174.猫と新たなもやもやと(後)
異世界から帰ると、前回と同じで、こちらの世界ではまったく時間が経ってなかった。
「じゃ、いったん解散して15時に集合ね」
美織里達は市営グラウンドでトレーニングするそうで、僕とは別行動だ。
さんごによると――
「せっかく
とのことで、トレーニングはパイセンの新スキルと彩ちゃんの『
僕は小屋に帰って、お風呂に入った。小屋にはシャワーしかないから、小屋の前にある五右衛門風呂だ。
「うわー、こんなに浮かんでる……やっぱり湯船に浸からないと落ちないよねー」
結婚式の作法のレッスンで、身体中にクリームを塗りたくられていた。ぬるぬるして、なんだか肌が火照ってくるクリームだ。
こういうのは、シャワーで落とすのは難しい。というわけで、湯船に浸かってブラシでこすらなければならない。鍋を洗うみたいに。美織里達がいったん解散したのも、各自、自宅でお風呂に入るためだった。
「光。冷やし中華を作って!」
さんごは、すっかり冷やし中華にはまっている。
「丁寧に味付けされた料理も好きだけど……冷やし中華には雑な食べ物を雑に食する楽しさがある――そして美味しい! これは、一種の文化的な贅沢とも呼べ……ずずっ! ずずっ! ずずずずーっ!」
「ずずーっ! 冷やし中華って、一気に食べちゃうから、気が付くとなくなっちゃってるんだよね。ずずずずずーっ!」
「ずずずずーっ! 美味しい美味しいと思ってる間に、皿が空っぽになってしまうのは、ずずずずーっ。本当に美味しい料理の特徴だよ! ずずずずずーっ!」
そんなことを話してたら……
「あれ? このアプリ――さんごがインストールしたの?」
スマホの画面に、見知らぬアイコンが表示されていた・
「ああ。美織里に頼まれて作ったアプリさ。『
「ふーん」
起動してみると、数字の書かれたパネルがいくつも表示されて、ときどき重なり合ったりしながら画面を移動している。それを、ランダムで表示される数字や音声の指示に従ってタッチするというゲームで、それだけだと、本当にありがちな脳トレアプリみたいだった。
「特別なアイデアは盛り込まれてないよ。ただ、指示が出されるスピードが速かったり、パネルを押す順番が人間の生理を無視したものになっている。見たまま思ったまま動く――反射や思考から『手癖』のノイズを取り除くための訓練、とでもいったらいいのかな」
「ふーん」
ステージが進むと、画面の外側にあるパネルも指定されるようになって、そういう場合は、スマホを動かして視点を移動させなければならない。
「最終的には、全天周にパネルが配置されるから、写真記憶と複数対象の軌道予測が出来ないとクリアは難しいだろうね」
「うん。クリアした」
「昼寝しようか」
「うん」
食器を片付けて昼寝したら、お昼ちょっと前になったので出かけた。さんごも途中まで一緒だったけど、ガールフレンドに声をかけられて、どこかに消えた。用事が済んだら、美織里と合流するのだろう。
僕がどこに行くかというと、ZZダンジョンだ。
東京行きでものにした『
ダンジョンまでの移動は、もちろん走りだ。
「
振り上げる手や膝の勢いを『
途中で川があった。
街の中央を流れる、幅10メートル以上の川だ。
橋は使わず――あえて。
「『
手、肘、膝、更には前進する勢いまで推進力に変えて、ジャンプする。
それだけでも、川を飛び越えるには十分だったのだけど――足下を過ぎてく川面を見ながら、思い付いた。
「『
更に追加したのは、空気を押し退けて空を進む、その勢い。
空中で加速した僕は、川を越え――
「うわっ!『結界』!」
危うく川沿いの家に飛び込みかけ、『結界』で作った壁に、某蜘蛛人間みたいな姿勢で着地する。
「ぴかりーん」
「はーい。ぴかりんだよー」
窓ガラスの向こうで手を振る子供に手を振り返し『結界』の壁を駆け上って家を飛び越えた。
ちょっと考えてみると『
『
だから、打撃力を放つ魔法があったとしたら、それも推進力に変えることが出来る。
もしそれが『
そして更に、どんな攻撃にも耐えられるような『結界』が使えて、それを服のように身に纏えるとしたら?
そんなことを考えてる間に、ZZダンジョンに到着した。
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