36.猫が僕らを急かすのです

「う~ん……」


 困った。


 退院して、久々に小屋に帰った僕は。


 美緒里の会見を見て、困ってしまった。

 口噛み酒の件はともかくとして『付き合ってるも同然』というのは……

 

 正直、嬉しい。


 美緒里のことは好きだ。

『付き合ってるも同然』なんて言われて、嬉しくないはずがない。


 でも……どうしよう。


「何を悩む必要があるんだい? 美緒里は君にさかってる。君も美緒里にさかってる。いいじゃないか。交尾してしまえよ――僕は、2時間くらい外出してるからさ!」


「ちょっとさんご、交尾って直接的すぎるよ。僕が悩んでるのは、そういうことじゃなくて……」


「じゃあ、どういうことなんだい?」


「僕から告白するべきだったのに、美緒里に告白したも同然のことを言わせてしまって、いまさらどんな顔をして美緒里に好きって言ったらいいのか分からないんだよ……」


「適当に謝っとけばいいんだよ。『僕が先に言うべきだったね。ごめんね』とかさ。そう言って交尾してやればメスなんてそれで満足するんだから」


「ええぇ……さんごの恋愛観、殺伐としすぎぃ…………」


「そもそも、どうして君が先に告白しなきゃいけないのかが意味不明だし、根本的な部分で傲慢なんだよ! 君は! 好きだと言ってもらって嬉しいくせに詰まらない心の段取りめいたものに囚われてウジウジグチグチと……大体だね。『美緒里に告白したも同然のことを言わせてしまって』って、美緒里は普段から君への好意を明らかにしていて、それこそ告白したも同然の言動を日常的に繰り返していただろう!? それを『いまさらどんな顔をして美緒里に好きって言ったらいいのか分からない』って、いまさら何を言ってるんだ! 君は! まず謝罪だよ! 謝罪! これまで美緒里の好意から目を逸らし続けてきた自分について謝ることだろう! 君が! まず! やらなければならないことは!」


「……もっともです」


 反論の余地も無い指摘に、僕がうなだれてると。


「どうでもいいわよ、そんなの」


 美緒里が、小屋に入って来て座った。


「え!? 会見が終わって、まだ10分も経ってないよね?」

「あれ、時差放送だから。テロとか放送事故対策で30分くらいずらして放送してるのよ」

「そうなんだ……って美緒里。僕は!」

「いいよ。知ってたから」

「え?」

「光があたしのこと好きなのは、知ってたから」

「…………知ってたんだ」

「じゃなきゃ……あたしにあんなに暴言吐かれて、耐えられないでしょ」

「自覚あったんだ……って、それはそれで驚きだけど、言わせて」

「……うん」


 僕が美緒里を見つめると、美緒里は目をそらして、それから僕を見た。

 僕は言った。


「これまで自信がなくて……告白する勇気がなくて……ごめんなさい」

「うん」

「好きです」

「……うん」

「僕は、美緒里のことが好きです」

「……うん」

「僕と、付き合ってください――恋人に、なってください」

「……うん」


 嬉しい、と小さく美緒里が言った。

 すると、さんごが。


「ああ、良かった良かった。じゃあ僕は2時間くらい外出してるから、君たちは心置きなく交尾してくれ」


 oh……台無し。


 と、呆れつつもドキドキする僕。

 一方、美緒里はといえばちょっと顔を赤らめながら、出ていこうとするさんごを引っ張り寄せて言った。


「ちょっと待って、さんご。あんたにも関係のある話するから」

「なんだい? いよいよ家を買うのかい?」

「その準備段階みたいな話かな」


 座り直して、美緒里が言った。


「さっき、会見で言っちゃったわけじゃない? 付き合ってるも同然とか言っちゃって、それで済むわけがないじゃない? 追求されるのは確実でしょ? でぇ……あたしと光は、もう、その……恋人? 同士なわけじゃない? 隠そうとしても、かえって変になる一方だと思うのよ。だったら……正直に、話しちゃった方がいいじゃない?」


「そうだね。じゃあ僕が美緒里のチャンネルで――」

「何を言ってるんだ光! バズるのが確定なこういう話題は自分のチャンネルでやらなきゃ――『さんごチャンネル』で!」


「うん。もちろん、どっちのチャンネルでも発表するの。あたしはあたしのチャンネルで。光は自分の『さんごチャンネル』で。それでね? それをもっと進めてぇ……新しいチャンネルをぉ、始めたらどうかなぁ?……って」


 新しいチャンネル?

 それって……もしかして。


「カップルチャンネルを始めたらどうかなって思うの――あたしと光で!」

 

 カップルチャンネルとは、付き合ってるカップルで運営するチャンネルだ。恋人同士の2人がいちゃいちゃする動画やライブを公開するチャンネルで……僕には、絶対に出来ないと思ってた類のチャンネルだった。


「ちょ、ちょっとそれは……」

「いいねえ!! 当然、僕も混ぜてもらえるんだよねえ!」


 ああ、さんご。

 君ってやつは……


「もちろん! チャンネル名もね、考えてあるの」

「どんな!? どんな!?」

「『光とみおりん、時々さんご』って――どうかなあ?」

「いいねえ!! これはバズるよ!!」


 そんな2人の会話を聞きながら、僕は自分の自意識がガリガリと削られていくのを実感していた。

 でも、そんなこと言えない。


「い、いいんじゃないかなあ……」

「光もそう思う? やった!」

「今日はピザだ! ピザを食べよう! シーフードミックスに伊勢海老の身をほぐしたのを乗せたピザ!」

「いいわねさんご! もちろんソースはトマトピューレにエビ味噌を混ぜたので!」


 ところで、カップルチャンネルはいいんですけど。

 さんごと、探索配信する計画は……


「カップルチャンネルでやるわよ! 当然!」

「当然!」


 ですよね……


「というわけで、あたしも来週から光のクラスメートだから」

「ええ!?『というわけで』って脈絡なさすぎだよ!」

「言ったじゃない。光の学校に転校するって」

「そ、そうだったね……」


 というわけで、来週から、僕は恋人と同じ学校に通うことになった。


 従兄弟で、元アイドルで、クラスA探索者の恋人と。


===========================

お読みいただきありがとうございます。


光:「これまで自信がなくて……告白する勇気がなくて……(美緒里にばかりあんな……いろいろと……恥ずかしいことをさせてしまって……)ごめんなさい」

美緒里:「うん(いや、あたしもやりかたが不味かったっていうか、あれでホイホイ告白してくるような男だったら、そもそも好きになってないし)」


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