135.猫と久々の探索です(14)天翔るドラゴンズ

「さあ行こう無敵のどらみんよ! 見せつけてやろう――未来のおまえの、更なる無敵を!」


 飛び立つどらみんの姿を、僕はまず影で知った。


 僕の周囲を完全に覆い尽くす影はあまりに巨大で、大樹の真下にいるかのようだった。そして視界の隅に飛び込みまた去るのは振り下ろされた翼と、遅れて吹き荒れる風に含まれる魔力。


 見上げれば――高度は、すでに数十メートル?


 それでもまだ形を把握することすら難しい。大きさのほとんどは翼で、長さの途中からはきらきらと光る鱗に覆われていた。


「ごおおおおぉおおおおおおむ」


 唸り声は、聞いてるこちらの背骨まで揺さぶってくるようで、僕の周囲の砂が、振動で膝の高さくらいまで跳び上がった。


 メッセージが届いた。


 さんご:光。タイフーンユニットを起動しろ

 さんご:ここなら、あれが作れる


 あれ・・が何なのか、確かめる必要はなかった。


 腰のベルトを操作し、タイフーンユニットを起動する。回転する風車。吸引される魔力。狭い洞窟の中なら、風車の向いてる先の魔力を吸い尽くしていただろう。


 でも――僕は、海を見る。


 巨大なOF観音。巨大になったどらみん。どちらも、その姿を形作っているのは莫大な魔力に違いない。


 では、その魔力はどこから?


 仕組みは分からない。だけど、答えは分かっている。数学の試験なら×ばつがつく。途中の式が抜けてるからだ。それが正解になる理由は分からない。だけど、分かっていた。


 僕は、海を見る。


 海から吸い上げられる魔力には、風車に吸い尽くされる兆しなど全くなかった。吸い上げても吸い上げても尽きない、無尽蔵の魔力。


 だから、あれが作れる。


 OOダンジョン――あそこにあったダンジョンコアの魔力ですら数分間維持するのが限界だった、あのアイテムもここでなら作れる。


 龍族の勇者の鎧。


 さんご:ここの魔力量なら、フルオプションでの固着化すら可能なはずだ


 さんごの言う通り、ジョーカーユニットが作り僕の全身を覆う鎧には、以前とは違うオプション・・・・・が満載されていた。


 牙や爪をかたどった衣装はさらに禍々しくなり、黒い艶を放つ外殻はぶつぶつ恐怖症トライポフォビアを起こさないで済む程度の大きさの鱗で覆われている。


 そして一番大きなオプション違いは、これだ。


(あそこへ――)


 頭上の空の一点を意識すれば。


「ごぉう?」


 不思議そうな顔をする、どらみんの顔があった。凜々しくも猛々しい大人の顔になったその額には『ゲラム=スピ』なのだろう、銀色の珠が埋め込まれている。


 そのすぐ上に立つ王子も、どらみんに合わせて巨大化したのか、人間と変わらない大きさで、皮膚の質感も人間そのものになっていた。


 王子が言った。


「おう、ぴかりん――これはまたド派手なものを背負っているではないか!」


 僕は、頷くしかない。


 僕の――僕が着る鎧の背中には翼が生えていて、飛行が可能になっていた。


 もっとも僕自身は、それを見ることが出来ないのだけど、王子が言う通り、きっと『ド派手』なのだろう。悪目立ちしてないか、ちょっと怖い。


「では煩い小鳥は、どらみんが薙ぎ払うとして、小娘は任そう。あれの目当ては、ぴかりんのようだからな」


「はい!」


 OF観音――そこに潜む偽カレンに向かって、僕は真っ直ぐ飛ぶ。


 もちろん『鳥』が殺到するのだけど。


「さあどらみん――薙ぎ払え!」


 王子の声と同時に、無数の光がきらめき『鳥』を消滅させる。


 どらみんの羽から放たれた、鱗だ。


 近付いてみたら分かったけど、どらみんの巨大な羽のほとんどは、鱗とそれを繋ぎあわせる魔力の糸で作られていた。


 どらみんは、その鱗を飛ばして『鳥』を撃ち落としているのだ。


 それと同じ機能が、僕の鎧にも備えられていた。


(あれとあれとあれとあれ!)


 飛行する先にいる『鳥』に視線を合わせ、意識する。それだけで――じじじじじっ!


 花火の導火線みたいな音がして、鎧から飛んだ鱗が狙った『鳥』を撃ち落とす。飛んでいった分の鎧はすぐ再生されて魔力が消費されたけど、僕が取り込んだ――いまも取り込み続けている魔力に比べれば微々たるものだった。


 OF観音に向け加速して、数秒。偽カレンがどこにいるかは分からないけど(まずは喉――)そう考え、既にあと数十メートル。


『鳥』の間を潜って飛んできた『鎖』を「鎖!」で迎え撃つ。上達したつもりだけどまだオリジナルカレンのにはまだ及ばない僕の鎖だけど、鎧がパワーアップしてくれたのか、今回は押し負けることがなかった。


『鎖』はカレンのスキル『連鎖する鎖の因果チェーンリアクション』が出している。これで相手の攻撃を受け止めカウンターを喰らわし、そしてもうひとつのスキルで大ダメージを与えるのがカレンの戦闘スタイルだ。


 そのスキルとは――拳が、迫ってくる。


(『不純なる水銀アマルガム』!)


 OFダンジョンの拳が、濁った銀色の残像を残しながら、僕に叩き付けられようとしていた。


 当たれば、腐る。

 腐って、朽ちる。


 『不純なる水銀アマルガム』とは、拳にそういう属性を与えるスキルだ。


(……っ!)


 左手で放たれたそれを、僕は急旋回して避けた。


 飛沫くようなスキルの余波で翼の端が腐ったけど、すぐに再生された。


 でも、右手は無理だった。


 逃げようにも『鳥』と『鎖』で進路が塞がれている。突き破るのは容易いけど、僅かにでも時間がかかるなら、その間に拳が直撃しているだろう。


 巨大な拳に正対して、僕は――


「雷の龍咆《サンダー・ブラスト》!」


 雷のブレスを、放ったのだった。


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