9.猫が美少女と悪巧みをします
もともと、僕はダンジョン探索者に憧れていた。
でも、子供の頃から何度スキル検診を受けても、僕にはスキルが生えてこなかった。
だから、さんごに『
『やった……これで僕もスキル持ちだ!』
と。
そして思ったのだ。
『探索者にも……なれるかも!』
と。
だけど心のどこかで、こうも思っていた。
『僕が、探索者になっていいんだろうか?』
と――そういう心のブレーキが働いていたのだ。
それが、いま外された。
『『というわけで光、ダンジョン探索しよう』するわよ』
さんごと美緒里の、その言葉によって。
だから、僕は頷いたのだ。
「いいね。ダンジョン、行こう!」
しかしそうなると、問題になるのはやはりスキルだ。
僕が持ってる『
「いま光が持ってるスキルは、僕の『携行型スキルシステム』が付与したものだ。この世界のスキルシステムによるものではない。美緒里、ダンジョン探索者になるにあたっての資格審査は?」
「スキルオーブの鑑定でスキルの保有を確認。その結果を探索者協会に提出して探索者バッヂを獲得って流れね。さんご、あんたのシステムでスキルの偽装は?」
「可能だ。しかし、お勧めはできない。この世界のスキルシステムに干渉して余計な防護機構を働かせるのは避けたい。もちろん跳ね除けることは可能だが、光を矢面に立たせるのは避けられない。僕が与えたスキルはいったんオフにして、まずはこの世界のシステムでスキルを獲得するべきだろうね」
「私も同意見。で、どうやってスキルを獲得するかだけど――」
ちょ、ちょっと待って。
僕は、これまでスキルが生えてなかったんだけど!
「――スキルを獲得する方法は無い。『偶然』に任せるしか無い、というのが
「『偶然』……そんな言葉は『確率を測る要素が足りない』ことへの言い訳に過ぎない。そして僕は
「ダンジョン内でモンスターを斃したことがあるか」
「正解だ。最も高い確率でスキルが付与されるのが『スキル未取得の状態でダンジョン内のモンスターを斃した』場合だ。この世界では、探索者の資格にスキルの所持が必須とされてるため判明してないようだけどね」
「公にはね。道徳的に突っ込まれるから、誰も言わないだけ。同じ理由でスキル取得者の第1世代に対する調査が阻まれてるからエビデンスが取れないのよ」
2人の会話に全く加われない僕だけど、美緒里の言ってることは分かった。
10年前――最初にダンジョンが発生した時、いろんな場所がダンジョンになった。地下街や学校、オフィス街。人々の暮らす場所が突然地面に沈み、ダンジョンになってしまった。そこで暮らす、ありとあらゆる人たちを巻き込んで。
巻き込まれた人たちは、突然なにも知らない状態でダンジョンに放り込まれることになり、大勢の人が死んだ。でもそこから生き残った人たちもいる。
美緒里が言ってるのは、ダンジョンがこの世界に現れた直後にスキルの生えた――第1世代のスキル取得者の大半が、実はダンジョン発生に巻き込まれ、モンスターを殺して生還した人たちなのではないかという仮説だ。
ダンジョンで、彼らがどんな過酷な目に遭ったかは想像に難くない。
だから彼らの心の傷を穿り返しかねない調査は非難を受けるのが必至で、大規模には行われず、未だ仮説が証明されないままになってると言っているのだ。
美緒里が訊いた。
「あんたの世界のダンジョンは、スキルを持ってなくても入れるの?」
「ああ。ダンジョンに入るのに制限は無い――この世界ではシステムが?」
「そうよ。スキル所持者以外はダンジョンが弾いている。ゲートっていう正規の入り口があって、スキルを持っていないとそこで押し戻されて先に進めないようになってるのよ」
「文明レベルの違いが理由だろうね。僕がシステムを作った世界では未だ銃火器が無く、人口も5億に満たなかった」
「じゃあ、この世界で制限がかけられてるのは、大国がスキル持ちを量産――ダンジョン資源を独占するのを防ぐため?」
「この世界の文明レベルであれば、可能だ」
「で、光にスキルを生やす方法だけど」
「ダンジョンでモンスターを斃してもらう」
「でも、正規のゲートは通れない」
「正規のゲートならね」
「正規でないなら?」
悪い顔で訊ねる美緒里に、これまた悪い顔をしたさんごが答えた。
「事故で入る」
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