138.猫と久々の探索です(17)カレンの欲しかったもの

 美織里の新スキル――『芭蕉扇』


 それによって、数十を超えるOF観音が一瞬で壊滅した。

 後に残るのは、海から突きだした岩みたいな、穴だらけの白いオブジェ。

 

 それから、偽カレンを収めるOF観音が1体だけだった。


「引きずり出すのは、任せた」


 美織里は、そう言って後に退く。


『鳥』も『鎖』も残っていない。偽カレンのいるOF観音も、穴だらけの足と胴体以外は残っていなかった。


射撃With雷シワック


 雷撃の弾丸で打てば、胸の外殻が剥がれ落ち。


「……っ!」


 そこでは、偽カレンがこちらに両手を突き出している。放とうとしているのは『連鎖する鎖の因果チェーンリアクション』だろうか、それとも『不純なる水銀アマルガム』だろうか。でも数秒見つめ合っても、何も起こらなかった。


 ぼこり、ぼこり、と。


 偽カレンの周囲が盛り上がり、彼女を奥へと呑み込もとうする。


「鎖」


 僕はそれを、鎖で絡め取って逃さない。対抗する鎖は、出てこなかった。引きずり出した偽カレンを、僕は砂浜まで飛んで降ろした。


「…………」


 既に声もなく、身を捩ることすら難しそうな偽カレンの、僕を見る瞳にだけしか、力は宿っていなかった。


 そんな偽カレンの周囲に。


「ごおおおおむ」


 どらみんと、


「終わり終わり~」


 美織里が降り立った。


「この身体、凄まじく巧妙に壊されておるな。カレンの魂本体とのリンク以外、何も出来ぬようになっている――美織里。お前も、さんごと同じく情報生命体から進化した者なのか?」


 王子の言葉に「さあどうでしょうねえ?」と憎たらしく相手をイラッとさせる表情で答えて、美織里は言った。


「ねえカレン――聞こえてるわよね? これは病院で寝てる本体あんたに言ってるんだけどさ」


「…………」


「あんたが何を欲しがってるのか、あたしはだいたい分かる。でもあんたは、分かってないのよね? だから光を襲って、そして追いかけてこんなところまで来た」


「…………」


「正直言って、あたしは――あんたみたいな田舎者の考えてることは分かっても、気持ちは分からない……違うか。分かっても、寄り添うことは出来ない。だから、あんたに親切にしてやることは出来ても、親身にはなってやれない」


「…………」


「あんたが欲しがってるものを、あんた自身が理解出来てないのは、乗り越えようっていう発想すら浮かばないほどあんたに……あんたの自我に根付いている、モラルのせい。だってあんた、想像すらしてないでしょ――」


 偽カレンを抱き上げると、美織里は。


「!」


 目を見開く彼女の唇に、唇を合わせた。


「――自分が、友達とこんなことをしたがってるだなんて。こんなのは、誰だって通る、一瞬で通り過ぎる奴がほとんどの……本当に、誰にだってあることなんだろうけど。でも、それを裂けて、遠回りして、変なことになっちゃう奴だっている。でもそれも、よくあることで。ただあたし達が違ったのは、あたしたちがC4Gのカレンと美織里っていう、ちょっといない、特別に綺麗で可愛くて強い、特別な女の子達だったから。だからそう――あんたがこじらせちゃったのもよくあることで、本当に簡単なことなのに、それがちょっとだけ、大袈裟になっちゃったっていう、それだけのことなんだよね」


「…………」


 偽カレンのまぶたが、ゆっくり閉じられていく。


「さよならカレン。あたし分かったんだけど、まだあたし達、友達なんだよね。こういう友達もあるんだって、いま分かった――じゃあ、またね」


 ぽい、と美織里が放り出すと、砂浜に落ちた偽カレンは泡となって消えた。


 ふう、と息を吐いて美織里が言った。


「まあ、そういうことだから」


 というわけで、誰も美織里に異を唱えることなど出来なかった。


 メッセージが届いた。


 さんご:ちょっと来てくれないかな?

 さんご:君たちに、見てもらいたいものがある


 そうして僕たちは再び『丘の向こう』へと向かったのだった。



「さて、見て欲しいと言ったのはこれだ」


 合流した僕たちにさんごが見せたのは、洞窟の壁だった。


 魚の骨状に分岐した洞窟のにあたる場所の壁だ。


 他の場所と変わらず、滑らかな岩肌とへばりついたような土や苔があるに過ぎない――そう見えるのだけど。


「これは……基盤、みたいな?」


 魔力を見ることの出来る目を持っていれば、そこに膨大な情報が詰め込まれてるのが分かった。まるでスマホを分解して、中の基盤を見ているように。


「ダンジョンを構築する工作機械さ。ただ施工の途中で放棄されたからだろう。余計な情報が混じって融解している。でも王子には、これで十分なんじゃないかな?」


 そう、さんごが言えば。


「うむ」


 と王子が頷く。戦いを終え、どらみんは普通の大きさに戻ったけど王子とリュ=セムは人間サイズのままで、合流した時みんなに驚かれたのは言うまでもない。


「先ほど見た時も思ったが、私には、これで十分だ。私に、身の振り方を決意させるためにはな」


 先ほどというのは、さっき丘の向こうここを脱出する前、ちょっとだけ僕とはぐれていた時のことだろう。


 王子は言った。


「リュ=セム、そしてゲラム=スピよ。私は母国『バントラトラ』に帰るぞ」


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次回で第7章も終了です。


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