122.猫と久々の探索です(2)海側列、丘側列

「ではこれから出発するわけですが、先に言っておくと私語は禁止しません。この実習のテーマは、長期間の探索においていかにパフォーマンスを持続するか、その方法を模索することにあります。ですから、パフォーマンスを維持するためでしたら私語もOK! どんどんやってください! それでは出発!」


 浜辺を歩き出す僕らは、こんな風に並んでいる。


 丘側:講師二瓶、春田(僕)、神田林、鹿田、おじさん1

 海側:講師天津、蝶野、猪川、洞木(彩ちゃん)、おじさん2


 というわけで僕は、蝶野さんと並んで歩いている。

 蝶野さんが言った。

 横にいる僕ではなく、斜め後ろの神田林さんに。


「あのさ、神田林さんってパーティーでどういう役割なの?」

「あえて言うなら、遊撃ですね」

「あー、やっぱりね。私も遊撃なんだけど、この並び方って役割ロールでばらしてるのね。ちなみに猪川がアタッカーで鹿田は盾役」


 言われて見ると、僕にも分かった。

 遊撃の神田林さんと蝶野さん、盾役の彩ちゃんと鹿田さん、アタッカーの猪川さんと僕が、同じ列にならないようにばらされているのだ。


 そしてその理由も、すぐ分かった。


「丘側500メートル先にモンスター。丘側列、戦闘体制に移れ!」


 講師の二瓶さんが指さす先に、身長3メートルほどの人型のモンスターがいた。


 初めて見る種類のモンスターで、僕らを見つけると近付いてきた。手足も胴体もビニール傘くらいの太さしかなくて、動きは速くない。でも身長にふさわしく、歩幅は広かった。


 それを迎え撃つのは、丘側列――僕と神田林さんと鹿田さんだ。アタッカーと遊撃と盾役。つまりどちらか片方の列だけでも戦闘が出来るようになっているのだ。


「3秒下さい!」


 神田林さんが前に出て、手の平をモンスターに向けた。

 べきっ。

 乾いた音とともにモンスターが転倒する。

 見かけより重量があるのか、モンスターの身体の半分くらいが砂に沈んだ。


「「うん!」」


 僕と鹿田さんが頷きあい、下がってきた神田林さんと鹿田さんが入れ替わる。

 鹿田さんが盾を構えるのを待ち、その陰から――

 

雷神槌打サンダー・インパクト!」


 僕が、雷の打撃を叩き込んだ。


 驚いたのは、その威力だ。最近は『射撃With雷シワック』ばかり使ってご無沙汰だったけど、記憶の中の「雷神槌打サンダー・インパクト」より、明らかに威力が増していた。


 当然、一撃で――


「ぴぃ――――――――っ!」


 笛みたいな音をたてて、モンスターが粉々になった。破片が宙に舞いながら燃えて、ところどころ理科の実験のマグネシウム燃焼みたいな炎があがり、燃え尽きる。そこまで含めても、1分にも満たない戦いだった。


「…………よしっ」


 小さい声と小さい仕草でガッツポーズしてる神田林さんは、きっといまの戦闘で何かを試して、手応えが得られたのだろう。


「丘側列! 戻れ!」


 二瓶さんの号令で、海側列と合流。


「前進再開! 周囲に気を配りながら進め!」


 振り向くと僕らの足跡が真っ直ぐ続いていて、さっき戦闘のあった場所だけ、それが乱れていた。


 これから24時間、これを何度も繰り返していくのだ。


 僕は思い出していた。どこかで聞いた、音も光も無い密室で行われるという拷問を。ただ、部屋に居続けるだけ。ただそれだけで精神が削られていくという拷問。


 この浜辺は明るく波音も止まない。でもそれが延々と続く中をひたすら歩き続けるこの実習も、きっと、1歩進むごとに同じ効果を顕していくに違いない。


「海側300メートル先にモンスター。海側列、戦闘体制に移れ!」


 海から現れたモンスターは、クラゲとヤドカリを合わせたような姿で。


「ふんぬぉっ!」


 彩ちゃんのモーニングスターに殻を潰されたところを蝶野さんに追撃され、最後は猪川さんの剣の一撃でとどめを刺された。


 ちょっと興味をひかれたのは、蝶野さんの装備だ。


「それって、カリスティックですか?」

「知ってるの? さすがだね~」


 蝶野さんの武器は、カリスティックだった。フィリピンの武術シラットで使われる木の棒だ。もっともそれ自体は実戦に使うためのものはでなく、剣の代用品の、あくまで訓練用の道具なのだけど。


「剣も考えたんだけど、木の棒こっちの方が、私のスキルと相性がいいんだよね」


 そう言って笑う蝶野さんのスキルがどんなものなのか知らないけど、もっと親しくなったら教えてもらえるだろうか。


「海側列戻れ! 前進再開!」


 そうして、再び歩きだす。


 その後4回の戦闘を行い、2時間も過ぎた頃。


「ではこれより第2層に降りる!」


 僕らは第1層の端に着き、第2層へと降りた。

 第2層も、海と浜と丘しかなかった。


 丘側列と海側列が入れ替わることもなく、僕らは淡々と砂浜に足跡を残していく。


 また2時間半ほどで第2層も踏破し。


「これより第3層に降りる!」


 更に2時間半で第3層も踏破。


「これより第4層に降りる!」


 そして次の2時間半で第4層の端へ。

 第5層に降りるかと思ったら――


「往路終了! これより反転して復路に入る!」


 ここで引き返すことになった。


 出発からちょうど10時間。

 残りの14時間を使って、第1層のゲートまで戻るわけだ。


 ちょっと気になったので聞いてみた。


「あの……24時間経つ前にゲートに着いたらどうなるんですか?」

「ぐるぐる回る!」


 と、二瓶さんの答え。


「時間が来るまで、第1層を行ったり来たりだ。もっとも復路は疲れもあってペースが落ちる。ゲートに着くまでに24時間経ってるのが通例だな――では前進を続けながら点呼! 丘側列、春田!」

「はい!」

「神田林!」

「はい!」

「鹿田!」

「はい!」

「海側列、蝶野!」

「はい!」

「猪川!」

「はい!」

「洞木!」

「はい!」


 二瓶さんの言った通り、復路はペースが落ちて、3層に上がるまでに3時間かかった。

 1歩1歩にかかる時間が、僅かずつ長くなっているのだ。


 だから2層の階段まではもっとかかり、4時間。


 異変は、2層に上がって3時間経った頃に起こった。

 それは、偽カレンによるものではなかった。


 二瓶さんが漏らした、こんなひと言がきっかけだった。


「肉が……生き返った?」


 その結果――


 僕の側には、さんごも、神田林さんも、彩ちゃんもいなくなっていたのだった。


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お読みいただきございます。


久々のダンジョン探索ですが、さてどうなることやら……


面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、

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