50.猫でももっと弁えてます
本日は20時にも投稿します。
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「マップチェック。30m先に……モンスター。10m先のY字路、右側の道です!」
モンスターが現れた――と、その時だ。
それまで空気になってたさんごが、雄叫びを上げた。
「みゃおおおおおおん!」
瞬間、前回の講習において1人で突っ込んで怒られてた山口先生の姿が脳裏をよぎったのだが。
「……みゃお?」
さすがにさんごは弁えていて、雄叫びを終えると、まずは僕らの様子を伺う。
一方、山口先生はといえば。
「おえええええ! 見てて下さい弓ヶ浜さん! おえええええ。ごほっ、ごほっ!」
「ちょ、ちょちょちょ止まって止まって!」
「ダメダメダメダメ! 前回もそれやったでしょ山口さん! 注意されてたでしょ!」
またも1人で突っ込もうとして、一ノ瀬さんと弓ヶ浜さんの2人がかりで羽交い締めにされていた。
「あなたは猫以下ですか!?」
なんて怒られる大人は、そうそういないと思う。
モンスターがいるのはY字路を曲がった先で、姿はまだ見えない。
こういう時どうするのか――テキストでは。
「モンスターの種別は不明――ドローンをY字路入り口に待機させて、いったん後退」
神田林さんの出す指示は『ああテキストにはこう書いてあるんだろうなあ』という感じで、それを肯定するように、一ノ瀬さんと弓ヶ浜さんが、僕らを守る
後退して、Y字路から100メートルくらいの位置でマップを見た。
モンスターは、まだY字路の奥にいる。
「ドローン、進めます」
「いや、ここはドローンのカメラをズームで」
神田林さんのプランを、一ノ瀬さんが修正する。
「モンスターの姿が見え次第、私が指示を出します。ゆっくり前進するか、ゆっくり後退するか、全力で後退してこの場を立ち去るかのどれかだと思っていて下さい……弓ヶ浜さん、山口さんをお願いします」
「はい」
弓ヶ浜さんが、後ろから山口先生のベルトを掴む。
また勝手に突っ込まないようにするためだろう。
「ごほっ、ごほっ……」
山口先生は、この状況をどう思っているのだろうか?
そんなことを考えながら、僕は結界を張る準備をしていた。ZZダンジョンで、『顔』の触手を消滅させた結界だ。
一ノ瀬さんは、スマホでドローンからの映像を見ている。
しばらく画面を調整して、それから言った。
「これは、任せてもいいかな……ゆっくり前進。神田林さん、カメラからの映像をどう見ますか?」
「スライム――ゴブリンを食べてますね。消化中です」
「では、どうしますか?」
「みた限りでは、体積のほとんどをゴブリンの消化に使っています。移動も身体半径を超えての攻撃も不可能と思われ……るので、Y字路入り口からの魔法投射を行い、体積が踝程度の高さまで減ったところで距離を縮め、物理攻撃でコアを破壊――ではどうでしょう?」
「いいでしょう。指示を出して下さい。メンバーのスキルシートには目を通してますか?」
「はい――では弓ヶ浜さん。『雷撃』スキルで攻撃をお願いします」
「はい」
「一ノ瀬さんは、その間、山口さんをお願いします」
「はい」
「山口さんは、最後に合図をしますから、突っ込んでスライムを叩いて下さい」
「ごほっ、はい」
「春田さんは、光魔法で結界を――膝までの高さの結界を、スライムの周囲に展開して下さい」
「はいっ」
結果から言うと、神田林さんの作戦で5分も経たずスライムを撃破できた。
まずは弓ヶ浜さんが――
「魔磁電網!」
網状の電撃をスライムに降らして焼き。
「結界!」
Y字路の奥へと逃げようとするのを、僕が結界で止め。
「ウェイトウェイトウェイト――山口さん、ゴ―!」
「おええええええ!! ごほっ、ごほっ、ごほっ!!」
スライムの体積が減ったところで、山口先生が叩いてコアを破壊した。
そしてその間、さんごが何をしてたかというと――
「みゃおおおおおおん! みゃおおおおおおん! みゃおおおおおおん!」
雄叫びで、僕らを鼓舞してくれてたのだった。
こんな感じの、地味だけど充実感のある戦闘をいくつか行い、中層の入り口に着いたのが午後3時。
受講者が先導を務めるのはここまでだ。
「では、ここから先は我々講師が先導を努めます――春田くん、気付いてた? 先導をしてる間だけで、マップのチェックがかなり上達していたよ」
「ありがとうございます」
「それでは弓ヶ浜さん、先導を」
「はい。まずは一ノ瀬さんに中層に移ってもらって、次に神田林さん、山口さん、春田さんの順番で移動――最後に私が移動します。まずはこの周辺の安全を再度確認してから、移動を開始します。マップチェック――危険無し。それでは一ノ瀬さん、お願いします」
と、こんな感じで中層への移動を始めて。
後は僕と弓ヶ浜さんだけとなった――その時だった。
スマホを見て、弓ヶ浜さんが眉をひそめた。
「緊急連絡……侵入者1名。手続きせずにゲートを通った人がいるそうです。犯意の無い人物かは分かっていません。続報があるまではその場で待機――が原則ですけど」
「中層に移動して、一ノ瀬さんと合流するのはだめなんですか?」
「もちろん、その方が安全です。しかし、原則を破るほどのことかといえば……こういうのって面倒なんですよ。その時はスルーされても、何ヶ月か後で何にも知らない偉い人が資料を見て怒り出しちゃったりして」
「めんどくさいんですね」
「めんどくさいんですよ」
そんな会話をしながら、僕は、今後の展開が分かってしまったような気がしていた。
ここ最近のパターンからするとアレかな、と。これからの登場人物と何が起こるかまで予想できるようだった。
その通りだった。
オヅマが現れた。
「おぃいいい。おぃいいいい。おまえかよ~~~。春田光じゃねえかよ~~~」
ボロボロの姿で――
「おい! てめえオヅマ! どこ行きやがった! てめえぶっ殺すぞクラァ!」
そんな、あからさまに彼を探している、男たちの声を連れて。
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