211.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(5)

side:彩ちゃん


 蒲郡先生からのメッセージが届いたのが、7時30分。


 蒲郡先生:探索部の件でお願いがあります

 蒲郡先生:学校の校門前で8時集合

 蒲郡先生:突然で、ごめんなさい

 蒲郡先生:連絡をした気になっていました

 蒲郡先生:詳しくは


『詳しくは』の後で途切れていたのだが、催促するのも気が引けて、返信だけする。


 洞木:分かりました

 洞木:これから向かいます


 しかし、返信への返信は無かった。

 後から思えば、この時点で異変を察するべきだったのだろう。


 このことをみおりんに話すと。


「『鰤カフェ』でモーニングを食べながらお説教かもよ~?」


 と冷やかされたのだが……


 最悪、ことが済んだあと光君の『24時間ノンストップ探索』に直行することも考え、探索用具一式を持って車に乗る。私としては大学時代の愛車だったスバルのサンバーディアスをまた買いたいのだが、母から許可が降りない。


「おはよう~。ごめんなさいね、急に呼び出しちゃってえ」


 学校に着くと、校門前で手を振る蒲郡先生。


「じゃ、行きましょ。『カフェ・ド・シェル』までお願い」


『カフェ・ド・シェル』は、学校の近くにあるカフェで、以前は鰤が美味しい定食屋だったらしい。それで私達はこう呼んでいる――『鰤カフェ』と。


 はからずもみおりんの言った通りになったわけだが……お説教されるようなこと、何かあったっけ?


 車に乗り込むと、蒲郡先生が言った――後部座席の、荷物を見て。


「うわあ。やっぱりプロだと、準備もたくさんになるのねえ……本当に、急にお願いしちゃってごめんなさいね。あんな短い時間じゃ大変だったでしょうに……」


 ?


「メールにも書いたけど、先方の『男鹿高校』で顧問をなさってる先生が、校長先生――『男鹿高校』の校長先生の娘婿らしいのよ。それでね……」


 ??


「その顧問の先生から話を聞いてるうちに校長先生もダンジョンに興味を持って、教員だけで探索したりもしてるそうなの。それでね……」


 ???――私は、いますぐ車を停めて問い詰めたくなる気持ちを抑えて、言った。


「あの……私のスマホ、壊れちゃったのかもしれません。いまうかがった話って――届いてないんですよ」


 ちょうど信号待ちになったので、スマホを蒲郡先生に見せる。表示されてるのは、メッセージアプリの画面だ。


 そこでは――


「あら~『詳しくは』から後が届いてないじゃない。ごめんなさいねえ」


 ということになっている。


「じゃあ、今日UUダンジョンに行くことなんかも知らないのよねえ。それなのに、こんな準備をしてきてくれてえ。本当に、洞木先生って頼りになるわあ」


 聞くと、これから私達は、UUダンジョンに行くことになってるらしい。


『男鹿高校』という学校の校長と蒲郡先生が知り合いで、蒲郡先生が探索部の顧問になったことを話したところ『じゃあ、今週末、うちの探索部が合宿をするから見学に来て下さいよ』ということになったのだそうだ。


 それで見学というか、学生に混じって探索させてもらうことになったと。届かなかった分のメッセージにはそんな経緯と『見学に同行してください』というお願いが書いてあったと。


 しかし、ダンジョンに潜るとなると探索者資格だけではだめで『初心者向け講習』を受講しなければならないわけなのだが……


「講習? 受けたわよお。木曜日に」


 って、一昨日じゃないですか。蒲郡先生の年齢(50代)的に、無茶過ぎるでしょう。


「大丈夫よお。講習じゃ全然疲れなかったし。モンスターが出なくてね、予定より2時間も早く終わっちゃったのよお」


 というわけで、蒲郡先生の体力的には、まったく問題がないらしい。


 問題があるのは、私の方だ。


(まあ、学校での私の立場的に、断るわけにも行かないんですが……光君の方は、どうしたものですかね~。『24時間ノンストップ探索』をどこでやるかも決まってないし……合宿に同行ってことは泊まり? それじゃ終わってから合流っていうのは無理ですよね~。やっぱり、こっちを断るしか……)


 私の中で、蒲郡先生の誘いを断ることが決定。

 さて、どう切り出そうか……


「あら、ちょうど良かった。出て行く車があるわ。ここって、いつ来ても混んでるから困っちゃうのよね~」


 『鰤カフェ』に着き、車を降りて。小田切さんからのメッセージが届いたのは、その時だった。


 小田切:24時間ノンストップ探索

 小田切:場所はUUダンジョンに決まりました

 小田切:17時までに現地集合

 小田切:ということで


 スマホは故障していたのでは――そんな疑問がわくのだが、でも終わり方を見る限り、やはりメッセージは途中で止まっている――やはり故障している? それが1次的に復活した――都合良く?


 返信しようとしたら、出来なかった。さんご君謹製の『脳内メッセージ』でも駄目だ。


 やはり、一時的に復活していただけだったのだ――都合良く。


 蒲郡先生を追って『鰤カフェ』のドアを潜りながら、私は確信していた。


 これは、彼女のスキルによるものなのだと。


=======================

お読みいただきありがとうございます。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、

フォローや☆☆☆評価、応援などよろしくお願いいたします!

コメントをいただけると、たいへん励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る