125.猫と久々の探索です(5)丘の向こう

「ふぉっ!! うぉおおおおお!!」


 殺到した『手』が、鹿田さんに絡みつく。

 そして一瞬で、10メートル以上引きずっていた。


 丘に――丘の向こうにむかって。


「鎖!」


『鎖』を飛ばして鹿田さんを引き戻そうとしたけど、でもすぐ諦めた。『手』と『鎖』の綱引きで、鹿田さんが2つに千切られかねなかった――代わりにダッシュして、しがみつく。


鹿田シカッ!」

「っ!!」


 続けて蝶野さんと天津さんも。


「きゅー!!」


 どらみんも飛び込んで、鹿田さんを捉えた『手』を引き裂こうとする。でも駄目だった。ドラミンの爪は『手』をすり抜けて、ダメージ1つ与えられない。僕も同じだった。『手』を掴もうとした僕の手は、『手』をすり抜けて握り拳になるだけだった。


 気付けば、既に丘の下まで来てて。


 その頃には鹿田さんだけでなく、僕も蝶野さんも天津さんもどらみんも『手』に捉えられ。


 踏ん張って逆らう足は砂浜に轍を刻むだけで。


 そのまま丘を登り、丘を越え。

 

 僕らは、丘の向こうへと連れてかれたのだった。



「え? 消えた――けど、ここ、どこよ!?」


 と、蝶野さん。


 境目が、どこにあったかは分からない。


 気付くと僕らを捉えていた『手』は消え、同時に周囲の景色も一変していた。


「ここは……洞窟? フィールド型のダンジョン内に、洞型ダンジョンが同居している?」


「それって珍しいんですか?」


「皆無ですね……そんな例は、聞いたことがないです。洞型とフィールド型ではダンジョンコアからして違うんですよ。だから、洞型とフィールド型の同居なんて……ぶつぶつ……いや、そういうコア? 未発見の? それとも多重コア? いずれにせよ…………」


 考え込む天津さんは、放置することにした。いま考え込むのは思考を放棄するのと紙一重なのだけど、それで天津さんが落ち着けるなら無理に止めない方がいい。


 いま大事なのは、いったん落ち着くことだ。

 というわけで、深呼吸しながら、僕も辺りを見回す。


 辺りはさっきまでの砂浜から、一変して洞窟になっていた。

 いつも潜っている洞窟型ダンジョンと、変わらない景色だ。


『丘の向こうに行って帰ってきた人はいません』


 二瓶さんは、そう言っていた。これまで丘の向こうに行った人も、ここに来たのだろうか。だとしたら、この洞窟型ダンジョンから出られず、消息を絶ったということになる。でも、ここから出るってどういうことだろう? 砂浜に戻る? そもそもここはOFダンジョンなのか? どこか別のダンジョンに飛ばされた? それとも――僕まで考え込むことになりそうになったので、止めた。


 その前に、やるべきことがあった。

 僕は言った。


 光:さんご、聞こえる?


 とても長く感じられる数秒の後――


 さんご:ああ、届いてるよ


 良かった。

 さんごとの通信は、途絶えてなかった。


 さんご:さて、いま君がどんな場所にいるか知りたい

 さんご:ドローンが数台消えてるんだけど

 さんご:そっちに行ってるんじゃないかな?


 言われて見ると、ドローンが3台、僕らの頭上に浮かんでいた。

 あんな状況でも、僕らを追ってくれていたのだ。


 さんごの指示に従って、スマホからドローンの設定を変えると――


 さんご:よし……カメラを共有出来た

 さんご:なるほど。やっぱりそういうことか


 そこからは蝶野さんと鹿田さんの様子を見つつ、さんごの説明を聞いた。


 さんご:いま君がいる場所こそが、このダンジョンの本体だ

 さんご:海は、開発過程で使われる作業用エリアに過ぎない

 さんご:ダンジョンが完成した後は取り払われる予定だったんだろう。僕が生まれた頃には廃れてたけど、昔はダンジョン生成の定番手法だったらしいよ


 そうなんだ……

 でも、まだ海が残っているということは。


 光:じゃあOFダンジョンは、未完成ってこと?


 さんご:そうだね

 さんご:最初は、そういう趣向のダンジョンなのかもとも思ったけど

 さんご:外部モンスターの侵入程度でデバッグモードが起動してるところから、未完成だと確信した

 さんご:おそらく、工程の抜けが見つかったか何かで破棄されたんだろう


 言われてイメージしたのは、建築中のビルだった。

 建築中のビルの外側に取り付けられてる作業用の足場。

 あの足場が、さっきまでいた海であり浜辺。


 光:ということは……さっき通ったOFダンジョンのゲートって、もしかして作業者用?


 さんご:そうだね


 光:じゃあ、本来のゲートは他にある?


 さんご:そうだね……そうなるはずだった


 光:そうか……そこも未完成なんだね

 光:でも未完成なら、砂浜に戻れるよね?

 光:だって作業をするのに一方通行ってありえないから

 光:砂浜とこの洞窟は出入り可能になってるんじゃないかな


 さんご:その通りだ

 さんご:パスコードさえ入手できれば容易に可能だ

 さんご:今さんご隊にハッキングさせてるから

 さんご:終わったらすぐに連絡するよ

 さんご:それより先に

 さんご:彼らが教えてくれるかもしれないけどね


 彼らか……


 さんご:いずれにせよ、そう待たず移動は可能になる

 さんご:それまでの間なんだけど


 光:だけど?


 さんご:いまいる洞窟内を、探索してくれないか?

 さんご:ドローンを連れて歩き回ってくれればいい


 光:了解


 さんご:気を付けて欲しいのは

 さんご:もしゲートを見つけても、くぐるなということだ


 光:未完成だから?


 さんご:そうだ

 さんご:どこに繋がってるかも分からないし

 さんご:くぐった後、君が君でいられる保証も無い


 光:分かった


 さんご:それともう1つ

 さんご:もし君たち以外の奴らと出くわしたら

 さんご:そいつはゲートの向こうから来たということになる

 さんご:迷わず殺せ

 さんご:仮に意思疎通できそうな奴がいたとしても

 さんご:そういう奴の方が危険だ

 さんご:問答無用で殺せ


 光:彼らは?


 さんご:彼らは構わない

 さんご:どこに繋がってるか分からないゲートを通って来た、どんな世界から来たかも分からない連中とは違うからね


 光:分かった


 さんご:探索の様子は録画されるけど

 さんご:君以外の誰かが希望するなら

 さんご:配信してもいい

 さんご:ベストなのは、天津かな

 さんご:天津の判断で配信するのが望ましい


 光:勘ぐられないために?


 さんご:そうだ。この世界のダンジョンとスキルシステム――それを、作った奴ら

 さんご:それから、世間にね

 さんご:それと、さっき言ったことと矛盾するようだけど

 さんご:君は、最後まで殺すな

 さんご:殺すかどうかの判断も天津に任せろ


 光:うん……分かった


 さんご:責任逃れのためだけでなく

 さんご:君たちが生還するためでもある

 さんご:昨日の講義を思い出して欲しい

 さんご:君は『俗物』だ

 さんご:天津、蝶野、鹿田、そして君

 さんご:その中で君はそういうポジションにある

 さんご:そういう認識で、立ち回ってくれ


 さんごとの通信は、それで終わった。


 ●


 それから20分後、鹿田さんをリーダーにして、僕らは出発した。


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