175.猫の講義で新兵器(前)
ZZダンジョンに着いて、ゲートを潜った。
夏休みということもあり、上層はいつにも増してライト層で混雑してたのだけど……
「あっ、ぴかりん!」
「じゃあMTTも来てる?」
「やっべ。かっこいい……」
「ぴかりーん! 一緒に写真撮ろ~!」
そんな声に、軽く手を振って走り出す。
今日の課題は、モンスターへの対処だ。
いかに少ないコストで数をこなせるかを考えて、試行錯誤していく。
24時間ノンストップ探索では、どれだけの戦闘をこなすことになるだろう?
通常の探索では、多くて1時間に2,3回。
でも今回は、時速20キロ以上で移動しながらの探索だ。当然、エンカウントの確立は高くなるだろう。
最悪を想定するとしたら、1時間に10回。24時間だと240回。1度に戦うモンスターの数を、これも最悪で1回に5体としたら、24時間で1000頭を超えるモンスターと戦うことになる。
1体1体を倒すのは簡単でも、これだけの数をこなすとなると、相当なストレスになるだろう。
1回1回の戦闘を、出来るだけ少ない手数で終わらせたい。
となると使うのは――『結界』。
結界で、モンスターを閉じ込めてしまえばいい。
というわけで、出会うモンスターを箱状の結界に閉じ込めていったわけだけど――ほどなく、問題が露わになった。
「……………飽きる」
飽きてしまうのだ。同じことを繰り返すのがストレスになって、実際よりも疲労が強く感じられてしまう。
だったら……
「バリエーション――ローテーションだ」
戦闘するごとに、結界の形を変えることにした。四角柱、四角錐、三角柱、三角錐、円柱、円錐――更にこれをローテーションして、リズムを作る。
これが、うまくいった。
「もう3時間か……本番は、これを8回」
深層を走り回っていたら、ほぼ疲れもなく時間を潰すことが出来た。
それと意外だったのは、結界に閉じ込めたモンスターが、そのまま死んでいたことだ。
結界には、数分で消滅する程度の魔力しか込めてなかったのだけど、どうやらその間に、モンスターに何かが起こったらしい。
モンスターを閉じ込めた場所を再び通りかかると、結界があった場所に、誰かに狩られた風でもなく、ただモンスターの死骸だけが残っていた。
わずか数分で、何がモンスターの命を奪ったのか……帰ったら、さんごに聞いてみよう。
その後、再び深層を走り回ってからダンジョンを出た。気付くと、今度は4時間経っていた。
●
「ああ、これは……」
さんごに聞いてみると、原因はすぐ分かったらしい。
「『結界』でモンスターが死んだ原因は……言葉より、実際に見た方が早いかな――工房に行こう」
言って畳を叩くと、地下の工房に続く階段が現れる。
工房では、さんご隊がイデアマテリアの動画編集や配信のモデレータ、それから――
「ねえ、あそこで作ってるのって……もしかして」
「ああ、巨大ロボットさ。この世界で必要はないかと思うけど、念のためね」
「異世界では、必要だったの?」
「異世界の、更にそこから繋がった別の異世界ではね」
「へえ……」
分かってはいたけど、ちょっと驚いた。僕らの行ってる異世界の他にも異世界はあるはずで、でもそんなの、まったく気にかけていなかったのだ。
「
工房の隅にあるシューティングレンジに入ると、さんごが標的を出した。
いつも使ってるのより大きな、球状の標的だ。
「あれを『結界』で囲んでくれ。センサーが内蔵されてるから、それで何が起こってるかが分かる」
「うん。『結界』!」
標的を立方体の結界に閉じ込めると、すぐにさんごが言った。
「これを見てくれ。結界に囲まれた内側の魔力の流れだ」
「これって……結界が魔力を吸ってる?」
スマホには、結界の内側の様子がCGで表示されていて、閉じ込められている標的から、魔力を示す色が結界に向かって流れているのが分かった。
「結界の内側というのがポイントだ。結界は、術者からの魔力で強度を維持している。術者が拒否したり、距離が離れたりしたら打ち切られるわけだけどね」
「うん」
「それでこれは欠陥ともいえるんだけど、術者の定義というのが、なんというか……ガバいんだ」
「ガバい?」
「結界の内側で、1番近くにいる誰か――くらいの定義しかない。そして、結界に閉じ込められるということはだ――分かるね?」
「魔力を、吸われる?」
「そういうことだ。もちろん拒否は出来るわけだけど、それは術者本人にしかできない。つまり、結界に閉じ込められたモンスターは魔力を吸い取られて……」
「死んだってこと? でも結界って、2,3分で消えちゃうけど……」
「魔力の供給がなければね」
「あ……モンスターから魔力を吸えば」
「その間、結界は維持され続け、モンスターが魔力切れで死ぬのと同時に、結界も消滅したというわけさ」
「なるほど……」
「もっともこれは、君みたいに高い魔力の出力を持つ術者が張った結界だからというのもある。並の術者だったら、モンスターが死ぬ前に結界を破られてただろうね」
「そうか……ん? じゃあ、もしもっと範囲の広い結界を張って、たとえばダンジョンの1層を丸ごと囲んじゃったりしたら……」
「さすがにダンジョンにいる全てのモンスターが死んだりはしないだろうけど、全体的にデバフがかかるくらいはあるだろうね」
「そうか……」
「結界の強度を上げれば魔力の消費量も増えるから、もっと強力なモンスターも倒せるようになると思うよ――良い武器を手に入れたね」
というわけで僕は、24時間ノンストップ探索に向けて新たな力を手に入れたのだった。
=======================
お読みいただきありがとうございます。
面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、
フォローや☆☆☆評価、応援などよろしくお願いいたします!
コメントをいただけると、たいへん励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます