48.猫も『ぴかりん』と呼ぶのです

 プロ連に参加した格闘家たちにより拡散された、僕の個人情報。

 正確には、叔父とのあれこれ。


 一番強烈だったのは、東京から出稽古に来ていたプロ選手のアウスタライブはいしんだった。

 


『今日さ、坂口さん――そうそう『ASASE』で超強かった坂口さんのジムに出稽古に行ったんだけど、そこにいたんですよ。ぴかりん。そうそう。みおりんの彼氏のね。ぴかりんがいたの。でもさ、ぴかりん、色々いわれてるのが嫌でネット見てないんだって。だから、自分がぴかりんって呼ばれてるの知らなかったの。ウケる。うんうん。うん。実物もイケメンだった。小さくてさ。可愛いのよ。うんうん。いや強かったよ~。マジで。海外の選手ってさ、探索者をスパーリングパートナーに雇ってるっていうじゃない。思い知ったね。そりゃあいつら強いわけだわ。探索者、マジ半端ないね。高橋さんのジムってXX県で、まあ地元の……あえて名前は言わないけど、けっこう強い人も来てたんだけど、もうね、誰もかなわないの。マジで。きぬ……ああ、砧さんもツイッピーでさえずってた? じゃあいいか。あの回転の速い砧さんが、打ち負けちゃうの。パンチスピードも速いんだけどさ、これはスキルとは関係ないんだけど、その前のセットアップ――目線での誘導なんかも巧みでさ。タックル行くふりしてチョンって膝に触ったりするのよ。そうすると、パンチの動きの起点が淀んじゃうから。だからそこから打ち合いに入ると、ちゃんとパンチ打ってるつもりでも腕が伸びないの。膝からの連動が淀んじゃってるから。だからパンパーン、パンパーンって2回打ち合って、その時点でもう打ち負けちゃってるの。海外の奴らはさあ、あんなのと練習してるのよ? ねえ? そりゃあいつら強いわけだわ……うん。家庭環境、ヤバいみたいね。親戚に家を追い出されて、山で1人暮らししてるって――え!? みおりんって、ぴかりんの従姉弟なの!? え、まさか!? ぴかりんを追い出した親戚って、みおりんの親父とか!? え~~~。なんだそれ、ドラマじゃん。韓国のドラマなんかにありそう? うんうんうん。ありそうありそう。いや、ぴかりん凄えなあ。まだ高校生でしょ? マジ凄い人生送ってるよね~』



 翌日登校して、まずは健人のところに行った。

 僕だけでなく、叔父――健人の父親の情報も拡散されたわけだから。

 しかも、叔父に非難が集まるような方向で。


「あの、健人君、昨日……」

「いいよ。坂口さんだろ? 俺が頼んだんだよ」

「え?」

「ところで動画見せてもらったんだけど、変なジャブ打ってたよな? 2,3発同時に当たってるみたいな――あれってスキル?」

「うん。ガルシア麗子さんって人の居合重層イアイ・マルチプレックスってスキル――最近、練習してるんだ」

「そうか。じゃあ、今度見せてくれよ――ぴかりん」


 ぐぬぬぬぬ。


「おはよー、ぴかりん」

「お前、有名人じゃん。ぴかりん」

「お家、大変だったんだね―。ぴかりん」


 これまで気を遣ってくれてたらしいクラスメートも、昨日のことがあって『ぴかりん』呼びを解禁してしまっていた。


 そこへ――


「いいのよ。『光』って呼ぶのは、あたしだけで」


 美緒里が耳打ちして、席に座った。


 そんなわけで、居心地悪く放課後まで過ごし。

 帰宅すると――

 


「おかえり『ぴかりん』。格闘系チャンネルからのコラボ依頼がアホほど来てるよ」


 さんご、君もか。

 君まで『ぴかりん』と呼ぶのか……


「コラボって、相手のチャンネルに僕が出演して、相手も僕のチャンネルに出演するんだよね……格闘家が『さんごチャンネル』に出演して、何をするの?」

小屋ここで料理を食べさせればいい。その後、外の五右衛門風呂に入れてやれば撮れ高は充分だよ。これをフォーマットとして確率させれば、どんなジャンルの配信者ともコラボ出来るだろうね」

「僕の料理を? そんなのでいいの?」

「いいわよ。美味しいんだし」

「美緒里……っていうか、その服、というか……」


 先に帰ってた美緒里は、既に私服になっていた。

 その私服というのが、カーゴパンツにスポーツブラという……僕の性癖に刺さる…………


「え? 何言ってんの? 一緒にお風呂に入ってるのに」

「入って『る』じゃなくて、入っ『た』だよ! 1回だけだよ!」

「また入ればいいじゃない。ところで、今日の晩ごはんは?」

窟王猪キングボアの冷しゃぶに山菜の白和え、それとデザート代わりに伊勢海老のゼリー寄せ……足りなったら根菜とつぶ貝の甘辛煮も付けるけど?――つぶ貝はコンフィにも出来るけど?」

「全部、ちょうだい」

「金になるねえ……金になるコンテンツだよ、これは」

「そうよねさんご。しかも、こんなコンロひとつしか無い狭いキッチンで……バズる要素しか無い」

「ところで美緒里、例の件はいつにする?」

「それは彼女の判断に任せる――思ったより早く、返事も来たしね」


 食事の後は、明日の話になった。

 明日の『新探索者向けダンジョン講習会2』についてだ。


「あんた、明日はあれ・・、着けてくの?」

「うん。万が一があるからね――また魔力酔いになったら不味いし」


 あれとは、QQダンジョンで試した新装備のことだ。

 明日の探索に持っていけるのは一部分だけだけど、それでもだいぶ安心感が増す。


 そして明日は――


「どうだい? 僕のこの装備は」


 さんごも、同行するのだった。

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