33.猫はいないがダンジョンに潜る(10)~光の無双、消えた光~

本日は、20時にも投稿します。

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「ミツケタ」「ミツケタ」「ミツケタ」「ミツケタ」「ミツケタ」「ミツケタ」「ミツケタ」「ミツケタ」「ミツケタ」「ミツケタ」…………………


 声を発し始めた『顔』に、背筋を震わせながら。

 僕は、それでも止まらず突っ込んでいった。


 伸びてくる無数の触手に向かって。

 ナイフを右手に構え、左手を前に突き出しながら。


 いま光魔法を発動させてる、僕には。

 いまこの瞬間にも、生え続けている。

 いまここまでの、全ての経験を糧に。


 一旦は光魔法に喰われて消えたスキルたち――『斬撃』『拳撃』『蹴激』『封印魔法』『結界』『状態異常無効』『毒耐性』『火魔法』『水魔法』『氷結魔法』『土魔法』が、サブスキルとして復活し、あるいは光魔法から独立して新たに生え続けている。


 動きは速く、滑らかに。

 身体は強く、硬く、柔く、しなやかな力に満ちて。


 そして――触手に触れる必要は、もう無くなっていた。


 手を近付けただけで、触手から魔力を吸い出し。

 ナイフを振り下ろすだけで、刃が触れてない触手まで両断する。


 そんな状態で、直に触手に触れたなら。


「ミツ……グゲゲゲゲェ!!」


 触手の根本の『顔』まで魔力と色を失い。


「ゲゲゲゲゲェエエエエエッェツェツ!!」


 ナイフの突き立った場所から、光の欠片となって崩れ落ちていく。


「悪りぃ! 10秒任せちまった!――見とれちまったぜ!」


 赤松さん達が踊り込んできた時、既に半分以上の『顔』を、僕は屠っていた。

 それから全ての『顔』を斃すまで、数分しかかからなかった。


「じゃあ、尾治郎に知らせるか。こっちも片付いたって――ん? おいおい向こうからかかって来たよ。ってことは――不味いな」


 顔を強張らせる赤松さんを、少し遅れて同じ様な顔になったガルシアさんと山際さんが見つめる。

 僕と神田林さんも、自然と同じ様な顔になって、赤松さんを囲んだ。


「もしもし。ああ、こっちは片付いた…………そうか。分かった」


 通話を終えると、赤松さんが言った。


「あっちの、でっかい方の大顔が移動したらしい。尾治郎たちを無視してだ。尾治郎が言うには、まあ、それしか無いわけだが――逃げるぞ」


 声がした。


「ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……」


 振り向くまでも、無かった。


「ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……」


『顔』がいた。


「ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……」

 

 直径20メートルを超えるだろう『顔』が。


「ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……」

 

 クラスAパーティー『ファストファインダース』を壊滅状態に陥らせた『顔』が。


 空中を伸びてくる触手は、どれもパスタを茹でる鍋みたいに太い。

 そして僕らの目の前の地面にも、同じくらいの太さの土の膨らみが。


 ぼこりと。


氷結装甲ビー・クール!」


 目の前の地面を食い破って現れた触手に、氷の鎧をまとった山際さんがタックルした。

 ぎちぎちと。

 鎧を軋ませながら、触手を押し止める。

 そこへガルシアさんが。


居合重層イアイ・マルチプレックス!」


 一瞬で何発もの斬撃を叩きつける。

 しかし、触手には傷ひとつ付かない。


 更に――前の後ろの右の左の斜め前の斜め後ろの斜め右の斜め左の空中から。

 無数の触手が、同時に襲いかかる。

 地面に落ちる僕らの影が、一瞬で触手の影に塗り潰されていた。


 他人事だったら、詰んでる。

 でもこれは、自分事ぼくのだ。


 時間が止まったような一瞬に。

 僕は、拳を叩きつけて叫んだ。


「結界!」


 使い方すら知らないスキルを、ただそうなれ・・・・と発動させ。

 見えもしないそれ・・を、振りかざした手の平で掴み取る。


 そして、吸い上げる。


 無数の触手の、その魔力を。

 大本にある、巨大な『顔』までさかのぼり――


 吸い上げる。

 吸い上げる。

 吸い上げる。


――吸い上げた魔力は、そのまま結界の力となり。

 触手は、ひとつ残らず光の粒となり。

 力は、触手をさかのぼり。

 侵食して――

 

「ミツケタ……ミツケタ……ミツケタ……ミ……ツ…………」


 音は無かった。


「ミ……ツ……ミ……ツ……ミ……ツ……」


 声だけが響く世界で、土埃を巻き上げ。


「ミ……ツ……ミ……ツ……ミ……」


『顔』が、色を失った姿を地面に堕とす。


「ミ……ツ……ミ……ツ……ミ……ツ……ミ……ツ…………」


 しかし声は止まず、額に頬に顎に生じた亀裂を大きくさせながら、でもいまにも溶け崩れそうな瞳が、ぎょろぎょろと僕らの1人1人を追っていた。


 僕には分かった。


 辺りの魔力が、『顔』に集まっているのが。

 現在進行系で粉々に砕けながら、でも『顔』が、同時に再生を始めているのが。


「とどめを、さしましょう」


 僕は、そう言ったはずだった。

 斜めになる世界を、眺めながら。


 なのにみんな『顔』には向かわず。

 居合も鎧も鞭もナイフも威力を放つことはなく。

 みんな。


「あ、あ、ああああ……」

「しっかりしろ! おい! 息を――」

「フグヲヌンガゼテ!」

「起きろ! 起きろ! 起きろ! 目を――目を覚ませ! 春田!」


 倒れている。

 纏っていた光も、既に失われている。


 触手が、再生を始めている。

 声とともに。


『ミ……ツ……ミ……ツ……ミ……ツ……ミ……ツ……ケ……』


 でもみんなには、聞こえてないのか?

 知らせなきゃ――でも僕は、倒れている。


 タテ


 頭の中に生ぬるい大きな塊があって、起き上がろうとする意志も、声を発しようとする意志も、全部そこに吸い込まれて消えてしまう。


 シンジャウゾ


『勝手に魔力滞留アイドルが始まるのは、魔力飽和した時だけじゃない。スキルが強くなった時だ。一気に成長したスキルに潰されないように、魔力滞留アイドルで身体のキャパを上げてるんだ』


 ミンナシンジャウゾ


 これも、僕にしか聞こえていないんだろうか。


 タテ


 僕は、潰れてしまったんだろうか。


 タテ


 触手が、土の中から持ち上がって。

 まだ1つだけど。

 1つ持ち上がったら、一気に、きっと。


 コエヲダセ


 ほら、あそこにも。


 シンジャウゾ


 土に隠れて再生を遂げた、触手が。


 ミンナシンジャウゾ


 あそこにも。

 あそこにも。

 あそこにも。


 ミンナミンナシンジャウンダゾ


 あそこにも――声がした。


「言ったでしょ? あたしが何とかするって」


 他の誰のものでもない――美緒里の声が。


 光がほとばしり、土から頭を出した触手を消し飛ばす。


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お読みいただきありがとうございます。


20時に投稿する次回で探索は終わります。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、

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