162.猫が怒ってドラゴン退治(後)

異世界こっちなら、遠慮する必要はないからね。スキルシステムに干渉して、彩にちょうどいいスキルを付与してあげるよ」


 と、さんごが言った。

 と、同時にだった。


「あれぇ……これは? う~ん」


 彩ちゃんが唸って、手を振り下ろした。


「ああ……そういうことですか」

「そういうことだよ」


 にやりと笑いあう、彩ちゃんとさんご。

 僕には、なにがなんだか分からない。


「…………」


 彩ちゃんが手を振り下ろした延長上では、さっきまでと変わらない木々の姿があり、ただ、はらはらと舞い散る木の葉だけが、記憶に残った。



 ドラゴンの死体がある場所は、すぐ分かった。

 単純に、凄い音がしていたからだ。


「ぐぎょっ! べっ! ぶばるぅうううっ!!」


 真っ二つに裂けた身体で、なのにまだドラゴンは、血を吐きながら暴れている。


「重力」

「ぷべっ!」


 でも『重力』で潰したら、それも止まった。


雷神槌打サンダー・インパクト!」


 そして、やはり魔力が濃いからだろう。いつもより激しく暴れる雷の炎が、一瞬にしてドラゴンの巨体を焼き尽くした。


「「「……………………しゅごい」」」


 これで偉そうな人達にも、僕の実力を把握してもらえたみたいだ。


 お父さんが言った。


「じゃあ行こうぜ。ジョウエンダンジョンへ」


 いったん建物に戻り、僕らはジョウエンダンジョンに向かう馬車に乗った。



 馬車に乗り、改めて自己紹介をした。

 偉そうなおじさん達は――


「私はガ=ナール公爵。こちらの2人はワ=レール侯爵にダ=レール侯爵です」


 とのことだった。


 なお、ガ=ナール公爵がパイセン推しで、ワ=レール侯爵とダ=レール侯爵は美織里推しらしい。


「あの……僕らの動画は、どんな風に……」


「龍吾様が、映写の魔導具に複製してくださってですな。最初は我々の内輪で鑑賞会を開いていたのですが、その複写が出回りましてな。いまでは貴族のパーティー等でも上映されている次第でございまして……更にその複製が王都の祭りでも上映され、毎回、街がパニックになるほどの評判で……」


「毎回?」


「最初は1年前――彩様の『どらみんチャンネル』の動画が祭りで上映されましてな。それが評判を呼び、年に1回の祭りが2度3度と行われることとなり、そこへMTTの動画も加わって、草の根での上映会も開かれるようになり、それが目当ての貴族や商人で王都は空前の活況を示しておるのですよ」


 これは……思った以上の見られっぷりだ。


 それを実感させられたのは、ダンジョン近くの街で休憩をとったときだった。


 馬車から降りる彩ちゃんを見つけた子供が――


角っつの!」


 と、彩ちゃんがMTTの動画でしているお馴染みのポーズを真似してみせたのだ。


「同じですね……うちの近所の小学生と、同じ反応です」


 はははと力なく笑う彩ちゃん。

 確かに、僕らの世界と同じ反応で、ただ違うのは――


「ひぃいいいいっ! 申し訳ございません! 申し訳ございません! 子供が! 子供が! 申し訳ございません! お許しを! お許しを!」


 と、子供の母親らしき女性が泣きながら土下座してることくらいだろうか。


「いいんですよ。気にしないでください」


 彩ちゃんが、母親の肩を撫でて起き上がらせようとする――しかし、その横では。


「ぴかり~ん。びかり~ん。うだだぁ~」


 また別の子供が、僕の口に石を詰め込もうとしていた。どこの世界でも、子供は、僕の口に何かを突っ込もうとする生き物らしい。


 また新たに発生した土下座を宥めて、再び馬車は走り出し、ほどなくジョウエンダンジョンに到着した。



 ジョウエンダンジョンに着いて、最初に思い出したのはNRダンジョンだ。


 第1層がショッピングモールになってるNRダンジョンと同じく、ジョウエンダンジョンでも、ゲートを囲むように商店や食堂、宿屋が建ち並んでいた。


『燃えてる』とお父さんが表現した、このダンジョン。


 その背景についても、馬車の中で説明を受けた。


 なんでも深層のぬし的なモンスターが入れ替わり、ダンジョン内の生態系が混乱。上層へ追いやられたモンスターにより、ダンジョンブレイクに似た状態となっているのだそうだ。


 すれ違う人の顔が張り詰めているのは、そういう事情があるからか。


「父上えええ! ウ=ナールがまいりましたぞぉお!」


 馬車を降りた僕らに駆け寄ってきたのは、甲冑を着た背の高い青年だった。美形だけど、顔中の筋肉に力がこもりまくっている。


「おお、ウ=ナール……どうしてここに!?」


 と、応じたのはガ=ナール公爵。

 この2人、親子か……


「何をおっしゃるかああ! 聞きましたぞおお! 彩様がああ!!  来られているとおおおお!! いうではありませんかああああ!!」


「あ、ああ……どこでそれを?」


「彩様にいいい!! ダンジョンをおおお!! 案内するうう!! 役目を仰せつかった私があああ! 彩様に関するううう!! 情報をおおおお!! 聞き逃すわけがああ!! ないではないですかぁあああ!!」


 と、そんな大声の会話に耳と頭が疲れてきたところで、さんごからのメッセージ。


 さんご:このウ=ナールという馬鹿は、彩と一緒にダンジョンに潜って、彩の心と将来の王配の座を奪うつもり、というかそういう役目を父親のガ=ナールから命じられてるようだね


 そういうことだよね……話を聞く限り。


「彩様に潜っていただくううう!! ダンジョンはぁああ!『ユルイ』か『ヌルイ』と聞いておりましたがああああ!! いまのおお!! この状態のおお!! ジョウエンでありましてもおおおお!! 私はああ!! 一向にいいい!! 構いませえええん!!」


 さんご:ユルイとヌルイは、初心者向けのダンジョンだ。そこで無双して、彩にいいところを見せつけるつもりだったんだろうね


 彩ちゃんを見ると――


「…………」


 虚無の表情で、耳を押さえていた。


 そしてとうとう、そんな彩ちゃんをウ=ナールが見つけた――見つかってしまった。


「ふおおおおおお!! 彩様ではありませんかああああああ!! お初にいい!! お目にかかりますううう!! この私がああああ!! ガ=ナールの嫡子いいいいい!! ウ=ナールでございますううううう!!」


 ずかずかと、ウ=ナールが彩ちゃんに向けて歩き出した、その2秒後。


「誰だ、お前」


 虫を見るような目で、僕は、ウ=ナールに見下ろされていた。


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