137.猫と久々の探索です(16)芭蕉扇
「だったらさあ。ここにある魔力がなくなるまで、ぶん殴ればいいってことなんじゃないの?」
美織里のサーフボードには、物をすり抜けて通過する機能がある。それを使って、ダンジョンの階層をすり抜けて2層の空から現れたのだ。
「王子~~~! 直で再びお会いできてこの『リュ=セム』、嬉しゅうございます~」
美織里にひょいと放られた、リュ=セム――女体化した僕のフィギュアが、王子の胸元に着地する。
「ほ、お、ふぉおおお!? こ、これは。これはなんということでしょう~~~!!」
すると何故か、おそらくどらみんを巨大化させたのと同じ力か何かで、リュ=セムも、王子と同じく人間と変わらない大きさになっていた。
ところで、驚きも一瞬で消えたというかどうでもよくなったみたいで――
「ふわぁあ。これが王子の身体! 生身! ふぉおおお。くんかくんか!」
王子の胸元に顔を埋め、リュ=セムは感極まった様子で匂いを感じている。
すると、王子も王子で。
「ははははは。リュ=セムよ。おまえの生身も良い心地だ。ほれ、顔を上げてみよ」
「!!」
リュ=セムの顔を上げさせると、キスをしたのだった。それは数十秒も続く、むさぼるようなキスで。
「ふわぁあ。王子……王子ぃ…………」
解放されたあとも、リュ=セムはとろんとした目で王子を見上げ、口をぱくぱくさせている。
「うむ! キスとは美味なものなのだな! よく分かった! この感情は感動と名付けてよいものだろう!」
再び2人がキスをして、終わるとまたキスをした数分間。『鳥』と『鎖』と新たに放たれるようになった腐食属性の攻撃を、僕は結界で防いでいた。
「いいじゃない。いいじゃな~い。ハニカム構造の結界って、光ってばいつからそんなの出来るようになっちゃったの~?」
「さっきからなんだけど……美織里は、スキルを使う時に輪郭っていうか枠っていうか……」
「概念構造体ね」
「そういう名前なんだ……美織里はそれが見えてるんだよね?」
「うん。見えてるし弄れる。こればかりは教えてもどうにもならないし――逆に、見えないまま自然にやってる奴がほほとんどね。まあ、天才っていわれるような奴らなんだけど。あたしも見える弄れるになってから、そういうのがあるって教えられた。教えることで、ナチュラルな天才を阻害する場合があるからって――
「なるほど……じゃあ僕は」
「ガンガン弄ってったらいいんじゃない? 変なことになりそうだったら、あたしやさんごが注意するし――で、そろそろいいわよね」
美織里は、僕らみんなを見て言った。
「みんな! 上に上がって――あたしより上に。もっともっと上に! じゃないと死んじゃうから!」
「「!!」」
比喩ではないのだ――美織里が死んじゃうといったら、本当に死んでしまうに違いない。僕とどらみんは、必死で美織里より高く、OF観音の大群が床に散らばった米粒みたいに見えるくらいの高さまで上昇した。
でも何故か、そんなに高くまで上がって離れても、美織里の声は耳元で囁かれてるようにはっきり聞こえるし、姿も間近で見ているようにはっきり感じられた。
「あたしの新しいスキルなんだけど、多分、
そう言うと美織里は、探索者ジャケットから片腕を抜いた。その下のレザースーツは袖が切り取られて、肘から先の素肌が露わになっている。
肘から先――美織里の前腕には、トライバルの入れ墨をもっと細かくしたような模様が刻みこまれていた。
模様は、まるで翼を広げた鳥のようで。
「
美織里が前腕をこすると、模様が浮き上がり、立体となって、前腕から分離した。
その形は、まるで――
「スキル名は――『芭蕉扇』」
畳ほどの大きさがある、巨大な
「そ~れっとぉ」
美織里がそれで扇げば。
『
『鳥』も『鎖』も、白い泡となって弾け飛び。
更にはOF観音も。
「
体表に沸いた白い泡に一瞬で奥まで浸食され、形を失う。
「あれは……『サミュレの風』!」
「かつて数多の
そんな王子達の声と同様、僕も呆然とするしかなかった。
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