166.猫と異世界で祝勝会(前)
「はふはふ、美味っ! なんなんですかこれ。めっちゃ美味しいじゃないですか」「身が詰まっててジューシーで、はふはふ。こんなの、北海道でも食べられませんよ~」「光の獲ってくる伊勢エビもおいしいけど、これはこれで、また、はふはふ。以前食べたのは400年前だけど、その時より、美味しい! 美味しい! 美味しい! はふはふ」「さんご、酢! 酢を出して! ハフハフ!」「そうですよさんご君!はふはふ! カニ酢ですよ!」「オーロラソースは用意してたけど、カニ酢!? それって何だい? はふはふ!」「さんご! 酢と砂糖と白だしと薄口醤油と味醂と鍋とコンロを出して! はふはふ!」
その場で作ったカニ酢をつけたら、なお美味しくなって、僕も彩ちゃんもさんごも大満足だった。
「「「「「…………」」」」」
そんな僕らを、異世界人のみなさんは、信じられない蛮族を見る目で見ていた。
「…………」
特にウ=ナールは『父の命令とはいえ、こんな女を堕とさなければならないのか……』と思っているのがありありと顔に出ていて、ひとことで言うなら、それは軽蔑と絶望だった。
でもこの人、彩ちゃんを口説くのを諦めないんだろうなあ……彩ちゃんと結婚すれば王の夫――王配になれるわけだし。そのためなら、手掴みでモンスターの肉を食べる姿を見ても我慢できるに違いない。
でも、今すぐには心の整理が付かなかったらしく、ダンジョンを出るまで、そしてダンジョンを出ても、ウ=ナールが僕らに話しかけることはなかった。
「「「「「彩様! ばんざーい!」」」」」
大喝采で迎えてくれたのは、ダンジョンの外で待ってた冒険者や騎士団の人達だった。それからダンジョン近くの店の人や、ここへ来るときに寄った街の人達も、駆け付けているらしい。
「「「「「彩様、ありがとうございます! ぴかりんも、ありがとう!」」」」」
歓声の大きさは、そのまま、彼らが晒されてた不安の大きさということになるのだろう。僕は、以前OOダンジョンでダンジョンブレイクを討伐したときのことを思い出していた。
ひそひそ話も聞こえる。
「いや、本当だった。俺はすぐ近くで見ていたが、動画のままの強さだったぞ」
「マジかよ!! 嘘じゃなかったのか!?」
「ああ、マジさ。ぴかりんの強さは本物だ」
と、一緒に探索したウ=ナールの部下が、顔見知りらしき冒険者と話しているかと思えば。
「彩様、美しいなあ。ぴかりん許せねえ」
「あいつ、みおりんとも付き合ってるんだろ? パイセンも危ないぜ? 死ねばいいのに」
なんて声も聞こえてくる。
そんな中、近付いて来る人がいた。
「おーい、ぴかりん。おまえ、やっぱ凄えな。もう彩と結婚しちゃえよ」
彩ちゃんの、お父さんだった。
「はい、さっきお話ししたとおり、彩さんと結婚するつもりです。ただ、僕が18歳になるまで待ってもらわなきゃならないですけど……」
「なに言ってんだよ。
えええええ?
「そ、それは……急なお話すぎるかと」
「確かにそうだな。じゃあ来月。いや、来週でいいか。じゃあ来週結婚な? 来週!」
「いや、ちょっと。実は僕には……」
「あ、そうか。みおりんとも付き合ってるんだもんな。あと、あの子。なんていったっけ……バイセン! バイセンって子とも付き合ってるんだよな」
バイセンって……コーヒー豆じゃないんですから。
「じゃあさ、彩と、みおりんと、バイセン。3人と結婚しちゃえよ! こっちじゃ人数も関係ないからさ。重婚しちゃダメなんてケチ臭いこと言わないから! な? 3人と、来週結婚式あげちゃえよ」
「で、でも彩ちゃんは次の王様なんですよね? そんな重要人物の結婚式を、来週いきなりなんて……招待される人の都合もあるでしょうし…………」
「大丈夫大丈夫! 結婚式っていっても、人を呼んでパーティーとかそんなのやらないから! 神殿に行ってさ、聖堂にあるトレンタ神の像の前でセックスするだけでいいの! 王都のトレンタ像は凄いぞ~。高さ4メートルくらいあるからな!」
あの、トレンタ神って、さんごのことですよね……身長4メートルのさんごの前でエッチなことするって……端的に言って嫌すぎるんですけど…………
と、僕が混乱してる間にお父さんが叫んでいた。
「お~いみんなぁ! 彩とぴかりんが結婚するぞ! みおりんとバイセンともだ! 結婚式は来週だ! 盛り上がろうぜ~~~!」
え!? 盛り上がるって!? どういうこと!?
さんご:結婚式が行われてる間
さんご:つまり神殿で花婿と花嫁が交尾してる間
さんご:暇な人間が酒を飲んで騒ぎながら
さんご:神殿の周りを練り歩くんだ
異世界って……異世界って!
慄きながら、ふと感じた気配に横を見ると。
「結婚……光君と……結婚! 結婚!」
そこには、感極まった様子で酒を煽る彩ちゃんの姿があったのだった。
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