145.猫が暴いたスキルとは(後)

 家に帰って、美織里に話すと――


「あ~。それって単にデリカシーがないだけなんじゃない? 言われてみると確かにそうだわ。全然悪意がない。蒲郡先生ってそういう人よ」


 という答えが返ってきた。

 美織里が聞いた。


「問題は、性格より能力でしょ――さんごから見て、そこらへんどうだった?」


 それにさんごは。


「美織里の言う通り、あの性格で無能だったら迷惑極まりないわけだけど……安心していい。蒲郡のスキルは中レベルの『身体能力強化』に高レベルの『状態異常無効』。それから超高レベルの『シュリンク』だ」


 と。


「シュリンク?」

「あたしも聞いたことないわ。そのスキル」


「この世界にダンジョンが現れて、まだ10年しか経っていない――だから、見付かってないだけだと思うよ。『シュリンク』は、ダンジョンの前線で戦う人間には生えにくいスキルなんだ」


「「へー」」


「『シュリンク』がどんなスキルかは――早ければ、明日にも理解できると思うよ。明日の、顔合わせでね」



 翌日は1学期最後の日で、終業式の後、ホームルームをやってお終いだった。


「期末テストで赤点を取った者、授業の出席日数が足りない者は、来週の月曜から金曜まで補習があるから忘れないように。再来週の月曜日の追試で合格すれば良し。不合格だったら水曜日に追々試を受けて、それも不合格だったら留年が確定する。そうなると、大体は夏休み中に転校を決めて、9月にはいなくる者がほとんどなわけだが――2学期を、今この教室にいる全員みんなで迎えられるように頑張ってほしい」


 僕と美織里は期末試験を欠席して赤点。そして出席日数も足りないから、補習を受けて追試に合格しなければならない。


 でも補習では、追試に出る問題を一言一句違わず教えてくれるそうで(追試の問題用紙がそのまま配られることさえあるらしい)、不合格になる方が難しいらしい。


 ホームルームも終わり、忘れ物がないか机の中を探っていると――


「ぴかりんも書いて!」


 いきなり渡されたのは、色紙だった。


 健人が格闘技の全国大会に出場するそうで、クラス全員で寄せ書きを送ることになったのだとか。


「ううん……」


 こういう時、何を書いたらいいのか浮かんでこない僕は、さらっとした一言のコメントというやつが苦手なタイプだ。


 結局――


きわを取りこぼさない』


 と、格闘技をやってる人にしか分からないことを書いてしまった。


 ちなみに美織里が書いたのは……


『先に殴れ、先に蹴れ、先に極めろ』


 というもので、それを見た建人は。


「それが出来りゃ苦労しねえって……」


 と、漏らしていた。


 明菜さん達と談笑する美織里を見る健人は、なんだか複雑そうな表情をしていた。



 いつか、こんな夢を見たことがある。


「初めて美織里と会った時『これは絶対好きになったらいけない女だ』って思ったんだ。絶対、酷い目に遭うからって。だから光と付き合いだした時はほっとした。これでもう美織里と付き合う可能性に悩まなくて済むんだって。実際そうだろ。光、凄いことになってるし。光があれだけ凄いことをしてるっていうのは、それだけ美織里に酷い目にあわされてるってことなんだから。凄い奴だよ。光は。マジで(笑)」


 格闘技のチャンピオンになった健人が、インタビューでそんなことを話している、そんな夢だった。



「みおりん、またエロくなってな~い?」

「そーかな~(笑)」


 明菜さんの言う通り、久々に見る美織里の制服姿は、エッチさの度合いが凄いことになっていて、あまりのエッチさに、教室の男子生徒たちは、横目ですら美織里を見れない状態になっていた。


 ボタンが飛びそうな胸を揺らし、お尻のラインがくっきり浮き出たスカートを張り詰めさせながら立ち上がると、美織里が言った。


「さあ行くわよ。光――私達の探索部の、最初の顔合わせに!」


 同じくホームルームを終えた生徒達で、廊下はごった返している。でも美織里の姿を見るとそれが2つに割れて、道が出来る。それで僕は初めて気がついたんだけど、廊下ってセンターラインが書いてあるんだね。


「うい~っす」

「うい~っす」


 途中で合流した彩ちゃんとハイタッチして、更に進む。美織里が作った道は、2人が並んで歩いてもなお余裕があるくらいだった。


「…………」


 その後を歩く僕は、ひたすら空気になることを望んで、無言を貫く。僕らが通りかかるタイミングで自撮りする生徒がいても無反応で歩く――歩いていたんだけど。


「あら~。これから顔合わせせつめいかい? 私もなのよ~」


 と、廊下の角からいきなり現れた蒲郡先生に、びくっとしてしまった。


「メール見たわよ~、彩ちゃん洞木先生。うまくまとめてくれて、流石だわあ。やっぱりああいうのって、現場を知ってる人じゃないと出てこない発想なのよねえ。そうそう。春田さんのコメントも勉強になったわあ。あれって、やっぱり……」


 美織里たちと話しながら歩く蒲郡先生は探索部の顧問、彩ちゃんは監督という形で収まることになって、部長の美織里の朗らかな、でも内心で何を考えてるか分からない笑みを見ながら、副部長の僕は、面倒くささと面倒くささが化学変化を起こしたような現状に、胃の辺りがきゅっとなるのを感じるのだった。


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