53.猫が「おそらく」と言ったのは
本日は12時と20時にも投稿します。
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「行きましょう。オヅマさん」
「お、おぃおぃおぃ……」
背中を押して歩き出すと、オヅマは慌てながらも従った。
「ちょ、えぇえ…………」
「(くいくい)」
何か言いたそうな弓ヶ浜さんには、中層の入り口を指さすことで答える。
中層の入り口は、看板や立て札に囲まれた土壁で、そこに触れることで中層に移動することができる。
当然、そんな僕らを黙って見逃すわけはなく。
「おおぅ、ちょ、ちょう待てやクラァ!」
まだふらふらしてる男たちが詰め寄り、僕の探索者ジャケットを掴んだ。
「邪魔ですよ」
「ふぉおおおおお!」
だが振りほどくまでもなく、ただ歩くだけの僕に引きずられて転がる。
僕には適わないと察したのか男たちは――
「おう、じゃあこっちだ! オヅマぁああ!」
今度は、オヅマに掴みかかった。
しかし。
「おっ、ちょっ!」
「んぐわぁあああ!」
オヅマが反射的に振り上げた腕に逆らえず、やはり、無様に転がされた。
いくら弱っているとはいえ、まるでスキルの無い一般人を相手にしてるような呆気なさだった。
でもスキルが無ければ、ダンジョンのゲートを通れない。
ダンジョンに入れたということは、男たちもスキルを持ってるはずなのだが――
スマホを見ると。
さんご:
さんご:排出してくれ
それに『OK』のスタンプで答えようとして、やめて、僕は頷いた。
探索者ジャケットをめくって、腰のベルトを露わにする。
「へぇ……」
1人だけ平気な様子の、男が片眉を上げた。
それはベルトと呼ぶには巨大で装飾過多で、滑稽にすら見えたかもしれない。
臍まで覆う太さは、着物の帯や腰痛バンドに喩えた方が正しいだろう。
その中心にあるのは、巨大な
前方にある魔力を吸い込む、そういう機能を持った風車だ。
男たちの様子がおかしくなったのは、この風車に、体内の魔力を吸い上げられたからだった。
さんご:彼らは『身体能力強化』に頼り切りだったんだろう
さんご:日常の動作すらスキルに補助させてたから
さんご:体内の魔力が減り、スキルが機能しなくなった時点で
さんご:体の使い方が分からなくなり
さんご:素の体力しかなくなるどころか
さんご:普通に歩くことさえ、ままならなくなってしまったんだ
風車の吸い上げた魔力は、『雑味』を分離して僕に送り込まれる。
そして分離された『雑味』がどうなるのかというと、ベルトの帯を通って精錬され、最終的には
『魔力に含まれる『雑味』は、精錬することで
加工してない
先日UUダンジョンでも練習したことを、ここでもやってみる。
ぶんぶんぶん。
剣をイメージしながら
「これだと、剣じゃなくて靴べらだよね」
そういう形になった。
長くて黒くて分厚い靴べらだ。
「もうちょっと、やってみよう」
靴べらを、更に振る――ぶんぶんぶん。
そんな僕を、オヅマも弓ヶ浜さんも男もその他の男たちも、いつしか無言となって見つめていた。
何か、気持ち悪いものを見るような目で。
僕は言った――ぶんぶんぶん。
「さっき『責任』って言ってましたけど……確かにあなたたちから逃げてオヅマさんはダンジョンに不法に入ったわけで……あなたたちの責任とも言えるんでしょうけど……」
ぶんぶんぶん。
「でも、権利は無いですよね。オヅマさんを連れてく権利も、探索者協会にいつ出頭するのかを決める権利も、あなたたちは持っていない。そもそもオヅマさんのことで責任があるなら、あなたたちも協会に出頭して事情を話さなければならないんじゃないですか?」
ぶんぶんぶん――そこまで言ったところで。
男が、口を開いた。
「あの、さ……ぴかりんくん。君のことを子供扱いする気はないからさ。大人の話に首を突っ込むななんて言わないさ。でも……そうだな。オヅマ君はさ、他人に迷惑ばかりかけるどうしようもない人間だと……世間では、そう思われている。つまりだ……彼は俺ら側の人間なんだよ。だから、俺たちには権利がある。オヅマ君を俺たちの側に……俺たちのルールの中に置く、その権利が俺たちにはあるんだよ」
「ありません」
「へへっ。いやぁ……少なくとも、君の側ではないだろ? オヅマ君は、君たちの側の人間じゃぁない。そうだろ? 君だってオヅマ君には迷惑をかけられたんだろ? 彼がどうなったって、君には関係ないじゃないか」
「だからって、言いなりにならなきゃならない理由はありません」
「いや、だからオヅマ君は……」
「僕がです」
「…………」
「僕が、あなたたちの言いなりになる理由は無い――まったく、ありません」
「ほぉ…………」
スマホが震えた。
さんご:その男は『身体能力強化』を使っていない
さんご:だから、体内の魔力が無くなっても普通に動けている
さんご:スキルを、生身で培った戦闘術の強化に全振りしているんだ
さんご:その男の戦闘術は、おそらく
男が言った。
「俺は巻島悟……『凶刃巻島』なんて呼ばれている。でだ。俺が名乗るってことは……こういうことだって、当然、分かっているよな?」
男――巻島の手に、いつの間にか現れていた。
日本刀が。
そして……ぱきん、ばきん、ばきん。
オヅマのスマホと、僕と弓ヶ浜さんの頭上にいたドローンが、粉々に砕ける。
「さぁて、これで誰も見ていない」
そう言って巻島は、目が線になるような笑みを浮かべたのだった。
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