叔父に家を追い出された僕が異世界から来た猫と出会い、ダンジョン配信でバズ狙いすることになった件。ちなみに元アイドルで美少女探索者の従姉妹は僕にべた惚れです
121.猫と久々の探索です(1)そびえ立つOF観音
121.猫と久々の探索です(1)そびえ立つOF観音
探索実習が行われるのは、神奈川にあるOFダンジョンだ。
「え……ちょっと!」
神田林さんが、驚いた声を上げた。
理由はOFダンジョンの近くにある、とある建造物だ。
彩ちゃんも驚いていた。
「これが……OF観音! デカい……デカすぎますよこれは!」
OF観音とは、彩ちゃんが言った通りの巨大な観音像だ。全高、なんと25メートル。そしてOFダンジョンは、そのすぐそばにゲートのあるダンジョンなのだった。
もともと有名な観光スポットで、付近には探索者より観光客の方が多い。だから今日の集合場所は、ゲートからちょっと離れた場所にある公衆トイレの前が指定されていた。
「おはよう! 昨日は大変だったね!」
先に来ていた猪川さんたち大学生グループが、声をかけてきた。
「いやー、死ぬかと思いました」
僕がそう言うと、みんな笑ってくれて気が楽になった。
昨日、『逃げてください』とか『殺されます』なんて言って、別れ際がぴりぴりしてしまったのだ。正直、次に会うときなんて言ったらいいのか迷ってる部分もあったのだけど、こんな風に軽い感じの会話で再会出来て、僕としてはかなりほっとした。
探索者姿の猪川さん達は、良い意味で昨日とは別人みたいだった。
「あの後、ネットで中継されてるのを見て思ったよ……『確かにこれ、殺されるわ』って」
そう言って笑う猪川さんは、長身で引き締まった体躯が野性的なムードを醸し出すイケメンで。
「そうそう。あれだけの……『鳥』みたいなの? あれを捌ききるのって見てるだけで頭が痛くなったし」
腕組みして頷く蝶野さんは、見るからに頭の回転が速そうな、参謀的雰囲気の美女。
「自分ならどうするって考えたら……俺は盾役だから、
うーんと唸る鹿田さんは、縦にも横にも大きい巨漢だ。でも暴力的な雰囲気は無くて、見てると安心感を抱かせてくれる。
残りのおじさん2人と講師がやってきたら、時間になった。
ゲートに移動――するその前に。
「では『クラスD昇格者向け講習』、後半の探索実習を始めます。講師は引き続き、二瓶と天津が担当させて頂きます。ではゲートに行く前に、一点、確認事項があります――今日、自前のドローンを使う予定の人はいますか? いたら手を上げてください」
聞かれて、見ると手を上げる人は誰もいなかった。
「そうですか。いませんか――OFダンジョンでは、自前のドローンの使用は推奨出来ません。一般の探索者も、ほとんどはレンタルのドローンを使用しています。えー、理由が分かる人。手を上げて」
今度は、全員が手を上げた。
「はい。ということは、OFダンジョンがどんなダンジョンか、全員ある程度は分かっているようですね。それでは、ゲートに移動します」
いつも通り受付で手続きして、ドローンをレンタルする。
ゲートをくぐるとそこは――
「うわあ……本当に海だ」
海だった。
OFダンジョンは、そのほとんどが海になってるダンジョンだった。
当然、吹く風は潮風で、精密機器はしっかりメンテナンスしないと後で錆びてしまう。海洋対応型のドローンなら大丈夫だけど高価で扱いが難しく、自前のドローンの使用が推奨されないのは、そういう理由でだった。
「OFダンジョン――みなさんご存じのようですが説明しますと、フィールド型の1種で、世界的にも珍しい海洋型ダンジョンです。まず注意してもらいたいのは、あちらの丘には近付かないこと! 丘の向こうに行って帰ってきた人はいません。ドローンでの調査も試みられましたが、通信不能になって一切の記録が残されていません。また、同じく海にも入らないように! 海に入って帰ってきた人もいません。OFダンジョンで活動出来るのは、海と丘に挟まれた、この幅400メートル長さ10000メートルの砂浜だけになります」
ちなみにOFダンジョンは10層まであるのだけど、どの階層も、やはり海と砂浜しかないのだという。
「探索実習では、これから24時間、この砂浜をひたすら歩いてもらいます。速度は時速4キロ以上! 休憩時間はありませんし、モンスターとの戦闘時以外、立ち止まるのも禁止とします。移動速度が時速4キロを下回ったら注意をしますし、注意を受ける回数があまりに多いようでしたら、実習から抜けてもらいます。怪我や病気などにより歩行が不可能になった場合は、我々の後からついてくるサポートスタッフがダンジョンの外まで連れて行きますので安心してください。それでは10分後に出発しますので、各自、装備を点検するように――以上!」
というわけで装備の点検をしてると、さんごが話しかけてきた。
さんご:24時間、休憩無しで歩き続ける……どこかで聞いた話だね?
そう言われて脳裏に蘇るのは、美織里の声だった。
『クラスDに昇格したら、あたしのサポートで上級ダンジョンに潜ってもらうから』『その前に訓練として、24時間探索をする』『モンスターを駆除しながら、24時間ずっと移動し続ける探索』『スピードの下限は時速20キロでぇ』『一瞬でもそれ以下になったら次の日にやり直し』
うん。それに比べたら……時速4キロで24時間って、なんて楽なんだろう。
どこまでも青い海を見て、憂鬱になりそうになる気持ちを無理矢理もちあげる僕なのだった。
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