184.猫と2番目のお嫁さん(中)
タラシーノ国を創った『イーサン・ド・スケベーヌ1世』と、その妃『マニエラ』『モエラ』『セリア』の故事。
プロポーズのためイーサンが訪ねたとき、彼女達がどうしていたかというと。
まずマニエラは、戦争で男がいなくなった村で女達を鍛え、隷属を迫る周辺の部族と戦っていたのだという。
そしてモエラとセリアは、レモノさんの説明によると。
『モエラは北方諸国のひとつ『ミジーン』の王女だったのですが、算術に優れていたそうで、ミジーンが大陸東側の国々と交易するための新たな航路を開くのに尽力していたそうです。セリアは大陸西方のエルフ国の族長で、イーサンが訪ねたときは、テイムしたドラゴンを駆って、エルフの森の維持に奔走していたと故事にはあります』
のだそうだ。
そんな話を聞きながら準備をするうち、時間が来た。
「じゃ、行ってくるね」
「がんばれ~」
寝椅子でマッサージされる美織里に手を振り、僕は控え室を出た。
再び籠に揺られ、神父の前に。
「がんばれよ~」
「俺なら1日で2回もしたら死んじゃうぜ~」
「若いっていいよな~」
集まる人々も、さっきは元気に喚いて教会の周りを回っていたのが、ちょっと落ち着いたみたいだ。
でも街路に腰を下ろして屋台の酒や料理をだらだら口に運んでるその様は、結婚式を祝いに来たというにはほど遠い、野次馬感であったり見物人感であったりをより色濃くしていた。
「おーい、ぴかりんがんばれよ~。駄目そうだったらキャンディー食え。キャンディー」
そんな彩ちゃん父の声がして見てみれば、神殿の向かいの建物の屋上――現代のビルみたいに平たくなってる――に席を作り、こちらを眺める一団がいた。
みんな彩ちゃん父と同じような和服とタキシードをあわせたような服を着た、偉そうな人達だ。数は十数人といったところ。中には和服そのものの帯に剣を差してる人もいて、明らかに僕の強さを値踏みする視線を向けていた。
(これは、あのパターンかな――っていうか、さんご……あそこにいたのか)
さんごも、屋上にいた。一団の中央で彩ちゃん母に抱かれ、偉そうな人達が平伏して差し出す料理を、ふんぞりかえって食べている。
でも、そんな光景に気を取られたのも、一瞬だけだった。
「新婦よ! 濡れそぼる草むらを、地に広げよ!」
神父が声をあげれば、新婦の登場だ。
そこにいる誰もが道の向こうに注目し、そして現れたのは――
(お神輿!?)
だった。
「「「「「えっさこら波越え、ほいさこら行けば。エイサホー。ヤイサホー。そこに見えるはゲスパラの、白波映えるゲボ岬。エイサホー。ヤイサホー。月夜を渡るに頼るるは、算盤はじく細腕よ。エイサホー。ヤイサホー」」」」」
神輿を担ぐのは、日焼けした屈強そうな男達。
そして神輿は――
(船!?)
の形をしていた。
そして舳先には――
(パイセン!?)
が立っていた。
そしてパイセンは、両手に――
(算盤!?)
を持っていた。
情報を整理して目の前の光景を淡々と表現するなら、こうなる。
屈強そうな男達の担ぐ船の形をしたお神輿に乗って、両手に算盤を持ったパイセンが現れた。
(これは……モエラか)
『算術』が得意なのを活かして、交易のための『航路』を切り開いたモエラ――算盤が『算術』、神輿が『航路』を表現してるなら、そういうことになるのだろう。
ともあれ確かなのは、2番目のお嫁さんが、パイセンだということだ。
それにしても……
「…………」
神輿の舳先に立つパイセンの表情は、虚無そのものである。
理由は、よく分かる。パイセンは、フラッシュモブのような、勢い任せのなし崩しで悪目立ちを正当化する類いの行為を嫌悪するタイプ、というかそういう美意識の持ち主だ。
「………………」
そんなパイセンがこんなことをさせられる事態に陥って、どんな気持ちになってるだろう?
「(しゃかしゃか……しゃかしゃか)」
船型の神輿の舳先で算盤をしゃかしゃか振るパイセンの無表情から、僕は目を逸らすことしか出来なかった。
なお、パイセンは美織里みたいに顔をヴェールで隠していない。花で作った冠だけだ。だから、表情はよく分かった。
「あ…………(ぷいっ)」
僕に気付いて、顔を背けるのも。
お神輿を降りて、もじもじしながら近付いてくるのも。
神父を挟んで向かい合うと、僕の反応をうかがうように上目遣いで見てきたのも。
(…………可愛い)
ひたすら可愛いだけの表情が、全部まる分かりだった。
「では若き2人よ。証として、まずは天に対し、熱きベロチューを献げましょう」
神父に言われて、パイセンが目をつぶる。
その顎を指で持ち上げて、僕は唇を重ねた。
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理由:過剰な性描写
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「あなたがたのベロチューに、天も満足されたようです。では次は聖堂で、地に対し猛烈な交わりを献げて下さい」
神父の声を背に、僕はパイセンをお姫様抱っこして、神殿に入った。
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