62.猫はドラゴンと寝てました

本日は、18時と20時にも投稿します。

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 帰りの車中――サービスエリアで買ったご当地パンを食べながら。

 神田林さんと彩ちゃんに、美緒里が訊いた。


「パイセン、体力大丈夫?」

「大丈夫です。ZZダンジョン以降、体力がついたというか……筋量が増えたというか」

「彩ちゃんは?」

「問題ありません。明日は筋肉痛になるかもしれませんけど、すじは痛めてませんから」


 彩ちゃんは、大学まで柔道部だったんだから当然か。大学の運動部のしごきはキツいって聞いたことがある。それを経験してたなら、彩ちゃんの体力や精神力は相当なものなんだろうと想像できた。


「光とパイセンは、次の水曜日に『新探索者向けダンジョン講習会3』を受けるんだけど、彩ちゃんは受講済み?」

「『3』までは受けてます。『4』は『そのうち企画で合同で受講するから』って言われて事務所に止められてたんですけど」

「ふーん。じゃあさ、彩ちゃんも一緒に『3』受けてくれない? 再受講。『4』を受ける前に復習しておきたいってことで」

「は、はあ……いいですけど。今月いっぱいはまだ無職ですし」

「光も名前が売れてきたからさ。つまらないちょっかい出してくるヤツが出てくると思うのよ。だから、こっち側のドローンカメラを出来るだけ多くしたいんだよね」


 そこまで美緒里が言ったところで――


「美緒里。大事なことをすっ飛ばしてるわよ」


 小田切さんが指摘した。


「あー、そうだった」


 と、美緒里。


「あのさ、パーティー組まない? あたしとパイセンと彩ちゃんで。あたし、ダンジョン&ランナーズ辞めて独立しようと思ってるんだけど、新しい事務所の看板パーティーが欲しかったんだよね。でさ、ちょうど良くない? あたしたち。ねえ、そう思わない?」


 爆弾発言だった。

 もっとも普段から美緒里に接している僕にしてみれば、小田切さんが探索に同行した時点で薄々勘付いてたことでもあった。


 でも、神田林さんと彩ちゃんにしてみればどうだろうか――


「ああ……ここで来ましたかぁ」

「うぉふ……こんなところで答え合わせが出来てしまうとは……伝えたい……みおりん考察厨さんに伝えたい……」


 あれ――あんまり驚いてない?

 2人とも動揺はしてるけど、予想もしなかったニュースに衝撃を受けてるといった感じには見えなかった。


「あー、掲示板で噂になってたもんねえ。あれって、ほぼ本当だから。でもダンジョン&ランナーズD&R内の動きとしては、美緒里のD&R脱退は前提としていない――掲示板の予想に、現実が追いついてないって感じね」


「動きっていうと……商品化権とか、東アジア担当の営業部長とか、その辺りの話ですか?」


「そうよパイセン。噂になってない情報を言うと、C4Gはほぼ解散状態。美緒里がリーダーのカレンとケンカしちゃって、美緒里が辞めるしかないって状態になっちゃってるのよ――そこら辺、偉い人は楽観視してるんだけどね――それでC4G脱退を前提に東アジア担当のマネージャーが商品化権を安売りして、ついでに美緒里の活動が日本メインになるのを見越して日本支社の人事に首を突っ込んできてるってわけ。で、現在、私に突きつけられてるオプションは『1.美緒里の専属マネージャーとして件の営業部長の忠実な僕になる』『2.すべてを奪われて会社から放逐』」


「なるほど……だから『第3の選択』として」


「彩ちゃん、それ多分正解。『第3の選択』として火星に移住――ではなくて! 美緒里のマネージャーという立場はそのままに会社を離れる――つまり、美緒里と一緒に独立するってことね」


「契約的に、問題は無いんですか? 違約金が必要になったりとか」


「心配ないわ、従兄弟くん。美緒里からC4Gのマネージャーに伝達済みだから」


「契約を更新する意思はないってね。1月の時点で伝えてある。私の契約は今月末で終わりだから、来月から晴れてフリーってわけ。マネージャーが上に伝えたかどうかは知らないけどね……小田切さんを巻き込むかは迷ったけど、日本に来たら既に巻き込み済みみたいだったから。それで遠慮無く、ね」


「カレンとケンカしたのは去年の今頃だったわよね?」


「うん。7月にあいつの目玉をえぐ――仲悪くなっちゃって。でも、闇深すぎない? あれだけ揉めたあたしとカレンが、まだ一緒に出来るのと思ってるのよ? ダンジョン&ランナーズの偉いさん連中」


「そういう意味では、件の営業部料はまともだったってことね……その喧嘩の時点から美緒里のC4G脱退に賭けてたベットしてたんだから。だから日本支社に自分の息のかかった人間を送り込んで、数字を持ってる探索者のマネージャーをごっそり交代させた」


「小田切さんは分かってた?」


「とりあえず、ステッカーとアクスタの国内商品化権を知り合いに売った」


「それで?」


「先週電話したら、中国の会社に転売したって」


「ぎゃはははははは!」


 美緒里と小田切さんの会話を聞きながら。


「「「…………」」」


 その他3人の僕たちは、無言になるしかなかった。

 なんというか、会話から感じられるビジネスの汚さというか、凄みにあてられてしまったのだ。


 ようやく話が途切れたところで、僕は聞いた。


「新しい事務所って、いつから動き始めるんですか?」


「7月1日。昨日打診があったんだけど、8月に美緒里が出演するはずだった配信――」


「石原章人の?」


「そうそう。石原さんの配信の出演が7月に前倒しになったのよ。これも掲示板に書いてあったわよね? 7月に出演するはずだったアイドルとかミュージシャンが全員逮捕されちゃってね。それで丁度いいから、石原さんの配信と同じ日に記者会見を開いて、独立を発表しようかって話してるんだけど……そこでね、新事務所に所属する探索者も発表したいの」


「それで、パーティー結成ですか」


「話を聞いたのは昨夜だったんだけど、美緒里の言ってた通り、美緒里とパイセンと彩ちゃんの組み合わせは新事務所の大きな武器になる――売れる要素しか見つからない。最初は美緒里、さんごチャンネル、美緒里と従兄弟くんのカップルチャンネルで十分だと思ってたんだけど――」


「「カカ、カップルチャンネル!?」」


「ああ。パイセンと彩ちゃんは知らなかったのよねぇ。本当はとっくに公表してはずだったんだけど、ダンジョン&ランナーズからストップがかかってたから……それでね、さっき3人がやってた挨拶を見て思ったの――『ああ、これが足りなかった。足りないことに気付いてなかったって』。言葉には出来ないけど、とにかくそういう言語化できない何かを、あなたたちに感じたのよ」


「「はあ……」」


「そういうわけで……どう? パーティー結成」


 美緒里の問いに、2人とも『ちょっと考えさせて』くらいの答えを返すんだろうと思ったら。


「「はい! お願いします!」」


 驚いたことに、2人とも即答だった。


 というわけで、パーティー結成。

 そして彩ちゃんも、『新探索者向けダンジョン講習会3』を受講することになったのだった。


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お読みいただきありがとうございます。


ヒロイン3人のパーティー結成です。

パーティー名はまだ決まってません。

なお新事務所では、神田林さんの単独チャンネルも開設される模様。


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