118.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(4)

Side:彩ちゃん


 OOダンジョンを出ると、事務所の車が待っていた。


 運転は川端さんで、彼女が言うところによると、小田切さんは事務所で不意の来客・・・・・に備えているのだそうだ。


 向かったのは探索者協会と契約してる病院で、1時間もかからず検査は終わった。

 結果は、全員異常なし。

 飲酒や熱いお風呂、激しい運動は禁止だけど、それも今日だけ。


 明日の探索実習には、参加して問題なしとのことだった。


 そして事務所に戻り、ミーティングをしてホテルへ。

 ミーティングはごくごく短いもので、議題はひとつ。


 明日の探索実習に参加するか、それとも辞退するかだ。

 

「いやいやいや、それって不味くないですか? 今回参加を辞退して、改めて受けた講習でまたアレに襲われたりしたら、アレと私たちが関係あるってことになっちゃうじゃないですか」


 私が言うと、小田切さんも頷いて言ってくれた。


「そうね。彩ちゃんの言う通りよ。私たちは何もしてないし何も知らないってことで。それに、どうせ何かあるんだから――実習中の事故ってことで、もろもろ協会に引っ被ってもらうとしますか」 


 そしていま、私たちはホテルのベッドにいる。

 私たちというのは、私とパイセンだ。


 昨夜は別々の部屋だったのだけど、何かあった時のため2人用の部屋をとり直してもらった。でも突然のことだったため、ツインの部屋が無くダブルになったというわけだ。


「火力が……足りないんですよね。逆に『浸透殺』はスピードが不足してるんですよ」


 美少女と同じベッドで語り合うのは、恋バナとかではなく今日のバトルの反省だった。


「『エアステップ』で障壁を作っても、数で来られると……魔力が足りなくて1つ1つの障壁の強度が弱くなっちゃうから。『浸透殺』は、狙いを付けるまでに時間がかかって逃げられちゃうし……数が多いとかいう以前に、高速で動く相手に通用しない」


 とパイセンは言うのだが、彼女が悲観するほどの酷い戦いぶりではなかったと思う。確かに『エアステップ』の障壁は破られ『浸透殺』は空振りに終わってたわけだが……


「でもパイセン、途中からちゃんと対応してたよね。障壁で回廊作ってたでしょ。私、あれ見て思ったもん。『なんか映画で見たわ~。三国志の映画で見たわ~』って」


 障壁で止めるのが無理だと分かると、パイセンは障壁の配置に気を配るようになっていた。あの『鳥』が通るコースに障壁で道を作り、私が迎撃しやすいように『鳥』を誘導してくれたのだ。真っ正面からではあっさり壊されてしまう障壁も、横から干渉する形で使う分には、十分な強度を有していたのだった――ということを私が指摘するとパイセンは。


「多分……同じ映画です」


 と、シーツで顔を隠してしまった。


「ヒントになりそうなことを……以前、誰かに言ってもらった気がするのですが……もう少しで思い出せそうな気がするのですが…………すう」


 そうしてパイセンが眠りに落ち。

 私の反省会が始まったのは、その後だった。


 今日のバトルを思い出す。


 襲い来る無数の『鳥』。

 それを私は、モーニングスターで迎撃した。


 盾のスキルも持ってるけど、広い範囲を守るなら、モーニングスターを振り回した方が確実だからだ。


 しかし――こめかみに触れると、やはりまだ痛む。MEGANE装甲服と探索者の耐久力をもってしてこれだから、スキル無しだったら死んでたかもしれない。

 

 こんな傷を負ったのは、私のモーニングスターの扱いの不味さゆえだった。



『鳥』の数も減り、戦いも終盤に入った頃――どらみんを見失って、私は慌てた。


 私の斜め後ろ1メートルの位置にいるよう指示して合間合間に目を遣ってたのだが、突然姿が見えなくなったのだ。


 しかし首を捻って探すと、見つかった。


「きゅはー! きゅはー!」


 どらみんはブレスで『鳥』を迎撃していた。

 それに夢中になって、私が指示したポジションから離れてしまったのだろう。


「はははは。いいぞどらみん! おまえは無敵だ!」


 王子に囃されて、調子に乗ってしまったのもあるに違いない。

 

 声をかけて位置を正せば、それで済むはずのことだった。

 しかし、それでは済まなかった。


 ドラミンの背中――王子に向かって進む『鳥』がいた。


 背後からの攻撃で、王子もどらみんも気付いていない。

 モーニングスターで叩き落とそうにも、遠心力が大きく、軌道を変えるのは難しかった。


「どぅああああああああっ!」


 気付くと私は身体を仰け反らせ、首を伸ばし、受け止めていた。


『鳥』を、こめかみで。



「おいで……おいで」


 部屋の隅で小さくなってる、どらみんに手招きする。

 

「きゅう…………」


 責任を感じて、ずっとしょげたままなのだ。


「いいよ。謝るのは、王子が沢山してくれたから」


 事務所に帰ってから『すまん! どらみんを叱らんでやってくれ!』とテーブルで土下座されてしまった。


 これでは怒るわけにもいかないし、もともと怒る気もなかった。


「言ったでしょ?――あれは頭突きしてやったんだから。やられたんじゃなくて、やってやったのよ」


 どらみんを胸に抱いて撫でてやると、彼は心地よさそうに喉を鳴らした。


「きゅう……きゅう…………」

「よしよし。どらみんは良い子だね……明日もよろしくね」


 すると――声がした。


「ぴかりん……光くん……好き……好き…………」


 パイセンの、寝言だった。

 思わず顔が赤くなり、私はシーツに潜る。


 思い出してしまったのだった。


『鳥』を顔面で叩き落とし、モーニングスターの勢いに逆らえずもんどり打って倒れた、その最中。


 ちらりと、見えたのだ。

 カレンの偽物と戦う、彼の姿が。


 そして、私は――


(あれが、欲しいな)


 そう思って、しまったのだった。


(いかんなあ……いかんですよ)


 彼は私の生徒なのだとか、そもそも彼にはみおりんという彼女がいるのだとか――そんな戒めは、ますます落ち着かなくなるだけだと知っている。


 だから私は、何も考えず眠りに落ちることにしたのだった。


(明日は、ちょっと早く起きて、パイセンとおめかししますかね)


 そう、心に決めて。


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お読みいただきありがとうございます。


彩ちゃんは大学の寮生を率いていた経験から、後輩の扱いには慣れています。王子に対して怒る気持ちが起きなかったのも、そういう経験からだったりします。


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