131.猫と久々の探索です(11)バルダの|末裔

「オマエらが、殺したのか?」


 答えを待たず、僕はスウェイン達の頭部に向かって鎖を放っていた。


 がきん!――金属を金属で弾く音が、3つ。


 スウェインと他の2人が、剣で鎖を弾いた。

 残りの1人も、ウィービングに似た動きで避けて剣を抜く。


 4人とも反撃の姿勢に――それで、十分だった。


「重力」


 反撃のため重心を移動したところへ、上から重力をぶつけて押しつぶす。


「ぽへっ!」


 肺から空気が噴き出す音は1人分だったけど、地に伏せたのは4人ともだった。


「鎖」


 再び鎖を出して、4人――いや天津さんも含めた5人を縛り上げた。タイフーンユニットで辺りの魔力を吸い上げるのも忘れない。これで、逆転のきっかけとなるような魔法があっても使えなくなるはずだ。


 こうして一通りのことをやって男達の力を削ぎ、それからもう一度、僕は聞いた。


「オマエらが、殺したのか?」


 質問として、欠陥があるのは分かってる。『誰を』が無いからだ。加えて男達の目に、幽霊が見えてるとは限らない――だから、聞いた。


「オマエ達に、この人達が見えるか?」


 言って、たたずむ幽霊の1人を指さすと。


「ああ――お前、見えるのか」


 スウェインが、言った。


「見えるのか?」

「いや、俺には見えねえ」


 と。


「以前ここに来た奴が――お前らの世界の奴が、ここに『いる』って言ってた。悲しんでるわけでも怒ってるわけでもねえ顔をした奴が、何人も、ここにいるってな」


「その人達を、殺したのかと聞いている」


「ああ、そういう意味か……殺しちゃいねえよ。俺が殺したのは、俺らの世界の奴と、それから……俺らの世界に来て…………」


 言葉を切らしたスウェインに、僕は言った。


「僕は、僕の信頼する人物に、こう言われている。もしこの洞窟にゲートがあって、そこから出てくる奴がいるようなら、殺せと」


「「「「…………」」」」


「そいつが意思疎通の出来るような奴だったら、なおのこと殺せと。問答無用で殺せと。しかし、殺すかどうかの判断は――天津さん、あなたに任せろ……やらせろと」


「意味が……分からない」


「彼らが何をやってるのか、知ってるのはあなただけだからだと思います。個人的に言えば、人を殺すかどうかの判断を、どうして僕がやらなきゃならないんだと思ってます。彼らを殺さなければならないなら、そんな判断は、あなたにやらせればいいじゃないかと。だって天津さん――僕らに、嘘を吐いてましたよね。丘の向こうがこんな風になってることも、ここから出てく方法も知ってるのに、黙ってたんですよね?」


「それは――」


「僕にとってあなたは、人を殺すかどうかの判断をさせても心が痛まない――そういう人になってるということです」


「…………」


 おそらくさんごは、天津さんが洞窟から出る方法を知ってることも、隠して嘘を吐くだろうことも予想してたんだろう。天津さんに判断させろと言ったのも、僕が言ったような感情的な理由ではなく、たとえば揺さぶりをかけたりするため?――そんなことを考えてたら、告白が始まっていた。


「まず丘の向こうここについてだけど……普通だったら、丘を超えてもここには来れません。砂浜に戻るだけです。それ以前に、モンスターの妨害が激しくなって、丘の上に着くことすら出来ません。丘の向こうに行くなって指導してるのは、以前、丘の上に行こうとしてモンスターに負傷させられた受講者がいたからで……だから、ここに来る方法を知ってるか、偶然、その方法と同じことをしてしまった人しか、ここには来れないんです」


「来てしまう人は、いるんですね?」


「はい……でも、そういう人が出た場合も、彼らが保護して連絡してくれるから、私たちが迎えに来て、連れ帰って……だから」


「殺してはいないと?」


「はい。その……そこにいる人達というのは、幽霊?」


「幽霊です」


「そう……そうですか。だとしたらその人達は、異世界で死んだんだと思います」


「どうして? 保護されるって言いましたよね?」


「ここに来た人を保護する体勢――その体勢が、出来る前の話です。逆に、なんていうか……ひっく」


 泣きだした天津さんの話を、引き継いだのはスウェインだった。


「俺らの世界に、お前らの世界の人間が来た。逆に俺らの世界から、お前らの世界に行った奴もいる……そういう奴らがどうなったかは様々で……魔物に殺された奴もいれば、盗賊に殺された奴もいる。そして……悪さをして、捕まって、首をはねられた奴もな。そういったことがあって、お互いの世界の偉いさんが話しあい、いまみたいな体勢が出来上がったんだ。だから俺らじゃなく……俺ら以外の奴が殺したんだ。そいつらはな」


「でも、僕を殺そうとしましたよね?」


「言った通り、俺らの世界から、お前らの世界に行った奴もいる。その中には……」


「あなた方の仇が?」


「いや、俺らだけじゃない。俺らの世界の、生きとし生けるもの全ての仇――それほどの、大罪人だ」


「それが、バルダの末裔すえ?」


「いや、バルダ本人だ」


「そのバルダが、僕の祖父だと?」


「いや……それは違う」


「だったら、名前も知らない先祖のために、どうして僕が殺されなければならないんですか?」


「…………」


「……いいでしょう。では『見逃す』とは? さっき言ってましたよね? 合い言葉を言えば『見逃す』って」


 この問いには、泣き止んだ天津さんが答えた。


「私たちの仕事にスカウトできそうな人材がいたら、ここに連れてきて……適正を見て。その時点では、まだ異世界人かれらのことを教えるわけにはいかないから、口裏を合わせてもらうんです」


「天津さんの仕事って、なんなんですか?」


異世界人かれらとの連絡役です。ここで保護された人を迎えに来たり、彼らに依頼された――こちらの世界に逃げた罪人を捕まえて連れてきたり。頼まれた物資を手配したり」


「でも、それだけじゃ――なんていうか……それだけの関係じゃ、ないですよね」


「仕事相手と仲良くしたって――みんなで仲良くしたって、別にいいじゃないですか!」


「そうですね――では、僕は失礼します」


「え?」


 たたずむ彼ら――幽霊達を吸い込み、呑み込みながら僕は言った。


「あなた方が帰らなければ、あなた方の仲間の、誰かが迎えに来ますよね? だから――このまま、僕は帰らせてもらいます」


 そうして天津さんと4人の男達を残し、僕はその場を後にした。


 スマホには、こんなメッセージが届いていた。


 チョリ:そこから出る方法を送るね

 チョリ:脇道の数を数えて

 チョリ:2,3,5,7番目の脇道のどれかに

 チョリ:砂浜へ繋がるゲートがある

 チョリ:7まで数えてなかったら

 チョリ:1から数え直して

 チョリ:繰り返してたら

 チョリ:そのうちゲートが見つかる


 歩き出してすぐ、砂浜へのゲートがみつかった。

 知らない間にどこかへ行ってたどらみんや王子とも、途中で合流した。


「きゅ~」


 ゲートをくぐり、砂浜に戻ると。


 そこでは――


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