152.猫と一緒にダンジョンデート5(後)

「撮れ高……稼ぎましたよ」


 集合場所のゲート前で待ってると、さんごに先導された彩ちゃんが、よたよた歩いてきた。


 お腹がスイカを突っ込んだみたいに膨らんで、見るからに苦しそうだ。


「特大メンチカツと、特大オムライスと、特大ナポリタンと、特大カツ丼と、特大ビーフシチューと、プヒー……ビールをジョッキで3杯」


「予定ではメンチカツとオムライスだけでしたよね? どうしてそんなに食べちゃったんですか?」


「メンチカツとオムライスを食べてたら……隣の席の大学生グループが同じ注文をして……シェアして食べるとか言ってたから……イラッていうかムカッときて、気付いたら……気付いたら」


 とりあえず僕とパイセンで彩ちゃんを支えて、ダンジョンを出た。


「う……ぶふ……ぽふ…………」


 車の貨物席に乗せると、仰向けでお腹をさする彩ちゃんは、いまにも口から何かを吹き出しそうな様子だったのだけど。


「すう……ぷすぅ……すう……ぷふぅ……」


 すぐに寝息とも空気漏れともつかない音を立てながら、眠ってしまった。


 そんな彩ちゃんを見ながら、僕は思った。


(その大学生グループ……きっと男女2人づつだったりするんだろうな……これから付き合うのか、それとも既に付き合ってるのか、そんなカップルが2組の……キラキラした…………)


 後部座席に座る僕の、隣にはパイセンがいる。パイセンの眼差しもまた、彩ちゃんに向けられていた。


「…………(ぼそっ)なんて言ったらいいか、分からない」


 指先が触れて、一瞬離れて、僕らは手を繋いだ。


 助手席では、美織里がドライバーの川端さんと話している。川端さんはイデアマテリアの社員なのだけど、いずれはドイツのニュルブルクリンクで自動車メーカーのテストドライバーになる予定だ。


「川端さんは、お昼ってなに食べたの?」


「コンビニの弁当ですね――食中毒とか怖いから、仕事中はコンビニオンリーです。個人店とか、怖くてマジ無理っていうか」


「へー、そういうものなんだ」


「味と安全を考えたらコンビニかチェーン店になっちゃいますね」


 一方そんな会話と同時進行で、スマホではこんなメッセージがやりとりされていた。


 さんご:光とパイセンは付き合うことになったんだよね?

 パイセン:そうですね

 美織里:おめ~おめおめ~

 光:うん。パイセン、よろしくね

 パイセン:はい。こちらこそ

 さんご:じゃあ、彩とも付き合うんだよね?

 美織里:そうだよ~。彩ちゃんとも付き合うんだよね~


 どうしてそうなる……


 パイセン:光くんは、嫌なの?

 美織里:嫌なわけないじゃん

 さんご:プリクラを見れば一目瞭然だよ

 さんご:彩は光に盛っているし

 さんご:光は彩に盛っている


 言われてみれば……ワインを飲んだ彩ちゃんに感じたのは、色っぽさとかそういうものだったのたと分かる。


 あの時の彩ちゃんは、目も頬も唇も額も何もかもが丸くて艶やかで柔らかそうで……触ったら気持ちが良さそうで。


 無防備に好意を寄せてくる、あんな表情の彩ちゃんを、いつも美織里にしてるような、肉欲を擦り付けて貪るような行為で犯したら……想像しただけで、僕は……僕は!


 さんご:どうやら光は、彩との交尾を想像して興奮してるみたいだ

 光:してないし! してないし!

 さんご:嘘だね。匂いで分かる


 え、そんな匂いしちゃってる?

 思わず、自分で自分の匂いを嗅いでると。


 美織里:そんなの分かるわけないじゃん

 パイセン:でも、そんな嘘に引っかかる人はいたみたいですね


 …………はい、そうですね。


 美織里:じゃあ彩ちゃんとも付き合うってことで

 パイセン:決定ですね


 僕の気持ちは……嫌じゃ、ないですね。確かに。でも彩ちゃんの気持ちは……確認済みなんでしょうね、パイセンの時みたいに。


 ということは――彩ちゃんも、僕を好きってことなのか。


 そう思うと、やっぱりというか、どきどきしてきた。


(彩ちゃんが……僕の恋人に。そして美織里とパイセンも、僕の恋人で)


 窓の外を見れば、海と空と雲がくっきりとしたコントラストで描かれていて、何故かそこを吹く風までも見えるようで……


(この夏は……一体、どうなっちゃうんだろう?)


 そんなことを思っていたら、さんごが。


 さんご:でも問題がある

 さんご:彩は結婚するまで誰とも交尾をしないと言っていた

 さんご;つまり光が結婚できる年齢になるまで、彩との交尾はおあずけということだ


 え……そんな設定、初耳なんだけど。


 美織里:え? じゃああと2年も?

 パイセン:それは……ちょっと重いですね

 美織里:だよねー。彩ちゃん、もう大人だし

 美織里:あたし達より、未来無いし

 パイセン:彩ちゃんだけ光くんと付き合ってないというのも気まずいです


 すると――やはりさんごが言った。


 さんご:まあ、抜け道はあるんだけどね


 と、そんな会話が行われていることなど全く知らず――後部座席では。


「ぐひ~。ぶひ~。すぴは~」


 彩ちゃんが、さんごを抱き枕にして爆睡している。


 いつかあんな風に、僕が抱き枕にされる日が来るのだろうか――そんな光景を幻視して、僕は嬉しいような切ないような、複雑な気持ちになるのだった。


=======================

お読みいただきありがとうございます。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、

フォローや☆☆☆評価、応援などよろしくお願いいたします!

コメントをいただけると、たいへん励みになります。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る