置にある標的が、同時に破壊された。


 一回の攻撃で、同時に複数の場所を攻撃する――『割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト』とは、そういう技なのだ。


割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト!」

割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト!」

割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト!」


 その後、何度か試してみたけど、真似は出来ても、発動までのスピードもその前の狙いを付けるスピードも遅い。彩ちゃんに比べると、0.1秒くらい――戦闘中なら、命取りになりかねない遅れだ。


 現時点で僕がこの技を使うなら、戦闘中でなく、戦闘の始まり――奇襲攻撃初手の目くらましだろう。


 その後練習に熱が入り、僕が眠りについたのは、午前2時を回る頃になった。



=======================

お読みいただきありがとうございます。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、

フォローや☆☆☆評価、応援などよろしくお願いいたします!

コメントをいただけると、たいへん励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る