163.猫が言うには低レベル(後)
光:ねえさんご。異世界って、もしかしてレベル低いの?
僕の疑問は、異世界に来る直前にした、彩ちゃん宅リビングでの会話まで遡る。
そこで、さんごは言った。
『彩の戦闘力は、異世界でも10指に入るレベルだ』
と。
それから、ついさっきも。
『過去300年間、この世界に君より強い人間は現れていない』
と。
僕の世界に、僕より強い人は、美織里をはじめとして何人もいる。
ましてや歴史を遡るなら、数え切れないくらいだろう。
でも
だったら、こう考えるしかない――異世界は、僕らの世界よりも強さのレベルが低いのではないかと。
そんな僕の疑問に、さんごはあっさり答えた。
さんご:そうだよ?
意外という他なかった。探索者が強いのはスキルがあるからで、それを与える僕らの世界のスキルシステムは、さんごが異世界で作ったシステムの、さんごが言うには劣化コピーに過ぎないからだ。
いわば、
さんご:指導する者がいなかったから――正確には、いなくなったからだよ
指導する者?
さんご:この世界のスキルシステムは、人間を始めとした生き物に、
さんご:しかし現在、
さんご:人間達のスキル習得には、
でも僕らの世界にも、さんご達はいないわけだよね?
さんご:人口と文明と民度が違う。PDCAサイクルが有意な規模で回り始める前に、国ごと滅びるのが、この世界の人間だ
さんご:データを蓄積しようにも識者(笑)の独自解釈や政治的配慮による改ざんは免れず、国や宗教による囲い込みで、知識層の交流も妨げられる
さんご:君達の世界にダンジョンが現れたのが、インターネットの普及後であったのは、奇貨と捉えるべきだろうね
さんご:話は逸れたけど、
●
話し合いの結果、ダンジョンへは20人ほどで潜ることになった。
そのほとんどは、ウ=ナールの部下で、並ぶ順番はこんな感じだ。
前衛:ウ=ナールの部下
中衛:ウ=ナール、僕、彩ちゃん
後衛:ウ=ナールの部下
これがパーティーの本体で10人ほど。
残りの10人はダンジョン常駐騎士団や地元の冒険者なのだけど、彼らは斥候や対策本部との連絡役として本体の前後の通路に散らばっている。
ダンジョンに入ると――
「ゴブリン発見、3匹」
前衛の部下からの声を。
「ゴブリンんんんん! 3匹ぃいいいい! 発見んんんんんん!」
ウ=ナールが、3倍大きい声で10倍暑苦しく復唱する。そのまま前衛を追い越し飛び出すと。
「うらぁあああ!! どりゃああああ!! うりゃああああああ!! 見ていただけましたか彩様あああああ!! 私のおおおお!!『剛剣』スキルをおおおおおおおおお!!」
ゴブリンを切り倒し、ドヤ顔で振り向く。
それを見て彩ちゃんは、むずむずと居心地悪そうにしていたのだけど。
「…………(ぼそっ)共感性羞恥?」
呟いて頬を赤くするのを、どう解釈したのだろう。
「ご安心くださぃい! 彩様のことはぁ! 私がああ! 護ってええ! 差ぁしぃ上ぁげぇまぁすぅううううう!(きらっ)」
ウ=ナールは、声と同じく力みきった笑顔で、白い歯を輝かせて見せるのだった。
確かにゴブリンを斬った剣技は力強く、鍛錬のあとが窺えるものであったのだけど……所詮はゴブリンだし。
「ぬわわわわわわわわっ!!」
と思ってたら何度目かの戦闘で、いきなりパニックに陥った。もちろんウ=ナールがである。ゴブリンメイジの放つ
とはいっても、甲冑の表面の油に火が付いたに過ぎず、その場でじたばたしてる間に火は消えたのだけど。
「ぬぉおおお! 小癪なああああっっっっ!」
醜態を晒した恥ずかしさで逆に冷静になったのか、今度は剣の腹で火魔法を受けて躱しながら、ウ=ナールはゴブリンメイジに肉薄。
振り上げた剣を、ゴブリンメイジに叩き付けようとした、その時だった。
「うりゃぁあああああ………………え?」
磨き上げられた、いささか装飾過多なウ=ナールの剣が叩き潰すはずだった、
それ――ゴブリンメイジの頭部が。
「「「「「え?」」」」」
同時に、ウ=ナールの部下達がそれぞれ向き合っていたゴブリン達からも、やはり頭部が消え失せて。
後に残ったのは、首から上を失って血を吹く、死体達――声がした。
絶句して振り向くことすら出来ない、ウ=ナールの背後で。
「じゃ、ここからは私と光君が前衛やらせてもらいますね~。試したいスキルもありますし~」
そう言う彩ちゃんの足下では、メイスが地面にめり込んでいた。
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