147.猫も承知の羞恥プレイ(後)

「あのお……部活で頑張ったら……うちの子も、イデアマテリアに入れてもらえるんでしょうか?」


 そんな質問への、美織里の回答は。


「イデアマテリア――私が所属して経営にも関わってる探索者事務所ですが……まずは、探索者事務所についての説明が必要かと思います。いくつかタイプがあって、まずは『派遣型』。これは、所属している探索者を、主に自治体が主体で行う探索に派遣するものです。それから『一家クラン型』。これはある程度実績のある、名指しで仕事が来るようなパーティーや個人が、法人を作って依頼の窓口や財務面の処理を任せるタイプです。芸能人の個人事務所みたいなものですね。それから最後に『芸能型』。これは『派遣型』と『一家型』を合わせたようなスタイルで、個人と会社両方の名前で仕事をとってきます。事務所主導の仕事が多いのもこのタイプの特徴ですね――で、イデアマテリアがどのタイプかといいますと、最後の『芸能型』です。つまり、契約するにはある程度の実績を積んでもらう必要があります。部活動での成績を材料に契約……というのも無いとはいえませんが、可能性は低いと考えてください」


 というものだった。


「正直に言って、同じ学校の生徒を『芸能型』の事務所には入れたくない、というのが私の気持ちです。探索者個人の名前を売っていく『芸能型』事務所のありかたは――そもそも『芸能型』という呼ばれ型をしてることからも分かる通り、芸能事務所に近いです。私自身、探索者になる前は芸能人をやっていましたが、芸能の世界は汚いです。あんな世界に、多少なりとも関わりのあった……友人を、関わらせたくはない。そう、思っています。それとイデアマテリアの仕事は難度が高く、所属する探索者も癖が強くて――これをご覧下さい」


 美織里がパソコンを操作すると、スクリーンに動画配信サイトのイデアマテリアのチャンネルが映し出された。


「はい。ここに並んでいるのはイデアマテリアに所属している探索者の動画なんですけど……タイトルを読んでいきましょう。『ルームツアーしてたら実家が爆発したんだが』『中3の娘が探索者になりたいというので、別れた妻と一緒に説得してみた』『衛生的にヤバいお寿司ビュッフェとダンジョン蜘蛛の毒、どっちがヤバいか試してみるのじゃ~』『家で配信してたら親に凸されたので事務所に住むことにした』……イデアマテリアの探索者は、こういう人がほとんどです。とうてい、まともとは言えません。法を犯したりとか、そういうのではないんですが……私が何を言いたいかは、お分かりいただけるかと思います」



 そんな感じで説明会は終わり、会場を後にした。彩ちゃんたちは、父兄だけ残っての話し合いがあるため、僕と美織里だけ。さんごは学校の近所の野良猫をナンパしに行った。


「そういえば、ここが部室になるんだって」


 廊下を歩きながら、美織里が指さしたのは『印刷同好会』と似たような感じの部屋だった。


「入ってみる?」


 聞けば、


「そうだね~」


と部屋を通り過ぎ、立ち止まったのは、廊下の反対側の端にある、別の部屋の前だった。


「ちょっと、憶えといてもらいたいスキルがあるんだよね~『解錠アンロック』」


 美織里がドアノブを撫でると、がちゃりと音がして鍵が開いた。


「上級ダンジョンだと、鍵付きの部屋があったりするから――『施錠ロック』。やってみて」


「うん――『解錠アンロック』」


 がちゃり。


 見よう見まねだったけど、1回で出来た。


「優秀優秀」


 部屋に入ると、美織里は。


「じゃあ、締めて」

「うん――『施錠ロック』」


 がちゃり、鍵が閉まった。


「次は『結界』ね――ダンジョンで遭難した時、通路のへこんだところに入って救助を待つってこともあるわけ。そういう時、モンスターをやり過ごすための『結界』があるの。光の『結界』は攻撃を防御できるけど、今度はそこに音を遮断するイメージも加えてみて」


 音か――音、音……空気の震え。

 それを、遮断する。


「……『結界』。こんな感じ?」

「うん。ちゃんと出来てる。じゃあ次は……」


 次に美織里は、窓際に立つとカーテンを開けた。

 部屋が、一気に明るくなる。


「いまの『結界』で音は遮断できた。でもそれだけじゃ不十分――モンスターから、こちらの姿は見えてしまう。じゃあどうするかっていうと――分かるよね?」


「『結界』」


 今度は音だけでなく光も遮断するイメージも加える――部屋が、真っ暗になった。


「良く出来ました……でも実は、これでも不十分。モンスターからも見えない代わりに、こっちからも見えなくなっちゃった――どうする?」


 どうするか――見るということは、眼球で光を受け止めるということだ。だから、モンスターに向かって出て行く光だけを止めて、こちらに入ってくる光は止めない……なんて考える必要はなかった。マジックミラーを思い浮かべるだけで良かった。


「『結界』」

「……完璧ね。完璧なセーフハウスの完成」


 そう言う美織里は僕に背を向けたままで、窓の外を見ていた。『結界』のせいだろう。外の明るい景色と一緒に、窓には美織里の姿も映っている。


 久しぶりに見る美織里の制服姿の、スカートが弾けそうなお尻も、ボタンを弾け飛ばしそうな胸も、ボタンを弄ってる指も、赤らんだ顔も、ぜんぶ一緒に見えていた。


「え、こんなところで? だめ……学校だよ? ん……ふあ、あ。見られちゃう。あふ。あ、見られちゃうよぉ……ふああ、あっ、あっ……んっ、くふっ!」


「大きな声出すと、聞こえちゃうよ?」


「ん”ん”っ!?」


 後ろから口を塞ぐと、ぶるっと美織里の身体が震えて、窓に映る目が潤んだ。


『結界』が張ってあるだろ、という突っ込みは、僕も美織里も口にしなかった。


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