165.猫と彼女の新装備(後)
さんご:深層は光がメインで進もう
さんご:『
というわけで、深層は僕がメインで戦闘を行うことになった。
もっとも深層では、モンスターと遭遇する回数がめっきり減った。
深層の主の交代で、それまで深層で多数派だったモンスター、つまりさっき戦った猿達が中層に移動したからだ。
ではいま深層にいるのがどんなモンスターかというと、新たな深層の主――
「「「しゅはっ、しゅはっ、しゅはしゅしゅしゅっ」」」
小はスマホ、大は座布団くらいの大きさの蜘蛛が、数十体の群れで現れる。
彩ちゃんの『
「
範囲を広げた雷撃で焼いたり。
「
無限増殖する人食いヒマワリに喰わせてみたり。
「『結界』!『重力』!」
板状の結界に重力をかけて圧殺してみたり。
光:いま使ったあの技『重力で踏み潰せ』って名前にしようと思うんだけど……
さんご:君はネーミングのセンスがないね
ちょっと傷ついたりしながら深層を進み、僕は深層の主――
なお、ここまでウ=ナールとその部下達は戦闘に参加していない。大鬼蜘蛛との戦いも、僕と彩ちゃんだけで臨むことになった。
彩:ここで出しゃばれるようだったら、少しは見直したかもしれないんですけどね~
すっかり大人しくなったウ=ナールへのコメントだ。
確かに、ここで『自分も戦いに加えろ』『彩ちゃんは自分が護る』と出しゃばってくるようなら、それはそれでブレてないと見直してたかもしれない。
でもウ=ナールは、部下達に護られて、僕らが戦いに臨むのを見てるだけだった。
その表情――彼の素の表情は、一言でいうなら、人形だった。彼自身はここにおらず、彼の姿をした人形の目玉を使ってここの様子を窺っているような、そんな感じだ。
そして、臨んだ
「蟹……ですよねえ?」
「うん……花咲蟹だね」
眷属は普通に蜘蛛だったというのに、その頂点にいる
蜘蛛と蟹では節足動物という共通点しかないわけだけど……
後ろにいる、ウ=ナールの部下に聞いてみた。
「あれって、蜘蛛じゃなくて蟹ですよね?」
「カニ……とは?」
「でも
「いや、カニというのが何かは知りませんが……蜘蛛でしょう? 足がいっぱいあるし」
どうやら、この世界の人は蟹を知らないらしい。足がいっぱいあるからという理由で蜘蛛呼ばわりされてるわけだけど、
そういえば、眷属は蜘蛛っぽい見かけに反して糸を吐いたりはしていなかった。
やっぱり、蟹だったに違いない。
さて――だったら、納得もいく。
蜘蛛といったら固い殻があるわけでもなく、打撃を跳ね返すといわれてもぴんと来なかったのだけど、大鬼蜘蛛の正体が蟹だと分かれば話が変わる――だって、蟹なら殻、あるわけだし。
「結界」
ウ=ナールと部下達を結界で覆い、僕と彩ちゃんは前に出る。
「やっぱり蟹……ですよねえ」
「ですよねえ」
呑気に頷き合う僕らだったけど、当然、大鬼蜘蛛も僕らに気付いてないわけがなく。
軽自動車くらいはありそうな巨体を軽々と走らせて、大鬼蜘蛛が僕らを襲った。
がつん!
でもあらかじめ僕が張った結界に阻まれ、近付けない。
僕は聞いた。
光:ねえ。大鬼蜘蛛って、食べられる?
さんご:おいしいよ!
「「うん!」」
彩ちゃんと頷き合い、僕は、花咲蟹――じゃない。大鬼蜘蛛の周囲に張った結界の、形を変える。
箱形から、上だけが開いた円筒――寸胴鍋の形に。
そして――
光:さんご。水をお願い!
彩:お塩も忘れずに!
さんご:まかせて!
寸胴型の結界を、上空から振ってきた水が満たし、そこに塩も降って。
「
雷撃の炎が、水を沸騰した湯にお変える。
「
お湯の中で、みるみる赤く、美味しそうな色に変わっていく大鬼蜘蛛。
「fslkfjsjfsklfjskっ!!」
自分が何をされてるのか気付いて暴れる大鬼蜘蛛だったけど。
「重力!」
それも、重力で押さえつけられ。
「(ひそひそ)あれは、何をやってるんだ?」
「(ひそひそ)あの凄まじい威力の雷で一気に焼いてしまえばいいと思うのだが……」
「(ひそひそ)何故……湯で攻める?」
「(ひそひそ)あれではまるで……」
「(ひそひそ)いや、まさかそんな……大鬼蜘蛛をだぞ? いやいやまさか……そんなことは……大鬼蜘蛛を……まさか…………」
そんな後ろからの声が止む頃には、大鬼蜘蛛も動かなくなり、それから更に十数秒。
お湯をさんごが転移させ、僕が結界を解除する。
残された大鬼蜘蛛の死体に近付こうとする僕らに、聞く人がいた。
「あ、あの……一体なにを……されるのですか?」
その問いに僕らは、こう答えたのだった。
「「食べるんですけど?」」
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お読みいただきありがとうございます。
家の近所の蟹食べ放題がコロナで休業してて、やっと再開したと思ったらロシアが戦争を始めて、あっという間に料金が倍になってしまったのが悲しい作者です。
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