31.猫はいないがダンジョンに潜る(8)~ファストファインダースの過去~

『ダンジョン探索者・春田美緒里を語るスレ』


 書き込みを終えると、早速レスが付いた。

 

『がんばれ』

『おまえらのとこにも、みおりんが行くから』


 胸と、目の奥が熱くなった。

 そんな僕の横では、山際さんが神田林さんにスキルの話をしている。


「さっきのスキルは、シーフ系のものかな? 他にはどんなスキルが生えてる?」

「『抜き取り』と『隠形』ですね。さっきの『エアステップ』ほどには使いこなせてないですけど」

「では『流れ』で鍛えてみればどうだろう」

「流れ……ですか?」

「『抜き取り』と『隠形』と『エアステップ』をひとつの流れで使うんだ――『抜き取り』は箱や袋から品物を抜き取るスキルだったと思うが」

「はい。容れ物から中の物を抜き取るスキルです。私はまだ、容れ物に5秒位触ってないと抜き取れないんですけど」

「だったら『隠形をかけながら』『高いところにある容れ物に触って』『中身を抜き取る』といった『流れ』で訓練してみるといい。1つの流れで複数のスキルを使うことによって、最も練度の高いスキルに他のスキルが引き上げられる現象が発生する。場合によってはスキルの食い合いによって、全く新しいスキルが生まれるかもしれない。私の氷結装甲ビー・クールがそうだ。『肉体硬化』をかけながら『氷結魔法』を使っていたら、スキルで氷の鎧が作れるようになった――」


 更にその横では、赤松さんがスマホを見ていた。

 尾治郎さんたちの、救難配信だ。


「あ~。配信でやっちまったかあ……」


 訊いてみるとファストファインダースには、外部に見せたくないとっておき・・・・・があるのだという。


「4年前、ファストファインダースは1度解散している。当時7人いたメンバーのうち、4人が探索者を引退したんだ。その、とっておき・・・・・のせいでな」


 それが、どんなものかというと――


「その時も、今回みたいに尾治郎の身体が欠損してな。他のメンバーも魔力切れか戦闘不能。そんな状況でな、食ったんだよ――尾治郎を。取れちまった、尾治郎の手足を。尾治郎のスキルは『魔力凝縮』。身体に取り込んだ魔力を凝縮して、身体の強度を爆上げさせる。そんな状態の尾治郎の身体を食うってのがどういうことかって言うと――魔力を食うってことなんだ。しかも人体に取り込まれやすいように、スキルで調整された魔力をな。それで尾治郎の身体を食った仲間は魔力も体力も復活し、窮地を乗り切った」


 しかし――


「問題はその後だ。やっぱり今回と同じく、その時も配信してたんだよ。非難轟々でさ。各方面から叩かれまくって炎上し、火の手はメンバーの家族にまで及んで……結果、探索者として残ったのは尾治郎と芳野とマッキー。俺たち3人は、その後で別々に彼らの弟子になって、別々に『ファストファインダース復活させましょうよ』って訴えて――現在に至るってわけだ」


 いま尾治郎さんたちは、『顔』から離れた場所に張った結界に避難している。


 配信画面では、尾治郎さんが、淡々と話していた。


『見苦しいものを見せてしまって、申し訳ない。俺たち3人は、ひとまず安全な場所に避難している。心配なのは赤松たちだが――そうか。コメントありがとう。赤松も麗子も宗薫も避難できたか……ひとまず安心だ。後は救援を待つだけだが、心配なのは2次遭難だな。数日分の食料は確保してあるから、急ぐ必要は無い。余裕があるタイミングで来てくれたらいい。ん? へえ?『切り裂き姫』が? だったら安心と言いたいところだが、いや……いいか。まあオッサンとしては、俺のために若い子が危険な目に遭うのは、たとえ探索者でも……まあいいか。ああ、そうだ。あいつらも、これ見てるかな。赤松、麗子、宗薫――気に病むな。気にしなくていいから、おまえらはおまえらで、変な考えを起こすんじゃねえぞ?』


 画面から目を離し、赤松さんが言った。


「こういうヤバいとっておき・・・・・はさ、クラスAのパーティーなら、大概どこでも持ってるんだよ。クラスAパーティーが滅多に救難配信をやらないのには、そういう理由わけもあるんだ――ああ、そうそう。春田も神田林もな。君らな、帰ったら覚悟した方がいい」


 覚悟?


「さっき俺ら、掲示板なんかに書き込んでただろ。あれな、本当は禁止なんだよ」

「そうなんですか!?」


 僕が驚くと、神田林さんが言った。


「テキストに書いてあります。遭難した場合は、探索者協会との連絡以外、スマホは使用禁止。勝手にあちこち連絡して情報が錯綜するのを防ぐためです」

「じゃあ配信は?」

「探索者協会との連絡に含まれます――ドローンは、協会からのレンタルですよね?」

「そうだったんだ……」

「テキスト、ちゃんと読んで下さい」


 赤松さんによると。


「帰ったら12時間の講習が義務付けられる」


 のだそうだ。


「そうそう。電話の着信に関しては強制的に遮断されるんだ。ダンジョンに入る時、ドローンとリンクしただろ? あの時にスマホの設定が変わって、ドローンとのリンクが切れたら遭難したものと判断――探索者協会が許可した相手以外からの着信は全部拒否されるようになる……ガンガンかかってくるんだよ。親兄弟とか、ろくに会ったこともない親戚とか知り合いとかからな」


 と、その時だ。

 僕のスマホが震えだした。

 電話の着信――画面には、こう表示されていた。

 

『春田美緒里』


 なんという、ご都合主義のタイミングだろう。


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お読みいただきありがとうございます。


こんな時なのに雑談してるのは、メンタルを落ち着けてパニックに陥るのを防ぐためだったりします。


緊張を維持したまま待機するのって難しいですよね……


ところでこの作品、根本的な部分で間違ってたのに気付きました。

いまさら変更するのが無理な部分で悩んだのですが……別作品として投稿することにしました。


第3章が終わった時点で、ちょっとこの作品をお休みして、一気に書き上げて投稿したいと思います。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、

フォローや☆☆☆評価等、応援よろしくお願いいたします!

 

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