129.猫と久々の探索です(9)魚の骨

 彼ら――


 距離としては10メートル程度。僕らの行くちょっと先に立ち止まり、こちらを見ている彼ら。


 彼らは、昨日の講習にも顔を見せていた。


 そして今日は、僕らの探索に同行してこの洞窟にまで着いてきている。


 使い込んだ探索者ジャケットに、合成繊維のつなぎ――中年の、おじさん2人組だ。


 でも座学の出席者の確認で彼らの名前は呼ばれなかったし、探索中の点呼でもそうだった。彼らは受講者に含まれてないし、そんな彼らが僕らに同行するのを、講師も受講者たちも見とがめなかった。


 違和感を抱いたら、分かるまではすぐだった。

 彼らに気付いてるのは――見えてるのは僕だけだと。


 大塚太郎との件がなければ、きっと混乱していただろう。でもいまの僕は、彼らがなんと呼ばれる存在か知っている。


 彼らは、幽霊だ。


 そう判断せざるをえなかった。そしていま『丘の向こう』のここまで、彼らは着いて来ているわけだけど……


『彼らが教えてくれるかもしれないけどね』


 と、さんごは言っていた。


 彼らは、砂浜あっち丘の向こうこっちを行き来出来るのではないか?


 という可能性があった。


 王子の見解も、さんごと同じで――


 王子:ありえないことではない

 王子:情報生命体とて、空間と空間の狭間を自由に行き来できるわけではない

 王子:しかし生身の肉体を持つ君たちに比べれば、その敷居は格段に低い

 王子:浜辺とこの洞窟の間のゲートは塞がれているようだが

 王子:無限の時間が与えられれば、その痕跡を見つけて行き来するのも可能であろうな


 彼らにそのすべがあるなら、教えてもらうという手もあるだろう。


 でも――では、どうやって教えてもらう?


 幽霊や情報生命体を呑み込んだ時、伝わってくるのは感情がほとんど――だから具体的な方法を教えてもらうのは、難しそうだった。


 それでも彼らの後をつけていけば――


(いずれは、手がかりが掴めるのでは?)


 とりあえず、そう考えることにした。


 いま僕らは、彼らと同じルートを歩いている。

 分かれ道で、彼らと違う道を選ぶと。


「あれ~。ここは行き止まりですね~」


 僕らが選んだ道は、必ず行き止まりになってた。


 そして――


「さて、ではいったん戻って、今度はこっちの道を進んでみましょ~」


 元の道に戻ると、彼らが待っている。

 そして僕らは、再び彼らの後を歩き始める。


 配信が始まって、30分も過ぎた頃だった。

 こんなコメントがあった。


※魚の骨みたいだな


 このコメントを書いた人は、配信を見ながら手元でマッピングしていたのだろう。


 真ん中を通る道と、そこから左右に別れる行き止まりの道――僕らが歩いた道筋は、まさに魚の骨みたいになっていた。


 尻尾から出発して、肋骨の一本一本に寄り道しながら、真ん中の背骨を進んでいる。


 だから、このまま進めば――


※ゴールは、魚の頭か


 王子が言った。


 王子:配信が切れたぞ

 王子:通信は継続しているが、配信サーバーからの戻りが無い


 すると、王子に続けたように蝶野さんが。


「ここは、無視ですか?」


 蝶野さんも『魚の骨』に気付いてたのだろう。


 そしてそれに気付けば、分かれ道のどちらが背骨でどちらが肋骨かも、なんとなく見分けが付くようになってくる。


 いま、肋骨――脇道のひとつを、天津さんが無視して進んだ。


 蝶野さんは、そのことを指摘したのだ。


 もっとも、ここまで全ての肋骨に寄り道していたわけではない。むしろ半分くらいは無視していて、いま天津さんが脇道を無視したのも特別に不自然とはいえないはずだった。


 でも蝶野さんには、不自然に思えたのだろう。

 それは、僕も同じだった。


 僕が不自然に思ったのは、彼らの不在が理由だ。


 いま僕らの前に、彼らはいない。

 これまで、彼らは背骨を選んで進んでいた。


 でも、それが覆された。

 

 肋骨を選んで、入っていったのだ。

 天津さんが無視した肋骨――脇道に。


「…………」


 天津さんは、蝶野さんに応えず、足を止めることもなかった。ドローンに話しかけることも、既にしていない。


 脇道を、10メートルも過ぎたあたりでだった。


「結界」


 がきん!


 咄嗟に僕が張った結界に衝撃が叩き付けられた。


 声がした。


「久しぶりだな、姉ちゃん――そいつら、殺らせろよ」


 脇道の前に立つ男は、全身を革鎧で包んでいた。


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