49.猫が猫をかぶるのです

本日は12時と20時にも投稿します。

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 ペットをダンジョンに同行するには『同行講習』というのを受講する必要がある。


 前回のUUダンジョンでさんごを同行できたのは、僕の入院中に美緒里が受講してくれてたからで、僕だけでさんごを連れてくなら、また受講しなければならない。


 美緒里の交渉で、今日の『新探索者向けダンジョン講習会2』と一緒に『同行講習』も受講できることになった。


 内容は事前にもらったテキストを読んで、テストを受けて、合格証をもらってダンジョン探索するだけだ。そして『新探索者向けダンジョン講習会2』が始まる前の15分間で、テストも回答も採点も合格証の授与も終わっていた。


『新探索者向けダンジョン講習会2』を受講するのは、僕と神田林さんと山口先生の3人。

 講師も同じで、一ノ瀬さんと弓ヶ浜さんだった。


「おはよう。神田林さん」

「……おはよう」

 

 神田林さんのテキストは、相変わらずというか、既に付箋と書き込みでゴワゴワだ。


 見てたら、肘で突つかれた。

 

「……脇が甘い」

「確かに、脇を肘打ちされたけど」

「家のことよ。親戚とか、山の小屋とか、そういうこと」

「あ……」


 SNSで拡散された、僕の個人情報のことか。


「ほら――ここでしょ?」

「え!?」


 差し出されたスマホにはドゥードゥルマップ。地図の上でピンが刺されてるのは、僕が住んでる小屋だった。


「通ってる高校はバレてるんだから、後は近くの山を航空写真ドゥードゥルアースで調べて、それらしい小屋をマークアップ――SNSの情報と照合すれば、自宅なんてすぐ割り出せるわ。さんごチャンネルとか、オヅマの配信からの情報もあったし――(ぼそっ)私は、XXダンジョンの近くって聞いてたから簡単だったけど」

 

 うわあ……


「それと――良く思われてないわよ。本当なら、私はあと3ヶ月は『新探索者向けダンジョン講習会2』を受けられなかったの。でも今日受講できる。あなたに合わせてそうなったのよ。で、あなたがどうして今日受講できてるかっていうと……」

「美緒里が交渉――ゴリ押ししたから」

「そのみおりん――美緒里さんに同行してもらってダンジョンに行ったんでしょ?」

「……はい」

「初心者に同行する探索者は、本来、協会が指定するはずでしょ? それも……」

「……ゴリ押し」

「気を付けないと、あなたも美緒里さんも印象悪くなるわよ」

「いや、もう充分……」

「挽回するためにも! 気を付けて!」

「はいっ!」

「ところで、その……猫ちゃんは……さんご君?よね?」


 神田林さんの視線に、ケージの中からさんごが応えた。


「みゃおん」

「う、うわぁ……うわぁ……」


 そんな神田林さんに、座学が始まって、休憩時間になるのを待って提案してみた。


「触って……みる?」

「いいの!?」


 ケージを開けると、近付いてきた神田林さんの指に。


「みゃ!」


 さんごが、手を乗せた。


「…………可愛い」


 その後、座学が再開しても。


「…………(ちらっ)」

「(顔をごしごし)」

「…………(ちらっ)」

「(首を傾げながらまばたき)」

「…………(ちらっ)」

「(仰向けになってごろごろ)」


 さんごは、授業の邪魔にならないよう、仕草だけで神田林さんの興味に応えて見せたのだった。


 

 座学が終わったら、ダンジョンに移動して実習だ。


 今回潜るのは、YYダンジョン。

 YYダンジョンは、XXダンジョンやZZダンジョンと比べて、協会から遠くにあるダンジョンだ。


 そのため、探索者用に駅前からシャトルバスが出ている。

 それに乗って、僕らも移動した。


 車内には、当然、僕ら以外の探索者も乗ってるわけで。


「ぴかりん……」

「本当に強いのかな……ぴかりん」

「……格闘家なんて素人だろ」

「みおりんにぴかりんって……ウケる」

「猫なんて連れてさあ……ぴかりん(笑)って」

 

 そんな声と視線に晒されることとなった。


 そして――

 

「ごほっ、弓ヶ浜さん。ごほっ、海岸通りに。ごほっ、いい店。おええええ。見つけたんですけど、ごほっ。今日帰りに、ごほっ。どうですか、おえええええ」


 山口先生は、今日も弓ヶ浜さんに向けて前のめりな姿勢を見せるのだった。



 ダンジョンに入ると、同じ洞窟型ダンジョンでも通路の幅が広く、XXダンジョンやZZダンジョンよりも開放的な雰囲気だ。


 通路の隅で写真を撮ったり、配信している探索者もいた。


「うえええええい。なんと! いま話題のぴかりん見つけました~。ダンジョンマスターDさん、ウルチャ5000円ありがとうございますぅう~。『みおりんのことを聞いて』~。いやぁおう、了解ですぅう~。うぇっ、うぇっ、うぇっ。では突撃しましょお~。うぇえええい! ぴかり~ん!」


「講習中です。ご遠慮ください」


 僕に近付いてきた配信者を遠ざけ、一ノ瀬さんが指示を出した。

 

「まずは中層まで――最初は山口さん、先導してください」


 今日の探索は、中層でセーフハウスの使い方を学んで帰ってくるというカリキュラムだ。

 完全な初心者対象の前回とは違い、中層の入り口までは受講者が先導する。

 

「ごほっ、マップチェック。ごほっ、50m先までモンスター無し。おええええ、前進。マップチェック、ごほっ。30m先に脇道、ごほっ。ごほっ、チェックしますか? おえええええ」


「チェックしてください」


「ごほっ、では。神田林さんと春田君、ごほっ。私のドローンで脇道をチェックするので、ごほっ。前後を警戒、おええええ。してください、ごほっ。ごほっ、脇道内。ごほっ、事前情報と相違無し。モンスターの反応無し。危険無し。おええええ。ごほっ、ドローン戻します。ごほっ、前進再開します。マップチェック、おええええ」


 山口先生の次は、神田林さんが先導だ。


 すると――


「マップチェック。30m先に……モンスター。10m先のY字路、右側の道です」

 

 いきなりモンスターが現れた。


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お読みいただきありがとうございます。


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