188.猫と気のいい大男(上)
チ=カバとの国境を飛び越え、着地したのは山の麓だった。
建物はまばらで、でもそれとは別に、いくつも灯りが見える。
「あそこだ! 人がいるぞ!」
すぐ僕らは、建物から出て来た人達に囲まれることになった。
棺桶とサーフボードに乗って空から現れた謎の集団――当然だろう。
「何者だ?」
「人?」
「モンスターでは……なかったのか」
「もしや、魔族? 魔王軍!?」
遠巻きに剣を構えるのは、数十人。さっき上から見た建物の数からすると、かなり多い。ほとんどは革鎧で、その向こうに甲冑を着けた姿がいくつか。
手を上げて、言ったのは武人――ブラムだった。
「私の名はブラム=バーンバーン。息子に会いに来た! 息子の名はブライ=バーンバーン! 手間をかけてすまんが、息子を呼んでくれないか?」
その言葉に、囲みの面々がどよめく。
「ブライ隊長の?」
「隊長に、父親が!?」
「そりゃいるだろ人間なんだから」
「いや、あんな恐ろしい人が人間から生まれたなんて信じられねえだろ!」
「とにかく隊長を! 隊長を呼べ!」
しかし、呼ぶまでもなかったみたいだ。
「おい、お前ら……殺されたいのか?」
言ったのは、遅れて建物からやってきた、巨大な人影だった。身長は、2メートルをゆうに超えてるだろう。でも細長い印象は、まったくない。そう思わせるほどに、巨体を太い筋肉で盛り上がらせていた。
人影が、僕らを睨めつけながら、これも太い男の声で言った。
「気を付けろよ? 下手な口をきいたら、死ぬぞ――」
僕らを睨めつけたまま、男は続ける。
「――俺達がな。お前ら、教えてやる。一目見ただけで、分かるようになれ。そこにいるのはな、俺達なんて瞬きする間に皆殺しに出来るくらい、恐ろし~いお方々だ。それくらい、分かるようになってくれ。そうじゃなきゃ……長生きできねえからよ」
「「「!!」」」
男の言葉に、囲みの面々が息を呑む。
それを見て、美織里が僕に耳打ちした。
「(ぼそっ)分かってんじゃん」
それが、男にも聞こえたのだろうか。彼は、よく見ると端正な顔立ちを、梅干しを食べた直後みたいにきゅっとさせると、言った。
「親父~。なんなんだよう。来るなら言ってくれよお。突然来られたって困るんだからさあ。しかも、そんな化け物みたいなお方々を連れてさあ。イクサのおじさんも一緒だから安心したけど、じゃなきゃ、親父が攫われて、ついでに俺のことも攫いに来たのかと思っちゃってたよお!」
強面から急変した男の態度に、僕は思った――チ=カバのダンジョンに潜るにあたっての手続きとか、細々とした心配は、これで解決したのだろうな、と。
●
もう確かめるまでもないことだったけど……
男の名は、ブライ=バーンバーン。
「偉大なる空に輝くペッキオ山の星にして猫神様~~~ッ」
彼の執務室だという建物での自己紹介の後、まず彼がさんごに平伏して、ダンジョンでの
事情を聞いて、ブライは目に涙を浮かべた。
「それは……それは、なんて有り難い……承知しました! ダンジョンへは、俺も一緒に潜って案内しましょう!」
そういうわけで、チ=カバに到着して15分でダンジョンに潜る段取りがついた。
ダンジョンに着いたのは、その5分後だ。
僕らが降りたここは、山にあるダンジョンを見張るための基地で、ブライはダンジョンのモンスターを間引いたり、ダンジョンブレイクの兆候を見つけるための部隊を率いているのだという。
「親父と俺で先導します。殿も腕の立つ奴に任せますんでご安心を――では、行きましょう」
ブラムとブライの親子を先頭に、僕らはゲートをくぐった。
並び順は、ブライ、ブラム、僕、美織里、さんご、イクサ、ブライの部下数人だ。
「
その眷属が、僕らの狩りの対象だ。
「眷属がいるのは、中層――それから、低層の奥の方です……ふんっ! 親父、そっちだ」
「おう!」
話しながら、現れるモンスターをブラム親子が斃していく。
そういえば――まだ聞いてなかったな。
「このダンジョンは、なんて名前なんですか?」
「カナヨシダンジョンです」
カナヨシダンジョンに現れるモンスターはオークがほとんどだった。
ただ一度だけ――
「親父、イレギュラーだ!」
「デュラハンごときに遅れはとらんよ!」
デュラハンが出たけど、これも5分程度で斃した。ブラム親子のコンビネーションは鉄壁で、2人とも掠り傷すら負っていない。
2人が使っているのは短めの片手剣で、それを両手に持った2刀流だ。マゼルさんとの立ち会い以降、僕は剣術に興味を持ち始めていて、だから2人の戦いぶりを自然と目で追っていた。
そして、とうとう。
低層の奥で
「よーし、ようやくあたしの出番ね~!」
勢い勇んで美織里が前に出る。
でも――足を止めて。
振り返ると、言ったのだった。
「あれって、どう
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