162.猫が怒ってドラゴン退治(前)
「不躾にも! 我が友に! 『鑑定』などをかけておいて! それで! よくも! 猫神様などと! ほざいたものか!――失せろ!!」
さんごの叱責に、おじさん達が尻餅をついた。
「「「あひぃいぃいいい~~~~っ!!」」」
さんごが怒ったのは、おじさん達が無断で僕に『鑑定』をかけたからだ。
異世界が舞台のラノベで時々ある『許可なく鑑定魔法をかけるのは無礼』という設定――それがこの世界でも、マナーとして存在しているらしい。
確かに、おじさん達が僕に向ける視線は、不快だった。そして同時に感じていたのは、身体の表面の魔力が波打つような感覚で、それは僕が身構えた途端に霧散したのだった。
「あひぃいいいい~~~っ! これはぁ! これはぁああ! 申し開きのしようがございませんんん~~~っ! 猫神様のご友人とはつゆ知らずぅううう~~~っ! 平にぃっ! 平にお詫び申し上げますぅううう! どうかぁっ! どうかお許しをぉおおおおお~~~っ!!」
そんなおじさん達にさんごが何か言う前に、彩ちゃんのお父さんが言った。
「な? こいつら暑苦しいだろ?」
「「ぷっ」」
それに僕と彩ちゃんが笑ってしまって、それでこの件は終わりになった。
そして改めて、僕のことが紹介される。
彩ちゃんのお父さんによって、若干、煽り気味に。
「(略)……だからさ、このぴかりん君は、彩の彼氏なわけ。彩が王様になったら、王配になるわけよ。分かってる?」
「「「ははっ、ははぁああああっ!!」」」
「だったら、ちゃんとした扱いしてくんないとダメだろ。で、言ってたよね。『彩の彼氏の実力が見たいから連れてきてダンジョン探索させろ』って。ほら、連れてきたからさ。行こうよ、ダンジョン」
「は、はぁ……では、明朝より準備を始めまして……」
「なに言ってんだよ。これからだよこれから! 時間がないんだからさあ」
「こちらで過ごしてる間、あちらの世界では時間が流れないと……おっしゃってらしたかと?」
「気持ちだよ気持ち! 気持ちの問題として時間がないんだって! ほら、いま燃えてるダンジョンあるだろ。あそこ行くぞ!」
「燃えてる……とは、ジョウエンダンジョンのことでしょうか?」
「そうだよ。あれくらい燃えてるダンジョンじゃなきゃこの2人の実力は分かんねーだろ。渡した動画、ちゃんと見てる?」
「も、申し訳ございません……MMTの『パジャマパーティーシリーズ』しか見ておりませんで……」
「ダメだよ! 探索回もちゃんと見なきゃ!」
「わたくし、パイセン推しでございまして……」
「そんなの聞いてないよ! っていうか彩じゃないのかよ!?」
「彩様を推すのは恐れ多く……」
『パジャマパーティーシリーズ』とは、
この会話から察する限り、少なくともMMTのチャンネルの動画は、お父さんによって
「あと『さんごチャンネル』の動画も渡したよね? 見た?」
「はい……しかしあれは…………CGなのでは?」
「CGって意味分かって言ってる?」
「作り物の……虚構の映像という意味かと」
「違うよ。あれ本物だよ。あのさぴかりん、見せてやってよ。え~と、なんだっけあれ。でっけえ顔のモンスター倒したやつ。燃やしちゃったやつ」
「はぁ……」
というわけで僕は、異世界の偉そうなおじさん達に自分のスキルを見せることになったのだった。
●
屋外に連れ出されて初めて分かったのだけど、僕らが転移したのは、セメントで作った巨大なサイコロみたいな建物だった。
辺りは木々に囲まれていて、建物の前の広場に出ると、お父さんが空を指さして言った。
「おー、あれあれ。丁度良かったじゃん。あれ、落としちゃってよ」
「あれ……ですか」
お父さんが指さしたのは、ドラゴンだった。
どらみんがもっと成長したらああなるんじゃないかって感じの、巨大なドラゴン。
ゆっくりと、どこを目指してる風でもなく、青い空を背に飛んでいる。青い空――これも外に出て気付いたことだけど、僕らの世界とは逆に、異世界は昼間だった。
というわけで、ドラゴンを落とす。
(『でっけえ顔のモンスター倒したやつ。燃やしちゃったやつ』……ということは、
幸い、異世界は僕らの世界より空気中の魔力が濃いみたいだ――周囲の魔力を、体内に吸収して、その魔力を、思い切り込めて――
「結界!」
昨日YYダンジョンで試した、モンスターの体内に『結界』を発生させる技だ。
強い魔力を込めたお陰で跳ね返されることもなく、ドラゴンの内臓を破壊できた――どころではなかった。
「ぎょぼへぇっ!!」
辺りの木々を揺るがす絶叫を残し、ドラゴンが、真っ二つに裂けて落ちた。
「「「ええ…………」」」
偉そうなおじさん達が、どん引きする。
その横でお父さんは。
「おお~~~。すげえすげえ」
と、全く驚いてない様子だった。
「やっぱすげえよ、ぴかりんは。動画で見たのとおんなじだよ。一発だよ一発。一発でドラゴンやっつけちゃったよ」
「すみません。燃やすのとは別のスキルを使っちゃって……良かったら、死体のところに行って燃やしますけど」
「おお~、いいねえ。行こう行こう。おい、お前ら行くぞ!」
「「「はい…………」」」
ドラゴンの死体に向けて歩き出すと、後ろからぶつぶつ言う声がした。
「凄い……パイセンも『足場』でああいうことやってたような……う~ん…………」
腕組みする彩ちゃんが何を考えてるのかは分かった。僕らの中で、彩ちゃんだけが遠距離攻撃を持っていない。打撃の威力を飛ばす技は持ってるけど、僕やパイセンのそういう技とは違って、座標を指定して撃つことができないのだ。
すると、さんごが言った。
「気にすることはないよ。彩には、僕が新しいスキルをあげるから。だってそのために、異世界に来たんだからね」
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