6.猫の秘密がバレました

「その猫ちゃん、普通じゃないよね?」


 真顔で訊ねる美緒里に、僕はこう答えるしかなかった。


「普通じゃないよね~」

「まさか、私にバレてないとは思ってないよね?」

「バレるよね~」


 探索者みおりの聴力なら、僕とさんごの会話を小屋の外から聴けていても不思議はない。それより酷道に美緒里が現れた時とっさに盾や剣を消したわけだけど、さてどうして僕は、美緒里が現れる以前にやってたゴブリンとの戦闘を、美緒里に見られてないと思っていたのだろう?


「見てたよ~。透明なバックラー飛ばしてたよね~。今年の4月まで光にスキルが生えてなかったの知ってるし~。検診結果、光に聞いたし~。その後でスキルが生えたとしても、そこから1ヶ月も経ってないし~。どんなスキルだったとしても~。そんな短期間であんなに使いこなせるわけないし~。そうそう、肉体強化系のスキルを生やしたのもかな~? だったら納得いくんですけど~」


「あの、美緒里! さんご――この子はモンスターとかそういうのじゃないから!」


「それは分かってる。モンスターにはあんな理知的なスキルの使い方は出来ないから。そんな知性があったら人間を襲ったりしないから。仮にもしモンスターだとしたら、神獣クラスよ。でも、この猫ちゃんがぁ? 神獣ぅ?」


「失敬だな、君は」


 あ、さんご。いま喋っちゃうの?

 意外と煽り耐性無いのか、君は。


「神獣? 下らないね! 僕は異世界より訪れし存在であり、自分の世界では人間やモンスターの進化に関与し、スキルシステムを創造した超越者なのだよ!」

「それって神ってこと? ぷぷぷ~」

「煽らないで! 美緒里!」


「「ちょっと黙ってて!!」」


 怒られた……


 ばんばん!

 テーブルを叩いて、さんごがまくしたてる。


「僕らが文明を発展させる過程で問題になったのは、研究開発に要する猫的リソースの加速度的増大だった!」


 ばんばん!


「わかりやすく言うと、猫手不足だ! 研究が進めば進むほど次のハードルは高くなり必要となる作業も多くなる。そしてある時代を境に、個体としてぼくらがどれだけ優秀でも処理しきれない程になってしまった!」


 ばんばん!


「端的に言うと忙しくなった! 忙しすぎて死んでしまう仲間が出るほどに! 君たち人間には信じられないようなものを僕は見てきた! エナジードリンクに胃腸を灼き尽くされ血を吐く同僚! 深夜作業中のデスクで暗闇に瞬く残件数!」


 ばんばん!


「僕らは考えた。『手が足りないなら増やせばいいじゃないの』と――猫以外の生物に目を付けたのさ! 研究用に機能を限定したスキルを人間やモンスターに与え、それを彼らが工夫し発展させた結果を僕らが回収する。そうすることで、僕らは膨大な検証作業のほとんど全てを他の生物に丸投げすることに成功したんだ!」


 あれ? それってつまり……ばんばん!


「スキルシステムさ! 君たちに与えられているスキルシステムの、おそらくは上位互換にあたるであろうシステムを僕は……僕たちは創造したんだ! ふうふう! ふうふう!」


 言いたいことを言い切ったのか、取組後の力士みたいにふうふう言ってるさんご。

 そんなさんごに、美緒里が目を眇めて言った。


「で、あんたは光に、もっと凄いスキルを与えられるってわけ?」

「ふうふう! 可能だ、とだけ言っておこう。根拠については――分かるだろう?」

「そうね。あんたのその言葉が真実である間は、あたしはあんたと共闘できる」


 なんだか、話がまとまった風ではあった。

 2人とも目を合わさず、テーブルの料理に視線を逃しているのが不穏ではあったのだけど。


「じゃ、しばらくは駅前のホテルにいるから。部屋番号なんかは後で送る」


 と言って、美緒里は帰った。

 最後に訊かれた。


「『健人』に、変なことされてない?」

「大丈夫」

「そう――じゃあね」


 美緒里が帰ってしばらく経ち、トイレにさんご用の便器(さんごが首輪から取り出したもので、用を足すと同時に汚物が消滅する)を設置し終えたりした頃、さんごが言った。


「僕は、お金を稼ぐことにするよ」


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