叔父に家を追い出された僕が異世界から来た猫と出会い、ダンジョン配信でバズ狙いすることになった件。ちなみに元アイドルで美少女探索者の従姉妹は僕にべた惚れです
211.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(6)
211.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(6)
side:彩ちゃん
蒲郡先生のスキル――『シュリンク』
自分が望む現実を、ご都合主義な出来事を連発させることで引き寄せるスキルだ。私のスマホが故障したのも、彼女にとって、その方が都合が良かったからに違いない。
蒲郡先生に続いて『鰤カフェ』のドアを潜りながら、私はそう確信する。
店員の案内を待たず、蒲郡先生が奥へと進む。
「すみませ~ん。戻ってきました~」
テーブルを囲んでるのは3人。話の流れからして当然なのだけど、全員、探索部の部員だ。
まずソファーに並んでる2人は、池田さんと沼袋さん。蒲郡先生が探索部と別に顧問をしている『印刷同好会』の部員でもある。そこで彼女達は漫画を描いていて、内容は光君の……(144.猫が腐った老女の正体を暴きます(後)参照)
それから通路側に座ってるのは、玄田君。あだ名は『チー牛』で、いわれてみれば、確かにそれっぽい容貌をしていた。
「この子達もねえ、木曜日に講習を受けたの。一緒に。それでね、誘ってみたのよ」
蒲郡先生が言うのを聞いて、私はちょっと考えた。
学生が勝手に講習を受けるのは……アリだったっけ?……アリか。禁止されてるのは、講習を受けた後、生徒達だけでダンジョンに潜ることだけだ。初心者はベテラン探索者の同行なしではダンジョンに潜れない。そしてそのベテラン探索者に学校の指導者――つまり私以外は指定出来ないというのが部の規則になっていて、これは探索者教会とも申し合わせてるから、彼らが勝手に同行者を選んでも、申請の段階で却下される――と、よし。
目元を揉みながら考えごとをしたら、諸々から来た混乱も、大分収まってきた。
「じゃあね。これ、紙でも配っちゃうわね」
おそらくメッセージ――私には届かなかった――でも配られてたのだろう。今日のスケジュールが書かれた紙を、蒲郡先生が読み上げる。
「まずね、先方――男鹿高校がUUダンジョンに着くのが、9時半。それから荷物を置いたり色々するから、私達は10時に来てくるように言われてます。だから
紙には簡単に――
8時30分 出発
10時 現地到着
11時 探索開始
15時 探索終了
15時30分 帰宅
17時 学校前で解散
そう書かれていたのだが、蒲郡先生の説明は前後を行ったり来たりで、それだけ聞くと全く分かりにくい。
「「「…………」」」
無言な生徒達は、理解出来てるのだろうか? 出来てるのだろう。我が校は偏差値70。偏差値42の高校から偏差値48の大学に進んだ私より、ずっと頭がよい子達なのだ。
一通りの説明を終えて、蒲郡先生が言った。
「野営ってしてみたいけど、資格が取れるまで時間がかかるのよねえ……」
「そうですね。しばらく実績を積んで、次の段階の講習を受ける必要があります」
「それって、どれくらいかかるのかしら」
「学校の探索部だと、半年くらいで受けられるみたいですね」
「じゃあ、冬休みには合宿出来るわね。でも、初めてのキャンプが冬って、大変そうよねえ」
「ですね。じゃあ来年の春くらいに、新入生も交えてキャンプしたらどうでしょう? 普通のキャンプ場で」
「ああ、それで夏休みになったら、ダンジョンで合宿するのね?」
「そうですね。ところで申し訳ないんですけど……春田光君のことなんですけど、彼も今日、UUダンジョンで探索するらしいんですよ。夜からなんですけど。それで、私も現地でサポートすることになっていて……なので……」
「ああ、そうなのね。じゃあ、池田さん達は私が送るわ。私の車、ちょっと窮屈かもしれないけど」
「先生、今日は車なんですか?」
待ち合わせ場所に車がなかったから、てっきり、バスか何かで来たと思っていたのだが。
「そうよお? ほら、あそこの青い車」
「青い車……」
駐車場を見ると、確かに青い車があった。
「息子の車だったんだけどね。奥さんに怒られたっていうから、私が買い取ったのよ。ああいうカッコいい車、乗ってみたかったし」
「そうなんですか……確かに、カッコいいですね」
駐車場で周囲を威圧する、青いスカイランGT-Rを見ながら、私は頷くしかなかった。
そして、なんとなく分かった気がしたのだった。
『シュリンク』によってもたらされた、蒲郡先生にとっての都合の良い現実というのが、どんなものか――どうして私のスマホが、故障しなければならなかったのかが。
もしスマホが壊れてなくて、最初のメッセージの時点でスケジュールを知っていたら、私は同行を断っていただろう。その後『24時間ノンストップ探索』の場所がUUダンジョンと分かって同行可能になっても、8時30分の出発までに『鰤カフェ』に着くのは無理だったに違いない。
だから、用件を知らないまま家を出なければならなかったのだ。
そして、それがどんな現実をもたらしたかというと……
「じゃあみんな、適当に休みながら、安全運転で来てくださいねえ――私は、先に行ってるから」
そう言ってGT-Rに乗り込む蒲郡先生の姿はやけにさまになっていて、駐車場から車道に乗り出す動きの滑らかさからも、乗り慣れてる感じがした。
「蒲郡先生……昔『サイバーフォーミュラ』の
「おっと、それ以上は言ってはいけない」
池田さんの言葉を遮り、私は私で車を発進させた。後部座席には池田さん、沼袋さん、玄田君――つまり、今日来た生徒達が全員。
私は幻視する。
高速に乗って加速する、蒲郡先生のGT-R。右へ左へと車線を変えながら、他の車を追い抜いていく――生徒を乗せてたら、とうてい出来ない運転だ。そして、生徒達を運ぶ私がいなかったら。
彼女にとって都合の良い現実とは、つまり、そういうことなのだった。
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