123.猫と久々の探索です(3)肉が生き返った

 最初に震えたのは、二瓶さんのスマホだった。


「肉が――生き返った?」


 遅れてその直後、僕らのスマホも震える。

 画面に表示されたのは、こんなメッセージだった。

 

『探索者協会公式:OFダンジョンゲート付近に要警戒事案が発生。続報があるまでは、移動を必要最低限に留め、可能な限りその場で待機していて下さい。もしあなたが遭難等の理由により救助が必要な場合は、このメッセージに返信して下さい』


 要警戒事案?


 探索者協会からの警報メッセージといったら、普通は遭難者が出たりとか、もっと具体的な理由が書かれている。こんな風に『要警戒』とだけ書かれてるのは違和感があるというか、ぼんやりとして不自然に感じられた。


「二瓶さん、いま『肉が生き返った』って……」


 天津さんが聞いた。

 それを遮り、二瓶さんがスマホを操作する。


「待ってくれ。こっちはこっちで続報が来てる」


 画面に触れる指が止まってもしばらくは無言で、再び口を開いた時も、その声は重かった。


「個人的に送られて来たメッセージなんだが――このダンジョンの近くのレストランで、何かあったらしい。『レストランXXで肉が生き返った』と――それが最初のメッセージで、次が『ダンジョンに侵入』。その次が『第2層に向かっている』だ。送って来たのは知り合いの職員で、OFダンジョン担当じゃない。おそらくネットでOFダンジョンここが話題になっていて、それを見たんだろう」


 じゃあ同じタイミングで来た、これ・・は?

 講習生みんなを代表するように、猪川さんが聞いた。


「じゃあ、この警報は?」


 と、スマホを見せて。

 答えたのは、二瓶さんではなかった。


「職員の二瓶さんでは言い辛いかもしれません――私の考えを言って、良いですか?」

「頼みます。天津さん」


 2人で頷きあうと、天津さんが言った。


「おそらく、協会側も二瓶さんに送られてきた以上の情報を持っていません。逆に現場の対応に追われ、それすら持っていないかも――『要警戒事案』としか書かれていないのは、まだ事態を把握しきれてない可能性が高いです。見たままを――二瓶さんに来たメッセージみたいに『肉が生き返った』『ダンジョンに侵入』なんて、そのままを警報として流すわけにはいかないでしょうから。情報が整理され、我々に指示が降りてくるまでには時間がかかるでしょうね」


 つまり、協会も何も分かってないということだった。

 すると、手を上げて彩ちゃんが。


「つまり我々に出来ることは、ダンジョンの外にいる人と変わらない――とりあえずスマホで検索して、情報を集めるくらいしかないと」

「そう……なるかな」

「ではその間、どうします? 実習を続けるなら、止まっちゃダメなんですよね?」

「うむ……」


 考え込む顔になる二瓶さんだったが、にやりと笑うと言った。


「じゃあ、足踏みでもしてるか」

「はい(笑)」


 二瓶さんと会話しながら、彩ちゃんはずっと足踏みしてたのだった。

 というわけで僕らは、足踏みしながらスマホで情報集めをすることとなった。


 さんごが言った。


 さんご:やはり、復路のタイミングで動いてきたね


 すると王子も。


 王子:しかも2層以下……読みが当たったな


 疲れが溜まる復路の2層以下――偽カレンが仕掛けてくるタイミングを、僕らはそう予想していた。


 第1層では、ゲートを抜けて外に逃げられてしまう。でも第2層より下なら、そうはいかない。


 どこのダンジョンでも、階層間の移動は階段か小型のゲートだ。そこを抜けて全員が他の層に移動するには時間がかかるし、当然、その間は隙だらけになる。


 しかし――


 彩:策が、はまりましたね

 

 当然、分かっていれば対策も立てられる。

 それを小田切さんの交渉で、僕らは協会に認めさせていた。


 パイセン:とりあえず……連絡待ちですか


 神田林さんが言ったのに、みんな(王子を除く)で頷きあうと――声が上がった。


「うわ……ちょっとこれ見てくださいよ」


 蝶野さんだった。

 示された画面では、動画が再生されている。


 破壊音と、女性の絶叫――


『ちょっと何これ! え!? やだ何? え? え? 嘘!? 何これ――肉!? え!? やだ。もうやだやだやだ。え、え、えええええええ!?』


 それは、OFダンジョン近くのレストランで撮影された映像だった。

 最初から再現すると、こうなる。



 スマホのカメラだろう。

 女性を、向かい合った席から撮影している。


『今日は、OF駅の近くの『ステーキハウスOF』というお店に来ています。この店は、モンスターの肉……あ、そうそう。そうだ。えーと『モ肉』で有名です。私が注文したのはミノタウロスのステーキなんですけど……』


 女性が、言葉を途切らせたタイミングでだった。

 どかん!――女性の背後で、破壊音。

 天井を突き破って、何かが店に飛び込んで来た。


 僕らには分かる――黒い球だ。


『え? なに? やだやだやだやだ。ちょっと何これ! え!?』 


 床にめり込んだ黒い球は、でもすぐに移動を始める。

 店の奥の、厨房へと。

 

 そして女性がそちらを見るのと同時に、厨房から。


『え? え? 嘘!? 何これ――肉!?』


 大量の肉が、這いずりだしてきた。

 既に切り分けられたものもあれば、塊のままのものもある。


『え!? やだ。もうやだやだやだ』


 形も大きさも様々な肉が、厨房からフロアに現れると椅子やテーブルや客の足にぶつかりながら突き進み。


『え、え、えええええええ!?』


 最後は、通りに面したガラスを割って外に出て行った。



 まさにそれは『肉が生き返った』としか表現出来ない映像だった。


 そして二瓶さんに届いたメッセージによれば、肉はダンジョンに入り、僕らのいる第2層を目指していると言うのだ。


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お読みいただきありがとうございます。


なおOFダンジョンは過疎ってるため(『過疎ッ照る』って変換されるATOKってなんなの? どういう日本語なの?)、光たち以外(『光達意外』ってなんなの? 馬鹿なのATOK。無料のGoogle日本語変換に戻すかマジで検討するレベルなんですけど)の探索者は第2層に5人いただけだったようです(警報が発せられた時点で全員退去済み)。


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