157.猫と離れて月曜日2(前)
「24時間ノンストップ探索に『KUSHIZASHI』――確かに、いいアイデアね」
僕が話した『KUSHIZASHI』の装備を『24時間ノンストップ探索』で使えないかというアイデアに、美織里は賛成してくれた。
『24時間ノンストップ探索』――文字通り、24時間、常に時速20キロ以上で移動しながら探索するという、美織里から僕へと課せられたテストだ。
「ダンジョンデートの後の探索で、NRダンジョンをRTAしたよね? あの時、なんだか楽っていうか……動きの要所要所で邪魔されないっていうか、滑らかになるのを感じたんだ。あれなら、24時間動き続けても大丈夫なんじゃないかと思って」
「そこね。『KUSHIZASHI』って、価格からいってもしょうがないんだけど、正直、クラスDまでの装備なのよ。一応クラスBまで対応ってなってるけどね」
「僕がいつも着てるのも、クラスB対応だよね? 美織里が買ってくれたやつ」
「うん。あれも『KUSHIZASHI』と同じ価格帯だけど、思想が違うから」
「思想?」
「あたしが買ってあげたのは海外メーカーので、もっと高い価格帯の製品のデグレード版。だから、耐久性は『KUSHIZASHI』と変わらないけど、縫製やなんかの品質は劣る。逆に『KUSHIZASHI』は、元々作ってたバイク用のツナギの――しかも高級品に探索者用の仕様を追加してるから、光が言ってた動きを邪魔しない着心地とかフィット感は最高なの」
「じゃあ、クラスDまでの装備っていうのは?」
「価格ね。全体的な耐久性だと、やっぱり高価格帯の製品には敵わないわけよ――でもね。こんな風にも言われている。『KUSHIZASHIは、クラスD以下とクラスS以上なら最高』ってね」
「クラスS……以上?」
「高価格帯の製品に付与されてる性能って、クラスS以上の探索者なら、スキルで補えちゃうのよ。むしろ着心地が悪くなる分だけ邪魔ね。で『KUSHIZASHI』が良いのってどこだった?」
「着心地、だね」
「そう。光の実力は、最低でもSS以上だとあたしは思ってる。だから――『KUSHIZASHI』は、いまの光にはぴったりってわけ」
●
美織里とは途中で別れ――自主トレを終えたパイセン達と合流して、日常動画の撮影をするらしい――僕は小屋に帰ると『KUSHIZASHI』の装備をバッグに詰めた。
さっそく、試してみたくなったのだ。
「この時間だと、近場かな」
向かったのは、小屋から近いXXダンジョン。
戦闘は控えめにして、深層まで一気に潜る予定――なんだったら、RTAするくらいのつもりで。
受付をしてゲートを潜る。
スマホに深層までの最短ルートを表示させ、走り出した。
「ヒアゥィッ」
「ヒアゥィッ」
「ヒアゥィッ」
いきなりゴブリンが現れたけど。
「結界!」
結界を張って、こちらに近付けさせない――NRダンジョンで、パイセンがやってたのを真似してみた。
(最後にXXダンジョンに来たのはいつだったっけ……)
確か、一ノ瀬さんと一緒に……先週か。ずいぶん前のような気がする。
(そうだ。一ノ瀬さんとは……あの時も)
クラスD講習の資格を得るために、一緒にXXダンジョンに潜ったんだった。『大顔』を速攻で倒すために、あの時も、RTAみたいなことをして。
(確か……あの時は)
あの時は、10分弱で中層の入り口まで着いたんだった。あれから1ヶ月も経ってないけど、僕の実力は、どれくらい上がったんだろう。
結果は――「5分か」
数分間、記録を短縮して中層の入り口に着いた。
(24時間ノンストップ探索――きっと、階層の移動がネックになる)
階層間の移動は、スピードを落とさざるを得ない。階段だったりゲートによる転移だったり、ダンジョンによって方法も様々だ。
同じ階層をぐるぐる回ってれば気にする必要はないのだけど、そんなのを美織里を許すとは思えなかった。
XXダンジョンはゲート式だ。
とりあえず、小走りで飛び込んでみると――そんなにスピードを落とさず、移動することが出来た。
(問題は、ゲートの向こうに人やモンスターがいた場合だけど……そこは、これから考えればいいか)
中層も問題なく進み、10分弱で深層の入り口へ。
「おぃー、おぃっすおぃっすおぃっす!」
深層では、鳥形のモンスターが現れた。鳥形は、洞窟型ダンジョンでは珍しい。しかも牛ほどの大きさもあるハーピーともなったら尚更だ。
「おぃー、おぃっおぃっおぃっおぃっす!」
ハーピーの姿をひとことで表すなら、両手でコートの前を開いた全裸の中年男性だ。
体側から腕に広がった翼を羽ばたかせて、でっぷりお腹の出た身体をホバリングさせている。
「おぃっすおぃっすおぃっすおぃっす!」
でも、見た目のおぞましさに反して強さはそれ程でもないらしい。Wiki情報の通り、弱点の乳首に――
「
雷の弾丸を撃ち込んだら、あっさり弾け飛んだ。
「おいーーーーーーーっす!!」
それ以外は戦闘らしい戦闘もなく、深層も10分弱で踏破。
後で調べたら、XXダンジョンの最速踏破記録だったみたいだ。
一ノ瀬さんたちと再会したのは、その帰り道だった。
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叔父に家を追い出された僕が異世界から来た猫と出会い、ダンジョン配信でバズ狙いすることになった件。ちなみに元アイドルで美少女探索者の従姉妹は僕にべた惚れです
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