第150話 靴問題

 今日も朝から珠が浮いている。3日目に成ると少し愛着も湧いてくる。名前をつけてやろうかな。


 触るとビリビリするからな。プラズマボール? 長いな。エレキテル? 平賀源内?

……銀紙噛んでビリビリするのはなんて言ったっけ……よし。


「お前の名前はガルバニーな。お前が何なのか分からねえけど。よろしくなっ!」


 そう珠に話しかける。


 当然、珠は無反応……あれ? ちょっとキラッとしたか? 一瞬だったからよくわからん。



 そして珠問題ともう一つ、最近気になっていることがある。

 転生時から履いていたビジネスマン向けのウォーキングシューズがそろそろやばい。あれだけ森の中を走りまくったのだから当然と言えば当然か。むう、この世界の靴ってどうなんだ? ゴム的な物なんて無さそうだしな……。



 事務所に行くと、モーザがすでに来ていた。スティーブはボストン農場の手伝いで一週間ほどの契約をしているのでしばらくは来ない予定だ。


「少しオヤジに聞いてきたんだが……」


 俺が事務所に来るとさっそくモーザが何やら印をつけた地図を見せてくる。その印は第三警備団の情報で魔物が多そうな場所などがピックアップされているようで、説明してくれる。

 魔物が発生する場所があるのか、魔物の群れが出る場所がある程度確認されているようだ。


「おおう、ありがとう。これは助かるな」

「他にも情報はあるみたいだけど親父もうろ覚えらしくてな、今度詰め所に行ったら確認すると言っていたからもしかしたらもう少し溜まり場があるかもしれない」

「なるほど……今度下見してみるか」

「今度? いや今日行かねえか?」

「それがな……」


 靴がボロボロで新しいのを買いたいと言う話をする。すると、モーザが店につれてってくれるという。良いのがあれば買ってすぐに行こうぜと。ほんと好きだな。まあ俺も外に行くのは楽しい系だけど。




 モーザの案内で冒険者向けの靴を置いている店に行く。靴と言ってもメイン通りなどにある靴屋はオシャレな金の持ってる人間向けの物しかないらしく、冒険者や警備団の御用達の靴屋が別にあるようだ。


 陳列されている靴を見ていると基本は革のブーツタイプだ。ハイカットの物からミドルカットくらいの物まで揃っているが、ブーツが基本。そして冒険者向けの必須なのか全てが安全靴のように先に保護プレートのような物を入れてある。

 保護プレートは、金属のものと魔物の甲殻を使ったようなものの二種類あり、魔物の生体材料の方が高い。


 店員は、俺の上を漂う珠に少し怯んだ感じを見せるものの流石に商売人だ。すぐに気を取り直し普通に対応してくる。足のサイズを測ってもらい、そのサイズのものを適当に見繕ってもらう。


 当然だが俺の靴はボロボロに成ってはいたがこの世界では珍しい作りなのだろう。ほおっと興味深そうに見つめていた。

 ちなみに俺の靴はメイドインジャパンの日星シューズのビジネスマン向けのウォーキングシューズだ。営業戦士が取引相手を探し歩き回っても足が疲れにくいようになっている。さらに俺の足は日本人でも際立って甲高幅広のため、このメーカーの足幅4Eの物ではないとなかなか合わないんだ。他の靴だと脚の横が痛くなってしまうのでかなり愛用をしていたものだ。当然プロの靴屋も俺の足幅の広さを見て顔をしかめる。


「もしかしたらかなり大きめの靴ではないと横が当たってしまうかもしれませんね……」


 微妙な違いかもしれないが、この世界の人間の顔などは日本人とはチョット作りは違う。かと言って白人系かと言えばそこまででもなくハーフ位な感じに思う。日本人特有の幅広足の人間ももしかしたら少ないかもしれない。


 実際サイズの合うものだと、痛い。特に安全靴的な硬質素材の部分なんて痛すぎる。それでいて痛くないのはだいぶ縦が長すぎてかかとがブカブカになる。ちょっと使える感じではない。結局職人にオーダーメイドで作ってもらうのが良いだろうという話になった。


 まあ、割と手作りの世界だからオーダーメイドは珍しい感じでは無いらしいが。すぐに靴が完成するわけでもなく、もうちょっとこのボロボロの靴を履かないとならない。



 この世界の靴は思った以上に出来が良い。魔物の素材の奥深さと言うか。いわゆる元の世界で言うゴム的な素材もあるんだ。何種類かソールに使われる素材があるようだが、特にビブラーとか言う魔物のベロがソールの素材としては最高品質として勧められた。

 たしかに実際に出来合いの靴を見てみたがかなりいい感じに思える。日本から持ち込んだ靴が駄目になったら……と言う不安はずっとあったが杞憂に終わったようだ。




 店の二階部分に職人さんが居るようで案内される。しつこいようだがココでも珠は注目を浴びてしまう。特に職人は接客をメインとしていないためかなり不躾に珠を凝視している。


「社長、この方の靴なんですが……」


 ん、店員さんが話しかけたのは社長さんのようだ。社長さんが職人で自分の店を始めたという感じか、他にも3人ほど職人は居るがお弟子さんのようだ。


 珠が気になっていたようだが、店員に言われ俺が自分の足を見せるとすぐに職人の顔に成る。何やら細かくサイズを測ったりしながらメモを取る。型でも取るのかと思ったがそうではないようだ。


「だいぶ珍しい足をしてるな」


 おおう……珍しい足とか言われたよ。確かに幅広甲高は否定できないがもうちょっとオブラートに包んだような表現できないかなあ。


「だがまあ、サイズは任せておけ。あとは素材だな。何か希望があるか?」

「走り回ることが多いんで、しなやかで丈夫なのがいいですね、あまり素材は詳しくないんですがある程度高い素材になっても構いません」

「ほう、若いのに金に糸目は付けねえか。お前がショーゴだろ?」

「へ? 知ってるんですか?」

「詳しくはしらねえがな、冒険者ギルドをかき回した黒目黒髪が居るって話は有名だぞ? 過去の勇者の生まれ変わりじゃねえかってな」


 まじか。どこで有名か知らんが。変な噂多そうで怖いな。ていうか生まれ変わりじゃねえし。まあ過去の勇者の革命も国をかき回したと言えばそうなるんか? 嫌だな。


 だが社長は「そんなボロ靴しかねえんだろ? 早めに作ってやる。」とぶっきらぼうだがなかなか嬉しいことを言ってくれる。


 それから打ち合わせをする。出来合いの靴や、俺の履いている古い靴を見せながら色々と注文をつけるとちょっと面倒くさそうな顔をするがあまり作らない型に興味を持ったのか「任せておけ」と受け入れてくれた。だいぶすり減ってはいるが俺の靴のソールの刻みのパターンにかなり興味深そうにしていた。


 ついでに普段履きに出来そうな、スリップオンというか、サンダルと言うか、まあク◯ックス的な形のサンダル? も図を書いて説明して作ってもらえないか聞く。そっちはあまり高級な素材は使わないで良いからと。図を見ながら親父さんは興味深そうに急ぎじゃなければ作ってやると言う。モーザが暇そうにしていたのでモーザとスティーブの分も頼んでおいた。


 靴が出来てくるまでもうちょいかかりそうだが。まあ暫くは今の靴だな。色々ほつれてきたりしてるが使えないわけじゃない。モーザが出かけたがっているので調査に出かけるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る