80.猫と彼女とダンジョンへ(4)ラップ&バキューム

 ベルト型の魔導具――タイフーンユニットの風車ファンが回り、前方のモンスターたちから魔力を吸い上げる。

 そして吸い上げた魔力で、結界を強化する。


『ラップ&バキューム』


 元々は、モンスターボックスに対応するため考えた戦法だ。モンスターからの初撃を、結界を張って防ぎ、稼いだ数秒でタイフーンユニットを起動。モンスターたちから魔力を吸い上げ、吸い上げた魔力で結界を強化する。そして更に時間を稼ぐことで、モンスターボックスで最も死亡率が高い最初の数秒間をやりすごす。


 今回のような密集したモンスターに飛び込む状況では、これ以上ない戦法だった。

 

 魔力を吸われ、前方のモンスターには、その場にへたり込む者も少なくなかった。しかしそれ以外は、予想外のことに戸惑ってるだけで、いつでも襲いかかれる状態だ――でも、大丈夫。


「重力」


 これも吸い上げた魔力で強化された『重力』の重みで押しつぶす。モンスターたちのほとんどは、体液を漏れ出させながら拉げて絶命し、まだ息のある者には――


「鎖」


 カレンとの戦いで得たスキル『鎖』で突き刺して息の根を止める。『鎖』に関しては元ネタであるカレンの『連鎖する鎖の因果チェーンリアクション』みたいな使い方は、未熟すぎてまだ出来ない。鎖の先端をくさび形にして相手に突き刺すこのやり方は、やはり美織里からのアドバイスで生まれたものだった。


 OOダンジョンのゲート付近は、体育館くらいの広さのホールになっていて、そこを満杯にしていたモンスターは数百をくだらなかっただろう。おそらくその半分近くを、ここまでの攻撃で仕留めていた。残りの半分を一度で仕留める攻撃法スキルも、僕は持っているわけだけど……声に、止められた。


「『雷神槌打サンダー・インパクト』、使おうとしてたでしょ」

「え、いや……そんなこと、無いよ?」

「ダメって言ったでしょ~?」


 最初に言った通り、15秒待ってダンジョンに入った美織里が頭上を指さす。

 そこには、ドローンが浮かんでいる。


さんご謹製さんごのじゃないんだから、雷神槌打サンダー・インパクトなんて使ったら壊れちゃうでしょ」


 今回使ってるドローンは、探索者協会から貸し出されたものだ。協会から依頼のダンジョンブレイク対応ということで、記録を取る都合上から自前のドローンの使用は許されなかった。


 さんごが強化したドローンならともかく、市販品のちょっと上級なモデルに過ぎない協会のドローンでは、大量の魔力で威力を増した雷神槌打サンダー・インパクトの余波に耐えられないだろうということで、『重力』や『鎖』だけで戦うように言われていたのだった。


「じゃあ僕! 僕! 僕がやるよ!」


 美織里と一緒に入ってきたさんごが、僕を追い越して飛び出す。いつも食事に使ってる首輪から伸びたナイフとフォークが、いつもより増した数と長さでモンスターたちを切り裂き突き刺していく。さんごがホールを2,3周すると、まだ生きてるモンスターは10にも届かないくらいまで減っていた。


「どうだい!『猫が空気』とか『タイトルに猫が入ってる意味が無い』とか『取って付けたようなストーリーへの絡ませ方が見苦しい』とか、そんなこと、もう誰にも言わせないからね! う”にゃあああああああ!!」


 誰に向けてるのか分からない言葉と共に雄叫びを上げるさんご。

 一方、美織里は。


「そうね……光、これも覚えておいて」


 魔力で花の種みたいなものを作ると、地面にばらまいた。種は地面に落ちると同時に無数に弾け、ホールに横たわるモンスターの身体に生死を問わず潜り込んでいく。そしてにょきにょきと伸びた茎からヒマワリみたいな花を咲かし、花の中央に生える無数の種を歯にして土壌であるモンスターの身体を食い尽くし、最後は枯れて粉となって散った――ここまでで、1分も経っていなかった。


「『暴食暴虐のヒマワリファイアクラッカー』っていうの。簡単でしょ?」


 こうしてホールのモンスターは全滅し、僕らはダンジョンの奥へと進んだのだった。



「うえっ、マジか」


 それから3回ほど先頭を済ませたところで、スマホをチェックした美織里が呻いた。


「小田切さんからなんだけど、さっきこの探索者ジャケットかっこうで写真撮られたじゃない? 新しい事務所のロゴが付いてるのがダンジョン&ランナーズに訴えられるかもしれないっていうのよ。まだダンジョン&ランナーズの所属なのに別の事務所のロゴを付けて写真を撮られるのは何事だって。事務所が出来るのは7月1日だから……まだ存在しない会社だから問題ないと思ったんだけど……」

「新事務所の宣伝と受け止められたら難しいかもね。それに会社は無くてもWEBサイトはあるだろ?」

「でもさんご、WEBでもまだ会社名は発表してないんだけど」

「ドメインは?」

「あ。『ideamateria.com』……あ”あ”あ”あ”あ”。やってしまったぁあああああ」

「それにその会社名で登記を進めてるんだから、言い逃れはできないよ」

「う~ん。どれくらい毟られるだろ」

「さあね。ところで、茶番はそれくらいにしておいたら?」

「……バレた?」

「君と小田切がそんなミスをするとは思えないからね」

「ふふ~ん。はい、これ」


 見せられたスマホには小田切さんからの『やっぱり訴える言うてきおった。あいつらアホじゃアホ』というメッセージと一緒に、カラオケボックスで爆睡するマリア、ビールのジョッキをあおる彩ちゃん、デュエットする神田林さんとメリッサの写真が表示されていた。


 そうして10時25分。

 僕らは、ダンジョンコアのある場所に着いた。


「光。これで最後だし、ジョーカーユニットを使ってみないか?」


 さんごの言う通り、そうすることにした。


 

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