猫とダンジョンと腐った女

140.猫が恨みを買ってるようです(前)

今回からだい8章です。

139.5話の数時間前から始まります

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「ごめん……ちょっと無理」

 そう言って美織里は、僕から隠すように顔を逸らせた。



 水曜日の朝――


 目をさましたのは、スマホの通知のせいだった。


 イデアマテリアじむしょ関係のチャンネルに、動画がアップされたことを知らせる通知だ。


『逸見尾治郎チャンネル:がっつりシリーズ第3弾。ぴかりんとがっつりボルダリングしてみる』


 先週の火曜日に、撮影した動画だ。


 この1週間は、本当に忙しくて色々ありすぎた。


 月曜日に上京しておてもやんとコラボ。火曜日に尾治郎さんとコラボして、水木金で『クラスD昇格者向け講習』。


 特に『クラスD昇格者向け講習』はトラブルが多くて、金曜日に講習が終わった後も、その後始末で土日月火と4日間もかかってしまったのだった。


 その間、美織里と二人きりになれる機会はなくて、だから昨日の夜、何日かぶりでパイセン(昨日くらいから、気付くと僕も、神田林さんのことをこう呼ぶようになっていた)や彩ちゃんを別れ、小屋に帰り、さんごもガールフレンドに会いに行くと言って出かけた途端、僕らは、さんごみたいな言い方をするなら盛った・・・


「ん……んく……ふゎあっ!」


 キスして抱きしめた途端、美織里がびくびくと身体を震わせ、ぐったりとなった。


「大丈夫?」


 と聞けば、返ってきた答えは。


「ごめん。ちょっといまスキル切ってるから……」


 というものだった。


「スキルって……『状態異常無効化』を?」

「うん。いつもより深く――完全に」


 ほとんどの探索者は『状態異常無効化』のスキルを生やしている。美織里くらいの探索者になるとそれが常に働いていて、行動の妨げとなるような刺激を軽減しているのだ。


 痛みや酩酊――それから、快感を。


する・・ときは、いつも弱くしてるんだけど……今日って久しぶりだし、いつもより気持ちいいんだろうなって思ったら……せっかくだし、だったらどれくらい気持ちよくなるんだろうって……切っちゃったの。『状態異常無効化』を。そしたら、キスしただけで……本当は、光に触られただけで……あたし…………」


 赤くなった顔を背ける美織里に、僕がどう接したかはいうまでもない。


「いい……いい、いいの。それ、好き……あ……ああ、あ、あ、犯されてる感、半端なくて……あ……だめ……あ、また、あたし、また、また、あたし、また……あ、あ、あぁ、あ……………ああっ!」


 何度も気を失いながら、でもまた求めてくる美織里に、同じく『身体能力強化』スキルを切った僕は、何度も目の前が真っ白になるのを感じながら、応えた。


 そしてどちらからともなく眠りに落ちて――目がさめたいまスマホの時計を見れば、午前4時30分。


 尾治郎さんのチャンネルに動画がアップされた通知で起こされたわけだけど、どうしてこんな時間に? と思わないでもない。


 でも尾治郎さんのチャンネルは、キャバクラやラウンジ、銀座のクラブで働いている女性が主な視聴者層だと聞いたことがある。こんな時間に投稿するのも、きっとそういった人達の仕事上がりに合わせているのだろうと考えれば、分かる気がした。


 1時間も寝てないけど、頭はすっきりしている。


 美織里を起こさないように布団を出て、立ち上がった――そうだ。あれを持って行こう。


 キッチンから持ってきたあれ・・でポケットを膨らませ、畳をぽんとたたく。


 すると畳がスライドして、現れるのは地下へと続く階段だ。


 小屋の地下には200平米の空間が広がっていて、さんごの工房になっている。


 以前、迷惑系配信者のオヅマ獣壱とトラブルになった時、僕は1時的にホテル住まいをしていたのだけど、それはこの工房を作る工事をしていたからだった。


 工房には、動画編集用のパソコンや、僕らの装備を作るための工作台が並んでいて、工作台のいくつかには美織里の『銀色のサーフボードシルバーサーファー』が乗せられている。


 隅にある、毛布が敷かれた一角に僕は近付く。


「ふにゃぁ?」


 気付いて顔を上げたのは、さんごと同じ姿をした、でもずっと小さい猫で、顔を上げた以外にも10匹近くが毛布に身を沈めている。


「起こしちゃった? ごめんね」


 言いながら僕は、ポケットから差し入れのパウチ入りおやつチュールを取り出す。


「「「「「ふにゃ~お」」」」」


 すると他の猫も次々と目をさまし、夢中でチュールを舐め始めた。


「「「「「んにゃぺろ、んにゃぺろ、んにゃぺろ、んにゃぺろ……」」」」」


 彼らは、さんごが作業用に作った猫造猫アンドロイドで、さんご隊と呼ばれている。


「「「「「にゃむにゃむにゃむにゃむ……うにゃ~ん。にゃむにゃむにゃむ。うにゃ~ん」」」」」


 チュールを食べながら、彼らはひとり残らず涙を流していた。『クラスD昇格者向け講習』に関するトラブルは、彼らの助けなしでは乗り越えられなかっただろう――それほどの働きだったのだ。そしてそれは、彼らが強いられた労働がいかに過酷だったかを物語っていた。


「「「「「うにゃ~ん。大好きです。んにゃにゃんにゃんにゃさんごのクソ野郎みたくんにゃんにゃ無茶な仕事をにゃにゃにゃんにゃ丸投げしないからんにゃんにゃ美織里さんもにゃにゃ光さんもにゃにゃにゃ~にゃ僕らは尊敬してますにゃにゃん愛してます」」」」」


「しばらく、大きな仕事はないと思うから。ゆっくり休んでね」


 さんご隊から離れ、壁を見ればそこには赤いドアと青いドアがある。


 赤いドアを開けて奥へと進む。


 霧がかかったように見えるのは、何百層もの結界が張り巡らされているからだ。


 そこはどれだけ強いスキルを放っても壊れない、シューティングレンジだった。


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