157.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(9)(下々々々)

Side:パイセン


「……みおりんが?」


「あたしにスキルが生えてなかったら、ああなってたと思う。スキルのないあたしなんて……彩ちゃんみたいなもんだもん」


「私!?」


「気が弱くて、コミュ障で、図体はデカいくせに喧嘩が強いわけでもない、彩ちゃんのいいところが全部なくなったみたいな彩ちゃん……でもさあ、そんなあたしでも光のことが好きなのは変わらなくて、誰かと光のことを話したくて、自慢したくて……市川みたいな奴らに騙されて、酷い目にあってたんじゃないかなあ」



 タクシーで駅まで戻り、トイレで変装を解除した後、今日は解散ということになった。


「ちょっと……お茶でもしてきませんか?」

「……そうですね」


 ということで、彩ちゃんと私は駅から伸びるこの街のメインストリートのドトールに入った。


 ここでスタバを選ばないところが、彩ちゃんだと思う。


「しかし……ヘビーでしたねえ」

「……でしたねえ」


 やはり話題は、今日の作戦のことだった。


 市川に対する暴力はまあいいとして、キャンプ場で全裸にされた人達の映像は、しばらく忘れられそうになかった。


 彩ちゃんがお茶に誘ったのは、私へのケアが目的なのは明らかで、だから話すのは私ばかりになった。


「……そもそも市川達の犯罪がヘビーで……ヘビーだと分かってはいても、生理的な嫌悪感も含めて……数字には出来ないわけで」


「はい」


「でも……あの、キャンプ場の映像って、この事件がどれくらいヘビーなのか、数字じゃない形で重さを表現してた……されてたっていうか」


「はい」


「あれくらいのことをされて、それでも償えきれないくらいヘビーなことなんだなって。多分……私は分かってないんです。自分のことのように思えてないっていうか……スキル持ちで、強くて……だから、自分は被害者にならないって……思ってるんじゃないかって……」


 私が黙ると、彩ちゃんが言った。


「みおりんは『自分もああなってたかもしれない』って、言ってましたよね?」


「はい。私より、ずっと強いのに……」


「あれって、ぴかりんがいるからだと思うんですよ」


「光くんが?」


「昼間に行ったジムって、ぴかりんも通ってるんだけど……私の後輩も、あそこに通ってたんですよ。それで、ジムでのぴかりんがどんなだったか教えてくれたんです――スキルが生える前の、ぴかりんがね」


「スキルが……生える前の?」


「すっごい地味だったらしいですよ。そこそこ強くて顔もいいのに、いつもぼーっとして何を考えてるか分からなくて……全然、目立ってなかったって」


「それって……」


「そう。みおりんが言ってた『スキルが生えてなかった場合のあたし』そのものでしょ?」


「……はい。全く同じですね」


「さっき『ぴかりんにとって私達はどんな存在なのか?』って話になったじゃないですか。私は『優しいお姉さん』で――」


「私は……『ちょっと守ってやりたくなる同級生』。みおりんは……」


 みおりん自身は『なんでもヤらせてくれる都合のいい女』って言ってたけど……


「私、あのとき思ったんですよ。みおりんは、ぴかりんの『双子』なんじゃないかって」


「……双子?」


「同じ人間が、違う性別や立場に分かれた――『分身』とでも言ったらいいんでしょうかね……ああ、そうか……そういうことなのかもしれない。あの……不思議ですよね? みおりんは、あんなにぴかりんのことが好きなのに、私達に……」


「ですよね……どうして……独り占めしたいって思わないのかなって」


「みおりんが、私達がぴかりんと付き合っても平気なのは、ぴかりんが、自分の一部っていうか……」


「自分自身」


「だからなんですよ。みおりんがぴかりんを好きなのは、自分が自分を好きってことで……だから、私達がぴかりんと付き合うのは自分と……」


「男性としての自分と」


「そう。男性としての自分と付き合うってことなんじゃないですかね。だから、私達……私とパイセンが平気なら、私達がぴかりんと付き合うのは問題ない……気に病むことはないって……こと?」


 そういった話が、私の心のどこに作用したのだろう? 彩ちゃんと別れてタクシーに乗り、家に帰る道すがら、私は、光くんのことが今まで以上に愛おしくなってるのを感じていた。



 そして翌日、光くんが私の家に来た。



 補習を終えた光くんと待ち合わせして、マックに寄ってから、私の家へ。


「うわあ、いい景色だねえ」


 私の部屋に入り、窓辺に立つ光くん。

 親は夜まで帰らない、そんな状況で。


「光くん……」


 私は、後ろから光くんに抱きついていた。


 みおりんからは――


『光なんてチョロいんだから、一緒に動画でも観ながら『あー、眠くなっちゃったー』とか言って横になって寝たふりしてれば、キスしておっぱい触ってくるわよ』


 というアドバイスを受けてたけど、そんな段取りを踏んでる余裕はなかった。


 光くんの背中に顔を押しつけながら、私は、昨日から増してる光くんへの愛おしさの理由が、分かってしまっていた。


 光くんは、みおりんなのだ。


 だから、これまで間近に見ていたみおりんのいろんな表情や、伝わってきた感情が光くんに重なって、私の中の光くんが2人分になってしまったみたいで。


 そしてまだみおりんと知り合う前の、みおりんに憧れて『みおりんしか勝たん』なんてハンドルで掲示板に書き込んでたみおりんファンだった頃の私が感じてた、寂しさや悔しさ――どんなに憧れても私はみおりんになれない、みおりんと1つになれないことへの想いが蘇って、でも目の前のぴかりんこのひととならという想いがそれに重なって、倍倍々の倍プッシュって感じで指数関数的に膨れ上がって、私は、私は……


「光くん。光くぅん。好きぃ。もっとぉ。もっとキスしてぇ。ちゅ、んちゅ、ちゅ……ひぁっ、はぁ、あ、あ、あぁ……私、おっぱい大きいでしょ? んん、ひぇ、え……知ってたよって……ふぁ、やだ、やらぁ。恥ずかしいよぉ……ふぁ、ふあああ!」


 言い逃れのしようもないほど乱れて甘えまくり。


「やらぁ。『パイセン』なんてやなのぉ。2人きりのときは、あ、あ……『寿莉愛』て呼んでぇ。あ、ああ。『寿莉愛』。あ、もっと、呼んで。寿・莉・愛あ、あぁっ! 寿・莉・愛ぁあ! あぁああっ!」


 成人したら裁判して改名するつもりの名前を彼に呼ばせ。


 そして遂には――みおりん達との約束を破り、一線を超えてしまったのだった。


「もぉ、無理。ちょうだい。約束なんて……あ、も、もういいから! 私が謝るから! あ! 寿莉愛、もう、光くんで、気持ち、良くて、ふぁ、あ、気持ち、あ、頭の中、滅茶苦茶だから、あっ、あっ、寿莉愛に、ちょうだい。ひぁっ。気持ちだけじゃなくて、んくっ、物理でも、あっ、光くんを、あっ、ちょうだい。ふぁっ、物理でも、物理でも寿莉愛を滅茶苦茶にしてぇえ! ふぁあああああああああ!!」


 感想は……めっちゃ気持ちよかったです。


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お読みいただきありがとうございます。


というわけで閑話は終わり、次回から新章です。

新章は彩ちゃんのターンになります。


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