211.猫もコーナーを持っている(上)
数えると、二十二人。
男鹿高校の生徒達に向けて、僕は挨拶をした。
「初めまして! クラスD探索者の春田光です!」
話したのは、あらかじめ考えてたのと、その場で思い付いた内容が半分ずつだった。
「ご紹介いただいたように、僕はプロの探索者として活動しています。しかし自分の学校では、まだ創部したばかりですが探索部に所属し、この夏から、そちらでも活動を始める予定です。今日は我が校の部員を皆さんの探索に同行させて頂き、ありがとうございました。経験の少ない彼らにとって、大変貴重な経験になったと思います。このあと僕は『24時間ノンストップ探索』という、文字通り24時間ノンストップで、常に移動することを義務付けられた探索を行います。皆さんが明日の日中のに行われる探索と一部時間が被りますが、出来るだけ迷惑とならないよう、努力します。しかし、24時間常に移動し、当然その間、モンスターとの戦闘を行う都合上、明日皆さんがフィールドに出た際、多少の違和感を感じることがあるかもしれません。大変申し訳ありませんが、その点については、ご容赦頂けると有り難いです。今回の探索にあたって、このダンジョンのマップやモンスターの分布図、事故の事例などを調べました。どれも過去にこのUUダンジョンを探索した探索者達が残したものです。皆さんと僕は、明日同じフィールドを探索します。別々に探索するわけですけど、でもそれぞれの探索自体は、決して別々のものだとは思いません。誰かが身勝手なことをすれば、ダンジョンは、身勝手なことをした本人か、本人が逃げ切ったとしても、他の誰かに代償を求めるでしょう。その誰かは、僕らの後でこのダンジョンを訪れる、未来の探索者かもしれません。僕の探索は僕だけのものでなく、皆さんの探索も皆さんだけのものではありません。過去の探索者が僕らに何かを残してくれたように、僕らの探索も未来の探索者に何かを残します。それが未来の探索者達に対して恥ずべきものにならないように、少しでも彼らの助けになるようなものとなるように、今日と明日、まずは無事に帰ることを目指して、お互い頑張りましょう――以上! 挨拶とさせていただきます!」
挨拶を終えて、拍手を受けながら下がると、件の体格のよい男性が「ありがとうね。がんばってね」と耳打ちした。
長めのスピーチとなったのだけど、話しやすかったのは、彼が拍手や合いの手を入れて、生徒達にもそれを促してくれたからだろう。
生徒達の中には、僕に話しかけたそうな気配の人もいたのだけど、彼らを制して僕から遠ざけてくれてるのも、これから探索を行う僕を気遣ってくれてのことなのだろう――やっぱり、いい人だ。そして男鹿高の探索部員も、気持ちのよい人達に思えた。
こんな思いがけない出会いをもたらしたのは――
「私達も頑張らなくっちゃね。来年の夏休みは、合同で探索出来るくらいになれたらいいわよねえ」
蒲郡先生のスキルに違いない。『シュリンク』。物事を(途中で多少の混乱はあっても)自分にとって良い形にまとめるスキルだ。そのてその影響は彼女の生徒である僕らにも及んでるのは疑うまでもなく。
「それじゃ、私達も野営の資格がないから。池田さんと沼袋さんは私が送って帰るわね」
今日
そして、もう1人は――
「玄田君は、明日も探索するのよね?」
玄田さんという、2年生の男子だ。一緒に探索した男鹿高校の生徒に気に入られて『君、センスあるよね』『明日も参加しなよ』『先生も絶対いいってい言うから』『お。君が玄田君? 聞いたよ。明日も一緒に潜ろうよ。休んだ奴がいるからホテルも空いてるしさ。いいよいいよ。蒲郡先生には俺から話しておくから』ということになったのだそうだ。
「は、はぁ……まあ……はい」
当の玄田先輩はといえば、嫌がってる風でもないのに、なんだかはっきりしない口ぶりで――
それで、思い出した。
(あ、この人が……『チー牛の』)
夏休みに入る前、探索部の名簿を見ながら美織里が言ってたのだ。「ああ、こいつが『チー牛』の玄田君ね」と。
その時は失礼だなあ、くらいにしか思わなかったけど、こうして会ってみると、確かに玄田さんは、一般に流布される『チー牛』そのものの顔つきをしていた。
「それじゃあ、がんばってね」
蒲郡先生達がゲートを出るのを見送り、僕は今日の基地となってるレストランに向かったのだった。
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