46.猫と一緒にダンジョンに潜る

『新探索者向けダンジョン講習会』を受講した後、すぐに『新探索者向けダンジョン講習会2』を受講できるわけではない。


 一定期間、ベテラン探索者と一緒にダンジョン探索するのが義務付けられていて、ここでいう『一定期間』は、平均で3ヶ月から半年くらい。それを僕の場合は特例で、1週間というか1回の探索で済ませてもらうことになった。


 木曜日――『新探索者向けダンジョン講習会』の翌日。

 僕は、早速ダンジョンに潜ることにした。


 向かったのは、UUダンジョン。

 隣の県にある、初心者でも探索できるダンジョンだ。


 移動は自動車で、運転は――


「はーい、従兄弟くん。今日はよろしくねえ」


 美緒里のマネージャーの、小田切さんだった。

 先日あった時に比べて、やけに柔らかというか軽い印象で。

 

「キャラ作ってんじゃないわよ」

 

 と、美緒里に突っ込まれていた。


「あー、はいはい。じゃあ到着まで暇でしょうから、それ、チェックしといて。そう。そこの段ボール」


 そことは後部座席の後ろの荷物スペースで、それとはそこに積まれたダンボール。

 中に入ってたのは――美緒里が呻いた。


 「……ぅげっ」


 入ってたのは、美緒里のフィギュアだった。

 探索者姿の美緒里を、リアルに再現した可動フィギュアだ。


 ぴんときた。

 

 美緒里が『秋葉原には見られたくないものがある』って言ってたのは――

 

「そうよ! 同じ会社が作った、アニメ風になったあたしのフィギュアとか、ディフォルメバージョンとか、アホほど売られてるのよ! オタクとか外人が嬉しそうに買ってるのよ! それが売れたから、リアル版も出ることになったのよ!」


「ちなみに、中国のメーカーからプラモデル化のオファーも来てるわ。ほら、これ」

 

 差し出されたスマホに表示されてたのは、やはりアニメ風になった美緒里がバイクと合体してロボットになるという製品の企画書だった。


「ちょっと……こんなのに許可出すの?」

アメリカ本社ほんしゃは出すみたいよ」

「やめてよ……」


 会話する美緒里と小田切さんを見て、ふと思った。


 小田切さんは、忙しそうな人だ。

 なのに、まるまる1日使って運転手みたいなことをやっている。

 そんな違和感に答えが出るのは、1週間ほど後のことだった。


 

 UUダンジョンには、2時間ほどで着いた。



 まず受付で申請するのは、前回潜ったZZダンジョンと同じだ。

 前回と違うのは、今回はレンタルじゃなくて持参したドローンを使うこと。


「このレベルのダンジョンで使うにはオーバースペックなんだけど、早めに慣れといた方がいいからね~」


 とのことで、説明を聞くと確かにレンタル品には付いてない機能が山盛りだった。美緒里に言わせると、このドローンを使ってたら「ZZダンジョンでも苦労しなかったっていうか、そもそもトラブルに遭う前に引き返せてたわね」――だそうだ。

 

 UUダンジョンは、これまで潜ったXXダンジョンやZZダンジョンみたいな洞窟型とは違う、フィールド型のダンジョンだった。


「うわあ……広い!」


 中に入った途端、思わず声が出た。


「どうよ? 配信で見るのとは全然違うでしょ」

「うん……凄く広い…………風も吹いてるし……こんなの、配信じゃ分からないよ」

「ふふ~ん。どうしてここを選んだかっていうとね。まずは出てくるモンスターのバリエーションが多い。それから――」


 美緒里の説明を遮るように、モンスターが現れた。

 狼系が、5匹。

 ばららっ。

 5匹とも、倒れた。


「クリア、マーク、サブミット」


 倒したのは、中腰で銃を構える小田切さんだ。

 送迎だけでなく、小田切さんも、僕らと一緒にダンジョンに潜っていた。


「意外? 彼女って第1世代のスキル獲得者なのよ」

「探索者をやってたのは、失業中の半年間だけだったけどね」

「それって『石原草人』の?」

「そう。出版社なんだけど、そこで石原さんに仕事を教えてもらった……はい、追加もクリア」


 続けて現れた狼系も、小田切さんの銃撃に一掃された。


「マーク、サブミット――それで?」

「入社5年目で、会社が潰れて、無職になって、パチンコ屋の面接を受けた帰りに思い出したのよ――『そういえば私、スキル持ちだったわ』って。それから探索者で糊口を凌ぎつつ就職活動してたら『ダンジョン&ランナーズ』に拾われたってわけ」

「光」

「クリア」


 背後から近寄ってきた2匹を、僕はナイフの一振りで両断した。

 距離は5メートル。

 感触としては『顔』と戦った時より、距離も滑らかさも上がっていた。


「マーク、サブミット」


 ドローンに命じる。こうすることで、ドローンが送信した情報をもとに、ダンジョンを巡回してる業者が素材の回収と換金の手続きを行ってくれる。


 ナイフを収める僕に、美緒里が訊いた。

 

「『雑味』は?」

「ちょっと感じたけど、ナイフで逸らした」

「OK。じゃあ、続きね。UUダンジョンここを選んだ理由はもうひとつ。洞窟型ダンジョンでは学べない戦闘技術スタイルを試せるからよ。小田切さんに来てもらったのもそのため――はい、これ」


 そう言って渡されたのは、エアガンだった。


「今日は、彼女のスキルを盗ませてもらう。帰るまでにエアガンそれ無しでも打てるようにしておいて」


 ひゅう、と小田切さんの口笛を聞きながら探索を再開。


 それから中層まで潜り、午後の早い時間には、エアガン無しで小田切さんみたいな射撃が出来るようになっていた。


 そして最後は深層で――


「うわ、わ、落ちる落ちる落ちる!!」

「乗りこなしなさい!『サイクロン』は、もっと速いわよ!」

「こんな! 空飛ぶバイクなんて! 本当のバイクも乗ったことないのに!」

「OK! 来週末あたり、教習所を貸し切る!」


 新たな装備のテストをしたりして、今日の探索を終えたのだった。

 

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