156.猫と離れて月曜日(後)

  ビュッフェに戻ると、美織里とパイセンがデザートを食べながら談笑していた。


「尾治郎とおてもやんはないわ~」

「本当! 本当にさん×ぴかが出てくるまでだけど、一瞬、盛り上がったんだから!」


 その脇に置かれた小さなお皿にもケーキが盛られているのだけど、見る間に減っていくのは、透明化して姿を隠したさんごの仕業だ。


「「え……と」」


 僕と彩ちゃんは、並んで座って食事を再開する。


(ああ、そういうことか……)


 そういえばさっき、彩ちゃんはいつもより食べてない印象だった。


(告白を前に、緊張してたのかな……)



 へい、へいへい! と声がして顔を上げると。


「「何か言うことない?」ないの?」


 と、美織里とパイセンが。


 僕と彩ちゃんは顔を見合わせると、同時に答えた。


「「付き合うことになった……よ」から」


 それから『へいへーい、そいつはめでてーなー』と美織里が煽るのを無視して、僕らは『朝から食べられるノンオイル炒飯』という、冷凍食品の炒飯を電子ジャーで温めたような味の炒飯をもしゃもしゃ食べるのだった――赤くなった顔を伏せて。



 朝食を終えたら、僕と美織里は学校で補習。パイセンと彩ちゃんは自主トレだ。さんごはパイセン達を指導するということで、学校にはついてこない。


「あれ。明菜さんも補習?」

「そうだよー。言ってなかったっけ?」


 補習には、健人の彼女の明菜さんもいた。無遅刻無欠席を自慢してたから、僕や美織里とは違って単純に成績が悪かったということか。


「あー、もう大丈夫かな~。留年やだよ~。でもテストで○もらえるイメージが沸かない~。0点やだ~。もう見たくない~」


 そう言って悶える明菜さんだったけど、先生が入ってきて最初の一言を言うなり安堵の表情になった。


「じゃあ、このプリントの問題を解いて。30分で。その後、答え合わせと解説な。追試はこのプリントと全く同じ問題だけど、丸暗記じゃだめだからな」


 それって、逆に丸暗記でいいって言ってるのと同じだよね。


 補習は1日につき2科目行うスケジュールで、今日は数学Ⅰと数学Aだったのだけど、どちらもプリントの丸暗記で大丈夫だった。


 もっともプリントの問題を見てみると、全問題の答えを憶えるよりは、公式を憶えてマスターする方が楽なような気もした。


 そして探索者として能力がアップした僕にとっては、暗記なんて簡単で――


「光、答え見た?」

「うん」

「ほいっと――じゃあ、全部言って」


 答えを書いたプリントが配られるなり美織里に取り上げられて、一瞬だけ見た答えを暗唱させられたりしても……


「ごうか~く」


 見事、全問間違えずに答えることが出来たのだった。


「うわ、探索者えぐ……」

「嫌味かよ」

「あんなの出来るなら最初から赤点取るなよな」

「ばか。あいつら、探索で試験欠席したんだよ」


 それを見ていた生徒はざわめき、先生にも。


「だから……丸暗記ではだめだと……まあ赤点取るなんて……丸暗記すら出来ない奴ばかりなんだけどな…………」


 諦め顔で言われたりして、そんな中、小声で。


「じゃあ、後でご褒美ね」


 囁く美織里に、僕は頷くことしか出来なかったのだった。



 補習を終えて向かったのは、廊下の隅にある部屋だった。終業式の日にも忍び入った、あの小部屋だ。


 あの日と同じく鍵を閉め、光も音も遮る結界を張らせると、今日は最初から長机に寝そべり、美織里は言った。


「彩ちゃんに聞いたと思うけど……彩ちゃんも出来るようになるまで、あたしもパイセンもしないから……さいごまではね。だから、どこまでならセーフか教えてあげる……来て」


 そんな風に誘われると、不思議なことに、僕は初めて美織里に触れた時のような気持ちになって、キスどころか服の上から触るのも怖くて、緊張して、慎重になって、簡単にいうなら、とても刺激的で、気持ちよかった。


 そしてそれは、美織里も同じだったようで……


「ん。あ……いいよ。エッチなキスは……セーフ。あ。ん……んぐ、ん……ん……」


 キスして、ブラウスのボタンを外すまでに何分かかっただろう。


 最後の一線を越えないだけで、逆にそれ以外の行為はいつもより濃密になって、いつもと違って終わらない僕は、すすり泣く美織里をいつまでも責め続けた。


 そうして「もう無理」とぐったりした美織里だったけど、すぐに身体を起こすと、机から降りて言った。


「ん、ぅふ、はぁ、はあ……じゃあ……今度は、あたしね。あたしがするから……あたしがするのは、どこまでがセーフか、教えてあげる」


 そこから先、美織里の声はなかった。


 声をあげてたのは僕の方で、最後は美織里の名前を叫びながら終わった。


 ●


 終わった後、服を着て。でもすぐ帰る気にはなれなかった。窓際で並んで座って、話したのは探索に使う装備のことだ。


「いいんじゃないかな」


 と、美織里は僕のアイデアに頷く。


「24時間ノンストップ探索に『KUSHIZASHI』――確かに、いいアイデアね」


 僕が話したのは、ダンジョンデートの時に買った『KUSHIZASHI』の装備を、8月に行う『24時間ノンストップ探索』で使えないかということだった。


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ネトゲで俺をボコった最強美女ドラゴンに異世界でリベンジします!でもあいつ異世界でも最強みたいじゃないですか!ていうかバトルより先にイチャラブが始まりそうなんですが、一方そのころ元の世界は滅びていたようです


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